第71話 電車内でのこと
「だから、赤の他人に思えたんです」
電車内。対面式の座席に、俺と百合香ちゃんが向き合って座っている。
俺たちは
「そうなのか」
『次は、
女性の声のアナウンスが電車内に響く。隣のオッサンは尋常じゃないくらい酔っぱらっていて、顔を
電車はとっくに
「アニメのキャラクターに本気になってた自分がバカでした。架空の世界の赤の他人なのに、私は勝手にキャラクターと仲良くなってたんです」
「それは……」
アニメが素晴らしいから。
そう言おうとしたけれど、それが分かっているから百合香ちゃんはこんな風になってるわけで。俺は口をつぐんだ。
電車は何事もないように俺たちを運ぶ。ふと意味もなく横を見ると、茹蛸のオッサンはいつの間にかいなくなっていた。降車したか、トイレで吐いているか。
『次は、
「お兄さん」
「なんだ?」
俯いていた百合香ちゃんが、急に顔を上げた。
コバルトブルーの瞳は笑っていないけれど、きらきらと潤み、綺麗だ。
「死にたいとか言って、ごめんなさいっ」
いきなり立ち上がり、頭を下げる。セミロングの髪の毛が、ファサッと激しく舞った。
「そんな。頭上げてくれよ。死にたいって思ったことくらい誰にだってあるしさ」
「聞きたくもない本音聞かせちゃって、本当にごめんなさいっ」
「……あ、ええと」
本音だったのか。つまり、本気だってことか?
「とにかく頭を上げて。ほら、乗客に見られるから」
とはいえ対面式の座席だから、衆目に晒されにくい構造だ。ふと横を見ると、別の酔っ払いのオバサンが座席に寝転んでいた。が、何も気づいてないっぽい。
「な、百合香ちゃん」
真っ正面に突き付けられたつむじを指で二回撫で回し、軽く突く。
「きゃっ」
どさっ
「あ、ごめん」
座席に倒してしまった。めちゃめちゃ軽く突いたんだけどなぁ……
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