第297話 計画の第一段階
特定人物引抜計画的、この計画における特定人物とは勿論、彼のことである。
これは彼が強大な力を手にし、未だなおその力を増大させていることからこの計画は発案された。
以前、彼女が作った草案を元に実は水面下で具体的な計画を練っていたのだ。
その一部が今日、実現することになる。
……らしい。
正直なことを言うと、私はその計画の作成に全然関わっていないのだ。むしろ丸投げしてしまった、と言う方が正しいだろう。
それでその計画を作ってくれたスタッフから今日、というかもうすぐその計画が実行されると言うのを聞いた訳だ。
だが、邪の祠最下層で行われるのはその第一段階にすぎない、とも言われているため、どうなるのか期待半分、不安半分、と言った所だろうか。
にしても我ながら強くなりすぎた彼を引き込むというのはなかなか斬新で突飛で大胆なアイデアだな、と思う。発案が私だったか彼女だったすら定かではないのだが、上手くいけばかなり面白いことになると思う。
ただ、彼を完全にこちら側に引き込むわけではない、つまり雇用関係になるわけではないから、しっかりとしたメリットを提示できなければ作戦は上手くいかないだろう。
どうやらこのシナリオでは、新たな力を授ける、という形でメリットを提示しているようだ。しかも邪神に与する形式になって、だ。確かに男の子なら強くなれると聞いて、悪の組織に関われると聞いてワクワクしない者はかなり少ないのではないだろうか。
さらに、この場所、無響の間の外にはこのシナリオをスムーズに進める為の潤滑油となる説明役が配置されている。それは彼と同じ職業の破戒僧である爺さんだ。彼の悩みに答えいく末を指し示してくれるのだ。
この無響の間及び邪の祠での役割というのは、まず彼をプレイヤー勢力と敵対させることにある。つまり、彼に悪役になってもらおうというわけだ。
自分たちと同じように強くなっていく敵を倒さなければならないプレイヤーには同情を禁じ得ないが、それと同時にやりごたえはものすごくあるだろう。なんせ全クリという概念が完全に消失するわけだからな。
もはや何をもって全クリとするのかすら怪しくなってくるが、強者と戦いたい、より強くなりたいという者にはうってつけの環境であろう。
おっと話が少し逸れてしまった、今は彼がここで与えられる邪の力について説明をしておこう。此処ではそこにいる爺さんに教えを乞うことで心界支配なる強力な技を獲得する、為のヒントが教えられる。実際に使えるようになるには個人の努力が必要となるようだ。
まあ彼のことだからすぐにでも獲得するのだろうな。
此処までの話を聞くと、いかにも我々運営が彼に肩入れをしているように思えるだろう。だが実際は違う。いや、正確にはまだしていない、という方が正しいだろうか。
彼の観察を注力して行っていることは認めるが、現段階では彼には特別なことはしていない。他のプレイヤーでもここ、邪の祠最下層まで来て、条件を満たせば同じような結果になるだろう。
つまり、彼を引き抜く計画、特定人物引抜計画的が本格的に発動するのは次のイベントなのである。
そこで彼には特別な地位についてもらって、華々しいデビューを飾ってもらう。いわばこれはその為の下準備といってもいいだろう。
さあ、彼はプレイヤーたちに仇なす存在としてどのような行動を取ってくれるのだろうか。よし、
「蕎麦でも食べにいくかー」
「え、蕎麦ですか! 私もちょうど天ぷらが食べたいと思ってたんですよねー! 一緒にいきましょう!」
私の呟きを目ざとく、いや耳ざとく聞きつけた彼女はそういった。
いや、私が食べにいくのは蕎麦なんだがなー。私はその言葉をグッと抑えて財布の残り体力を確認した。
——————————————————
昨日と今日の二日にかけて書いたので前半と後半で少し毛色が違っているかもしれません、お気になさらずに。
皆さんは天ぷらとフライ、どちらが好きですか?
私はつゆが好きなので天ぷらです、いやでもソースも捨てがたいな……
そんなわけで、どうか♡を押してくれる人になっては下さらないでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます