第70話

 


 


 


「・・・はぁ。もう、キャッティーニャオンラインやめようかしら。」


「はははっ。そうだね。」


「そうよねぇ。ちょっと寧々子ってば暴走しすぎだわ。この失恋イベントだって、微妙すぎるし。まあ、売上はかつてないほどよかったらしいけどね。こんなことをやっていては、ユーザーが離れていきかねないわ。」


なんとか失恋イベントを終えたエリアルちゃんが「はぁ・・・。」とため息をついた。


随分疲れているように見える。


結局エリアルちゃんの失恋イベントもオレと同じ内容だった。質問内容も変わらずだ。


きっともう一度悪だぬきのぬいぐるみが100個集まって、二回目に失恋イベントがおこなわれたとしてもきっと内容も変わらずなのだろう。


「そう言えば、ミーシャさんは悪だぬきのぬいぐるみはまだ集まらなそうですか?」


「ええ。そうね。まだ3つよ。」


「少ないですね・・・。」


「人気ないのかしら。」


ミーシャさんにどれだけの悪だぬきのぬいぐるみが集まっているのか気になって聞いてみると意外にも少なかった。


ミーシャさん美人だし、キャッティーニャオンラインが開始された直後からプレイしている古株なのでもっとたくさん悪だぬきのぬいぐるみが集まっているかと思ったのに。


「誰かさんと違って私は目立たないように過ごしていたからね。それに、ログイン時間も短いしね。」


ミーシャさんはそう言って苦笑いをした。


 


 


 


「さて、二人はこの後どうするのかしら?」


ミーシャさんが今日の予定を確認してくる。


時間としてはまだ夜の21時だ。夏休みだから別に夜更かししても問題はないだろう。


「私は今日はもう落ちるわ。このイベントで疲れたもの。」


エリアルちゃんは失恋イベントで精神的に疲れたらしく、肩をすくめながら答えた。確かに、オレも少し疲れている。焦ったりしたからかな。


「オレは・・・。ミーシャさんはもう落ちますか?」


正直ミーシャさんがまだキャッティーニャオンラインにログインしているのならば、久々に彼女と一緒にキャッティーニャオンラインを満喫してもいいかなと思っている。


なので、ミーシャさんの予定を確認する。


「私は・・・今日は落ちるわ。ちょっと予定があるし。」


ミーシャさんはそう告げた。


「なら、オレも落ちます。少しレベルを上げたいような気もするけど、エリアルちゃんと同じで今日のイベントでかなり精神を消耗して疲れているので。」


「そう。なら、今日は解散ね。」


「そうね。明日はどうするのかしら?」


今日はみんなでログアウトすることになった。


明日はどうしようか。まだ、失恋イベントが盛り上がっている最中だし、ログインしたらプレゼント攻撃にあうかもしれない。


ニャーネルさんとの恋人関係は解消されているけれども、エリアルちゃんとの恋人関係は絶賛継続中だし。


エリアルちゃんはキャッティーニャオンラインでも人気が高いから、きっとまだ悪だぬきのぬいぐるみがプレゼントされてくることだろう。


「オレは・・・毎日ログインするようにって寧々子さんに言われてるんだ。だから、明日もちょこっとログインするよ。」


「そう。私は明日もまだ様子見をするわ。」


「私は・・・寧々子の動向次第ね。」


そういうことになった。


まあ、そうだよなぁ。この失恋イベントという半強制的なイベントの仕様が酷すぎるしなぁ。


っていうか、オレとミーシャさんを別れさせたくて組み込んだイベントらしいけど、その割には簡単な内容だったし。


ほどんど意味をなしていないイベントだったような気がするな。


 


 


 


 


☆☆☆


 


 


「ふぅ・・・。」


オレはため息とともにキャッティーニャオンラインから現実世界へと戻ってきた。


そうして考える。


キャッティーニャオンラインで会っているプレイヤーはリアルでも知り合いだ。


そうなるともうキャッティーニャオンライン上で会う必要はないのかもしれない。


だって、現実で会うことができるのだから。


まあ、家にいて会うことができるオンラインゲームとと家から出ないと会うことができない現実とでは同じとは言えないけれども。


「ねえ、優斗いる?」


キャッティーニャオンラインについて考えていると部屋のドアがノックされ、美琴姉さんが部屋に入ってきた。


「美琴姉さん。オレ、まだ返事してないんだけど。」


「硬いこと言いっこなしよ。」


美琴姉さんはオレの返事を聞かずに部屋に入ってくるとオレのベッドに腰かけた。


「ねぇ。優斗はさ、キャッティーニャオンラインのことどう思う?もうやめたい?」


「えっ・・・。」


今まさにオレが考えていたことを美琴姉さんが聞いてきた。


美琴姉さんはオレの心が読めるのだろうか。


にゅっと美琴姉さんの顔がオレの顔に近づいてくる。


「うわっ・・・。ち、近いよ美琴姉さん。」


まるで、少しでも動いたら美琴姉さんとキスをしてしまいそうな距離だ。


「ふふふっ。ねえ、キス・・・しようか?」


「えっ?」


またオレの思考を読んだのだろうか。


美琴姉さんはそう言ってオレを誘惑してくる。


ドキドキしているオレの心をくすぐるかのように、美琴姉さんは艶やかに微笑んだ。


 


 


 


 


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