第295話 壁塞
「それで次の階層はどんな場所だったんだ? それにしてもこのダンジョンかなり長いな。帰らずの塔、とまでは行かないが、島の部分から考えればかなりの大きさだ。あとどのくらいあるのだ?」
私は何の気無しにこの言葉を発した。しかし、彼女から帰ってきた言葉は私の予想を遥かに超えるものだった。
「後、どのくらい、ですか。なんと次の層でこのダンジョンは終わりなんです!」
「え、終わり!?」
まさか終わるとは思っていなかった。終わるにしてももうあと何層か続くものだと思っていたし、何よりコレでは私が最後まで我慢できずに聞いてしまったみたいで少し癪だ。
「ですが、最下層というだけあって、今までとは大きく、いえ、かなり毛色が違ったものとなっております」
大きくとかなりにどれほどの差があったのか私は知る由もないが、それでも彼女からただならぬ雰囲気を感じ取った。私は彼女からよく鈍感であるだの、察しが悪い、だの謗られることがあったが、——私は断じて認めていない——そんな私でも感じ取れるほど雰囲気が変わったのだ。
コレは相当ヤバい何かが最下層には眠っているのだろう。
「それ程までに強いのか?」
私は思わずそう口に出さずにはいられなかった。とうとう彼が苦戦するほどのモンスターが現れたのだと思ったのだ。これまでのダンジョンの難易度を考えればそれは飛躍しすぎた考えでもないと思う。それ程までにこのダンジョンは鬼畜で性格が悪く、何より難しいと感じていた。
しかし、彼女の返答はまたしても予期していたものとは異なった。
「えーっと、強いっちゃ強いんですが、それとはまた別の問題があるんですよねー」
彼女は彼女にしては珍しい煮え切らない態度を取った。そして、その態度は私に更なる興味を与えた。だが、ここで急かすのも良くないと感覚的に分かってしまったので、私は彼女の次の一言を待った。
長くはない空白の時が流れた後、彼女は徐に口を開いた。
「まず、順序立てて説明しますね。彼が次の階層へと歩みを進め、階段を降りると彼は四方八方を壁で塞がれてしまいました」
「壁で、塞がれる!?」
「はい、それもかなりの強度を誇った壁に、です。勿論、彼は脱出を試みようとします。色々な方向で壁の破壊をしようとしますが、どれもうまくは行きませんでした」
「ほう、」
私は落ち着いて情報を整理し引き続き彼女の言葉を待った。私としてもあまりに情報が足らなさすぎる。
「そして、彼はそこから出られないということを悟りました。その時、彼が何を考えていたのかはわかりませんが、彼の内側へと思考が向いていたのは間違いないでしょう。この空間は無響の間と言って、彼以外の全ての情報が遮断された空間なのです」
「無響の間……」
「はい、つまりはどう足掻いても彼自身に意識を向ける内省しかすることが無いよう、設計されているのです。本来ならばここで多くのプレイヤーが脱落します。ここから抜け出す方法はただ一つ、無響の間を響かせること、です」
「無響の間を響かせる?」
正直、少し前から彼女の言葉を重ねることしかできていなかった、それほど脳のキャパシティを情報整理に当てていたのだが、最後の言葉は本当に訳が分からなかった。
そして、そんな私が絞り出した言葉は……
「ど、どうやって?」
という、如何にもチープでありふれた、されど聞かずにはいられなかったものだった。
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この話の基になった話を書いた頃の私は傲慢にも読者にヒントなるものを与えていたそうなのですが、そのヒントが分からなくなるという……
幸い、すぐに答え合わせをしてくれたのでなんとかなったのですが、これでいいのでしょうか?
また、この話をして特に感じたのですが、私は直近に触れた作品に大きく影響を受ける癖があります。それは内容の時もあれば、文体である時もあります。
いつもは内容に影響を受けることが多いのですが、最近はよく小説を読んでいることもあってか文体にまで影響しちゃってる気がします。まあ、皆様に違和感がなければ何言ってんだコイツ、とでも思ってくだせぇ。
というか、恥ずかしながら自分語りをしすぎてしまいました。どうかお許しください。
あわよくば♡もいただけると嬉しいです。
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