[02-07] 偶然の大発見

「ギャギャーッ!」


 わたしの存在に気づいたゴブリンそれぞれが、ライフルやらリボルバーやらを構えて――殴りかかってきた!? 撃つんじゃなくて!?


 飛び跳ねるゴブリンたちに対し、わたしは〈ケルニス67〉の連射で応戦。


《スキル〈拳銃 Lv3〉が発動しました》


 ぱぱぱん! 草むらにゴブリンたちの赤い鮮血が飛散した。


 ギャング団との戦いを経て、銃の扱いがうまくなったのを実感。


 トリガーは引いたまま、もう片方の手でハンマーを起こす。リアルにも存在する連射テクニック、『ファニングショット』ができるようになったのである。


 全弾撃ち尽くした後はゴブリンから逃げ回りながら、


《スキル〈高速装填クイックリロード Lv1〉が発動しました》


 文字どおり、装填動作を高速化してくれるアクティブスキルである。


 これが極まってくると、シリンダーをぎゅるんと回転させたまま弾丸をじゃらじゃら流し込むような動きになるのだとか。


 ぱちん、とローディングゲートを閉じ、マントを翻して背後を振り向く。


 と、ゴブリンたちの銃から弾丸が放たれた。

 でも、軌道は明後日の方向。ラカが言っていたように、下手っぴである。……この数で上手だったら困るか。


 お返しに発射したわたしの弾丸は、一直線にゴブリンの体へと吸い込まれていく。


「ギャッ!?」


 うんうん、様になってるぞ、わたし。


「って、わぶっ!?」


 ゴブリン・シップの周りに立ち込めた黒煙に突っ込んでしまったのだ。


 船内で保管されていた火薬にも火が移ったのか、断続的に小規模な爆発が起きていた。そのたびに煙が横穴からぼふっと吹き出す。


 全身煤だらけのゴブリンが必死に這い出てくる。こうなるとちょっと可哀そうな気もするが――


 船上に立てられたいくつもの槍に、人の頭蓋骨が串刺しにされている。

 犠牲者が大勢出ている以上、これはもう、生きるか死ぬかの闘争でしかないのだ。


 第一、わたしに手加減する余裕なんてない。


 ゴブリンは命ある限り追ってくる。まさに悪鬼の形相。単純なAIであるということは、裏返すと、ひとつの行動にかける執念がものすごいということである。


 足を止めたら、地面に引き倒される!

 ……というのはわたしに限った話。


「ギャッ! ギャ……ギャッ!」


 別のところでゴブリンたちが喚いている。


 ラージシールドを構えたチェスティさんが、じりじりと敵ににじり寄る。ゴブリンからリボルバーの弾丸を受けても、体を覆い隠す盾はびくともしない。


 周りに散った火花を振り払うように、チェスティさんは盾を開く。


「しゃらっさァ!」


 豪快なかけ声とともに、ショットガンをぶっ放す。

 ばすんっ! ゴブリンたちは散弾に体を斬り刻まれ、勢いよく吹っ飛んだ。


「ギュギュッ!」


 盾を奪おうと跳びかかってきたゴブリンに対しては、


「ふんぬるァーっ!」


 そんなに欲しけりゃくれてやるとでも言わんばかりに盾で思い切り殴打。


 顔面を陥没させられたゴブリンは大の字に倒れ、びくんびくんと手足を痙攣させた。


「ギッ、ギッ……」


 チェスティさんの真似をして、船の残骸から取ってきた板を盾にするゴブリンまで現れた。


「はっはっは! 無駄むだァ!」


 チェスティさんはショットガンの重さを利用し、片手だけでレバーを操作。空薬莢を排出し、次弾を薬室へと送り込む。


 再び、銃口から火が噴いた。

 散弾はあっさりと木の板を貫通し、身を守っていたゴブリンを容赦なくハチの巣にする。


「我が愛銃〈竜鱗砕きスケイル・シュレッダー〉に穿てぬ物なし! その程度で身を守ろうとは片腹痛し! 大人しくあの世に召されるがよろしッ!」


 ……さりげなく即興で韻を踏んでいるし。いえあちぇけら。


 ともあれ、ああいう戦い方ができるのは防御手段があってこそ。


 わたしの場合は、それが足になる。

 敵を引き連れ回し、チャンスと見たら一気に反撃! まさに、オオカミが獲物を狩場に誘い込むがごとし。自画自賛。


 敵の数が減るにつれて一撃離脱の負担も軽くなっていく。ゴブリンの動きにも慣れてきて、ほぼ処理モードに入っていった。


 相対したときは困難に思われたけれど、ゴブリン・シップ撃破に要した時間は二十分程度だっただろうか。


 ついには散り散りに逃げ出したゴブリンをラカが追撃する。

 わたしとチェスティさんは、船内に生き残りが隠れていないかを確認していた。


 この時点で、わたしのレベルは15に成長していた。


 戦闘に使った〈拳銃〉や〈高速装填〉のスキルはもちろん、敵生物の急所を表示してくれる〈生体理解〉も伸びている。身のこなしに関わるスキルももりもり育った。


 いやあ、順調順調――

 と言いたいところだけど、不満もある。


 今回みたいな距離を取る戦い方だと、近接戦闘時に効果を発揮する〈アマルガルムの止渇サースト・オブ・アマルガルム〉が機能しないのだ。


 ということは、アマルガルム族が持つ特徴を捨てて戦っているようなもので。


 ……うーん、たまにはナイフ戦を挑むとか? でも、それをやるには相手の力量をずっと上回っていないと――


 なんて考えていて、注意散漫になっていたのだろうか。


「ギャッ!」


 崩れた木箱の陰から、ゴブリンが飛び出してきた! 手には鋭い短剣!


「わっ!?」


 反応が遅れた。わたしは慌てて体を仰け反らせ、突撃をぎりぎりのところで躱す。


 ゴブリンは素早く反転し、今度は短剣を振り回してきた。


 避けて! わたしの思考に反応した体が、咄嗟にバックステップを実行。


 しかし、ここは狭いゴブリン・シップの中。その上、物が放り出された空間だ。略奪品らしき硬い瓶を踏みつけ、どしんと尻餅をついてしまう。


「ふぎゃっ!」


 お尻に鈍い痺れが走り、ゴブリンみたいな悲鳴を上げてしまう。

 でも、わたし、偉い。しっかり握り締めた〈ケルニス67〉をとにかくゴブリンに向けて発砲する。


「ギャフッ!」


 至近距離で胸を撃たれたゴブリンは、ひっくり返るように倒れた。


 ……死んだふりじゃないよね? わたしは慎重に立ち上がり、そっと足で蹴ってみる。反応なし。


「危なかったぁ」


 心臓がどくどく脈打っている。もう大丈夫だよ、と自分の胸に手を当てて深呼吸する。


 ううん、これ、リアルの動悸じゃない。『ネネ』が何かに反応している。

 そこでわたしはログの表示に気がついた。


《タレントスキル〈アマルガルムの止渇サースト・オブ・アマルガルム〉が発動しました》


 あれ。さっきはリボルバーで倒したよね。ナイフじゃなくて。


 これは何かの間違いバグで発動してしまったのだろうか。……それとも、ちゃんとした仕様? わたし、『近接戦闘』の意味を誤解していた?


 再び考え込むわたしのオオカミ耳に、チェスティさんの声が届く。


「ネネ殿ーっ! 無事でするかーっ!?」


「あ、うん! 生き残りがいたの! こっちはもう大丈夫!」


 この発見については、後でラカに相談してみよう。

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