第190話 彼女の集中
「彼をこちら側に引き入れる計画、ですか。最高に面白いですね! 敵だった奴が味方になる展開ほどアツいものはないでしょう!」
ん、なんか思った以上に彼女がヒートアップしているのだが、大丈夫だろうか? ああなった彼女を止められる者を私は知らないし、その結果できたものに対して好印象だったことも一度もないと思うのだが……
「まず、彼をこのゲームに組み込むとなれば、やはりエンドコンテンツ以外考えられません。となると、現在のエンドコンテンツ候補であるのは悪魔や天使たちです。悪魔は人間界に潜んでいますし、天使たちはいつでも攻め込む準備はできております」
「お、おう」
喋るスピードが猛烈に速い。これは誰かに聞かせているのか、それとも独り言なのかが分からないな。だが、どちらにせよ聞いていなければ置いていかれるのはこっちなので、全集中して耳を傾ける。
他の社員も皆一様に耳が傾いているようだ。
「ですが、今の彼はすでに何体か悪魔を倒しています。しかも初討伐は階級が低いとはいえ、かなり前の出来事です。ということは今現在はおそらくかなりの階級まで倒せるはずです。同様に天使もなんなく倒せるようになるでしょう。ということは彼は悪魔や天使を使って強化していくことになりますよね」
今気づいたのだが、彼女は敬語を使っている。ということはやはり我々に向かって話しかけているということだ。となると、絶対に聞き漏らすわけにはいかない。
でも、もう少しだけテンポを落とすか、ボリュームを上げて欲しい。こう思っているのは私だけではないだろう。
「だから、彼の成長は考える必要はない。むしろ、他のプレイヤーが彼に置いてけぼりにされすぎないことの方を懸念しなければならない。彼があまりに強くなりすぎて、クソゲー認定されるのも不味い」
ん? 彼女が急にタメ口になったぞ? これはどういうことだ? つまり我々に向けて話していたのだが、独り言にシフトされたということなのか?
だが、声量やテンポは何一つ変わっていない。となれば、彼女は人に向かって話す時も、独り言も全部同じ声量である、ということになってしまう。
しかし、普段の声量を私は知っている。それと比べれば……いや、でも彼女は極度の集中状態に入っている。今だけの、例外なのか?
「他のプレイヤーを育てるには、普通に経験値イベントを開催しまくればいいんじゃないですか? 彼はあまりイベント等に積極的に参加しているイメージがありませんし、そうすれば彼との明確な差を埋めることができるかもしれません!」
ん!? また敬語に戻ったぞ? これはどういうことだ? ますます意味がわからんぞ? 彼女は一体どうなっているんだ?
「いや、それは希望的観測でしかないだろう。現に彼はイベントに出場している。彼がどんな線引きをしているかはわからないが、一度しか出たことがないのと、一度もないではだいぶ話が変わってくるだろう。仮に一度もなかったとしてもこれからは参加することだってあるかもしれないのに」
ん、なんかもうむしろ男の人が喋ってるんじゃないかとすら思えてきたぞ? もう諦めよう。彼女の話の中身に集中だ。
「そうですね……ならば彼の動きに逐一注目して、彼が絶対不参加と断定できる時にイベントをゲリラ開催するのはどうですか?」
「いや、彼の移動速度を舐めてはいけない」
「ではこうするのはいかかでしょう?」
「いや。それは………」
彼女の一人会議は真夜中まで続くのであった。
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