第185話 無茶苦茶


「彼が獲得した称号から説明しますね。称号の名前は克己者、自分に勝利することで手に入る称号のようですね。これによって分身というスキルを手に入れた、みたいです」


 いやいやいや、克己って別にそんな物理的なことじゃないだろう? 自分の弱いところに打ち勝つ的な意味だろう? ……それだと一応当てはまるのか。


 って、それで分身って、強すぎないか? 自分を倒したことでもう一人の自分を獲得できるって。まあ、どことなく理にかなっているような気もしなくもないが、無茶苦茶だ。


「ん、これって一人でジャンケンはできるのか?」


「え、分身のスキルを聞いて最初に気になるのそこですか? 先輩ってそんなにジャンケンがしたいんですか? それならジャンケンプログラム作ってあげますけど?」


 後輩にジト目をされながら、そんなことを言われてしまった。それは気になってしまったのだから仕方がないだろう。気になったことはすぐに答えが知りたくなる性分なのだ。


「ま、確かに気になりますね。少しやってみますね」


 そう言って彼女は試験室に入っていった。試験室は、このゲームと全く同じ世界を一人で体験できるというとても贅沢な空間なのだ。そこでデバッグをしたり、新要素の検討をしたりしている。


 ❇︎


「ふぅー、先輩できませんでしたよ。分身に命令させることはできますが、それだとジャンケンっぽいことはできますが、相手が出す前にその手がわかってしまうので、ジャンケンとしては成り立ちませんね。また、記憶、情報のリンク度合いも結構高くて、全然戦闘用にできるくらいでしたね」


「そ、そうなのか。わざわざ調べてくれてありがとう」


 この短い時間の間で、とても詳しく調べてくれたようだ。そして付属情報もわかったことで、このスキルは彼の戦力になりうることが分かったな。


 まあ、分身が強くないわけないのだが、それにしても思ったよりも高性能の分身のようだ。


「あ、そうこうしている内に彼がもう次の階層に進んじゃいましたね。全く、彼は落ち着きがありませんね」


 ん、これは落ち着きの問題なのか? むしろ彼は刺されても毒を喰らっても溺れても落ち着いていた方だと思おうのだが……?


「え、なんか彼無茶苦茶なことしてますよ?」


「ん、無茶苦茶なこと?」


「はい。次の階層はなんと真っ暗なステージだったんですよ。ですが、そのまま彼は気配と勘だけで進んでいきました。すると暗視、というスキルを獲得して視界を確保することができたのです」


 ん、彼はスキルが手に入りやすくなっているからそれくらいは、当たり前とまでは言わないが、よくある話じゃないのか?


「ですが、彼はここで終わりませんでした。暗視を貫通して更に攻略を進めることで、なんと闇視という暗視の上位スキルを手に入れてしまったのです!」


「お、おぅ……」


 それは無茶苦茶すぎるだろう。

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