第40話《社会人④》〈介護とは②〉

認知症のお年寄りにとって

家から出て一人外歩き回る


施設内の廊下を歩き回るには

きちんと意味がある


一日中歩いている

おばあさんは


『子供にご飯を作らなければならない』


おじいさんは


『仕事に行かなければならない』


黄昏時と言われる夕方になれば


『子供を迎えに行かなければならない』


『夕飯を作らなければならない』


『家に帰らなければならない』


その人その人の

深い理由があるのだ


しかし残念な事に


車椅子に乗って頂き

車椅子の後ろに紐を付けて

廊下の手すりに


いわゆる


『拘束』


という行為だ

お腹にベルトを巻いて…

車椅子から立ち上がれない様に…


なぜそのような事をされるのか

分からない

お年寄り達にとって

恐怖でしかないと思う


大声で叫んだり泣いたり


それでも職員の都合というものが

優先されるという現実に


私はとてもショックを受け


私はその行為に慣れてはいけない

と言い聞かせながら仕事をしていた


夜間は

ベッドから起きて歩き回る人に対して

両腕に紐を付けてベッドの柵に…


オムツをしていても

排泄の感覚がある人は

トイレに行きたいという思いから


一晩中ベッドガタガタ揺らし


いえ

外してほしいという

当たり前訴えを


紐を外すという 行為で

必死に

抵抗していたのだと思う


私は家で

仰向けになり

両手を横に開いて

天井をじっと見つめた事がある


私の場合は

だんだんと神経が

眉間に集まってきて

ツンという感覚が起きて


とてもじゃないけれど

じっとなんて

無理


だったのを覚えている


今はその様な

施設が無いと信じたいが…


あまり動き回らない

1日の大半を横になって

過ごしている人達に対しては


何十人かを大部屋に

布団をひいて…


雑魚寝


という表現が

ぴったりな 状態で寝かされていて…


プライバシーも何も

あったものではない


仕切りがないから

おむつを替える時に

大勢の人たちの中で…

大事なところを晒されながら

オムツを変えられるという…



初めに就職した所が

たまたまそういう施設

であったと信じたい


大多数の施設が

その様な事をしていない

と言い聞かせて…


慣れる事…

受け入れる事

納得が出来なかった…


私は人への

優しさを忘れないよう

その様な人間でいよう

と固く誓って…


介護の仕事にやりがいはある

お年寄りも大好き


しかし

人間関係というものは

私にとって…

どうにもこうにも …


克服し難い

難問ばかりの課題であった…


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