にわかファン
「あの!」
高崎がなんか見覚えのある人を発見し思わず声をかけると、その人物は立ち止まった。
「すみません! 突然に声をかけてしまって!」
「ああいいですよ」
男性は急に声をかけた高崎に対し笑顔で応えてくれた。
「最近テレビでよく見るひとですよね!?」
「まあ最近盛り上がってるからね」
「え~と。なんでしたっけ!?」
「え、なにが?」
「アナタが出ていたスポーツです。喉元まで出てきてるんですけど」
「・・・ラグビーだよ」
男性が少し懐疑的な目線で高崎を見た。
「あ、そうそう! それ!」
「それって・・・」
「俺最近ファンになったばかりのにわかなんです! あなたのことずっと前からではなく最近気になってました!」
「それでも嬉しいですよ」
「ルールとかよく分からないですけど、なんかすごかったです! どうすごいかって言われると応えるのが難しいくらいすごかったです! にわかに自分が活気づいてるのが分かりました! あ、それでお名前はなんていいますか?」
「斎藤です・・・」
急にトーンを下げて聞く高崎に斎藤選手も内心あきれていた。しかも名乗ったのに高崎はなにか想い出すように首をかしげていた。
「さい・・・いましたっけそんな人?」
「いたよ。ちゃんとプレーしてたから」
思わずツッコんでしまった。
「あ、そうなんですね! やっぱりなんか見たことある人だと思ってたんで」
「・・・まあでも見てくれて嬉しいよ」
「いえ僕はもともと全っ然興味なかったですけど友人が最近ブームみたいって教えてくれたのが始まりなんです。あ、ちなみに友達はもうブームが去ったみたいですけど」
「ええ~。まだ大会期間中ですけど~」
ますます困惑する斎藤選手。
「ファン歴はまだ1週間の超浅めのファンで知ったかぶるほどの知識も全くないですけど今はミーハー!ですよ」
「そんなヒーハー!みたいに言わなくても・・・あ、せっかくだし良かったらサインいる?」
「え、いいんですか佐藤さん!?」
「斎藤ね・・・。まあサインで熱心なファンになってもらおうって下心がないわけではないけどね」
「あ、でも今色紙もペンも持ち合わせてなくて・・・」
「ペンはぼくが持ってるから」
「じゃあ手のひらにお願いします」
美味しそうな料理を前に掌をこすり合わせるような仕草を高崎はしてそして手を差し出すとその手を見て斎藤選手は眉をひそめた。
「手のひらって・・・家帰って洗ったら落ちちゃうじゃん。今着ているシャツの上にでもいいんだよ?」
開いた制服の下に着こんでいる真っ赤なTシャツを指さして言ったが高崎は即効で手を振って拒否する。
「それは落ちなくなるんでいいです」
「・・・きみ、にわかだとしてもホントにファンなの? まあ手のひらに書くけどさ・・・。右手に書く?」
「あ、右手は利き手なんで左手にしてください」
「・・・分かったよ。はい書いたよ」
斎藤選手はあきれ果てたが掌にサラサラと英語の筆記体を崩した自分のサインを書いてあげた。
「ありがとうございます。・・・ところでこれなんて書いたんですか? ミミズがのたくったような字ですけど」
「斎藤だよ!」
◇ ◇ ◇
「昨日スポーツ選手にサインもらった」
「マジで? なんて選手?」
「え~と・・・あ、そうだ。内藤っていう人」
すぐに名前が出てこなかったことに小野坂は怪訝な気持ちになった。
「お前、失礼なこと言ってねえだろうな」
「大丈夫だよ。それこそ快く対応してくれたぜ。ほら左手にちゃんとサインを・・・あれ?」
自分の左手を見てサインが消えてることに気が付いた。
「朔。もしかして掌にサインもらったのか?」
「ああ」
「よく拒否されなかったなあ」
逆に小野坂は感心してしまった。
「まあな。俺、ノーベル数学賞取った人からでもサイン貰えるやり方知ってるぞ」
「どうやんだ?」
「『サイン・コサインください』って言うんだ」
「それだと名前じゃなくて数式書かれんぞ・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます