カミツキビト

シャリ

第1話   夢

とおりゃんせとおりゃんせ

ここはどこのほそみちじゃ

てんじんさまのほそみちじゃ

ちぃととおしてくだしゃんせ

ごようのないものとぉしゃせぬ

このこのななつのおいわいにおふだをおさめにまいります

いきはよいよい

かえりはこわい

こわいながらもとおりゃんせ

とおりゃんせ



 最近、同じ夢を毎日のように見ている。

満開に咲く桜並木の中に大きな鳥居があり、

その鳥居の前に俺は立っている。


 夢の中だからなのか、ここでは身体の自由が効かない。

 ただ、ひたすらに鳥居の向こう側を見つめているだけ…。



 (またか…。)

 今日もまた同じ夢を見ている。


 ただ、今日はいつもと違い桜の花びらが多く舞っていた。


 (今日はやけに桜が舞っているな…ん…?)

 俺はこの夢を見るようになってから今までにない違和感を覚えた。

 (今、人影が…。)

 人影の正体を確認しようと目を凝らした刹那、激しく舞い上がった桜の花びらが、俺の顔を覆った。







「睦月〜!起きなさい!」

 母さんのうるさい声で、不思議な夢から現実の世界に戻された。

 ゆっくりと起き上がり、枕元にあるスマホを手に取る。

 電源を入れると、すでに時刻は昼の12時を過ぎていた。


「バンッ」

 勢いよく自分の部屋の扉が開けられた。


「あんた、いったい何時だと思っているの!」


 鬼の形相で睨んでいる母さんを、まだ完全には覚めていない目で見上げる。


 「はぁ…、あんたねぇ、何があったか知らんけど、急に大学を休学して家に帰ってきたかと思えば…毎日、毎日寝てばっかりで…。少しは家のことくらい……。」


  (あー、また始まってしまった…。)


 そう、俺は大学を休学して今に至る。

休学して実家に帰ってきてからは家の手伝いを極稀に、あとは他所の家の畑や田んぼを手伝っていた。


 実家は、超がつくほどのど田舎だ。

レジャー施設は無いし、ショッピングモールは車で1時間かかるところにある。

 故に手伝い以外にはほとんどやることがない。


 「ちょっとあんた聞いているの!?」

 「はいはい、分かりましたよ…。」


 面倒くさそうに返事をする。


 「はぁ、今日は大晦日だからみんな忙し…。」


 「結衣子さーん?」


 突然、一階の玄関から母さんを呼ぶ声が聞こえてきた。


 「っもう! はーい!」


 母さんはまだ何か言いたそうな目をしていたが、玄関へと向かった。

 

 「ふーっ、起きるか…。」

 布団を畳み、着替えて一階へと向かう。


 階段を降りていると玄関の方から母さんの声が聞こえてきた。


 「おばあちゃん、もう山に行くのはやめなって。」

 「でもねえ、"しきたり"だし、"私が" 行かないと…。」


(ん? ばあちゃんか…。)


母さんの話し相手は、巫女服を身に纏ったばあちゃんだった。


 「"しきたり''って言っても、迷信みたいなものじゃないですか…。もう、来年で古希なんですよ?

山で何かあったらどうするんですか!」


 母さんの言うことはもっともだ。


 ばあちゃんが行こうとしてる山には、俺の家のご先祖様が大昔から管理している神社がある。


 昭和の初期頃までは参拝客が多くいたらしいが、今ではほとんどいない。徒歩でしか行く手段がないからだ。



 こんな現状でも、ばあちゃんは家の"しきたり"にしたがい、ずっと神社に通い続けてる。


 「う〜ん、でも今日は大晦日だしねぇ、お酒を…。」

 「おばあちゃん!ダ・メです!」

間髪入れず、母さんの駄目出しが入った。

 「そんなに心配でしたら、私も今度一緒に行きますから!」

 「う〜ん、仕様がないね…。」

ばあちゃんは山を見つめながらそう答えた。


 母さんに強く言われ納得したようではあったが、山を見つめるばあちゃんの顔はとても思い詰めたような顔をしていた。




 (昔から気になってたけど、"しきたり"って、ばあちゃんは何をしにいつも神社に行ってんだ?)


 ふと、疑念を抱いた…。










※カミツキビト、読んで頂きありがとうございます。

感想、批評、レビューを頂けたら幸いです。。。


















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