第288話 配合の結果


「いやー彼も大胆ですよねー! まさか鮭を授魂して奪魂するとは流石に思いつきませんよー」


 彼女は素晴らしく明るい笑顔でそう言った。いや、確かにそうだな。鮭を配合させて品種改良など普通じゃ思いつける筈もない。


「そ、それでどんな鮭が生まれたんだ?」


 私は興味本位で尋ねたつもりだった。現実世界では到底行われないであろう所業に、私の好奇心が抑えられなかったのだ。


 しかし、帰ってきたのは彼女の悪い笑みであった。


「やはり、気になりますか?」


 ニヤァ、と漫画かアニメであればその様な擬音がつきそうな表情を浮かべてそう言った。


 まるでその表情は悪いことする少年を咎めるような顔であり、少し小馬鹿にされている様にも感じた。


「む、気になってはいけないのか?」


 そして、向きになってしまった。気づいた時にはもう手遅れだった。


「ぷっ、ぷぷ、ぷぷぷぷぷ! もうもうお子様じゃないんですからそんなに向きにならなくてもー! それとも、そんなに気になっちゃいました?」


 くっ、もう少し、もう少しだけ自制心があったならばこんな恥辱を受けずに済んだのに。あぁ、私はなんて未熟なのだろうか。


「はぁーあ、面白かった! 別に隠すことでもないし教えますよ?」


「ほ、本当か?」


「本当ですよーここで嘘ついてどーするんですかー!」


「そ、そうか……」


「そーですよ! まずは一つ目ですね。彼は紅鮭と白鮭を掛け合わせてピンクサーモンを作ってしまいました!」


 ん、ちょっと待てよ色々と突っ込まなければならない箇所があるんだが?


 まず一つ目とは? そんな何体も作っちゃってるのか? あと、ピンクサーモンってもう既にいらっしゃるのでは?


「ゴホン、先輩の言わんとしていることは分かります。ピンクサーモンってもういるだろ、ってことですよね? 勿論私もそう思いましたよ。しかし!」


 私が質問しようとした瞬間、まるで心でも読まれていたかの様に彼女に先回りされてしまった。この人読心術つかえるのか?


「しかしですね、現実世界の方のピンクサーモンはカラフトマスの一つの呼称に過ぎません。それに対して彼が生み出してしまったものとは、紅鮭と白鮭の間の存在、まさしく桃鮭とでも言うべき全くの新種の存在なのです!」


「う、あ、うん。へぇー」


「ですが、勿論これで終わるはずもありません。彼は全てのパターンを試した結果、物凄いものを誕生させてしまったのです!」


「物凄い、もの?」


「はい。パターン、組合せというのは勿論二種類だけとは限りませんよね?」


 確かに、授魂と奪魂の仕様からして、無意識に一対一の組合せばかりを想像していたのだが、新種同士を配合すれば更に新種が生まれることになる。


 ん、ま、まさか……!?


「そう、そのまさかです! 彼は全部盛り、名付けてピンクアトランティックキングサーモントラウトを生み出してしまったのです!!」


「な、なんだってーーー!!??」









—————————————————————————

この配合は失敗がないだけ随分とマシですよね。


まあ、やったことはないんですが。


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