第61話
どうやら、これでエリアルちゃんについてはもう悪だぬきのぬいぐるみを貰うことがないだろう。
よかった。
一安心だ。
今、ここにいる人たちはきっとオレに対しても悪だぬきのぬいぐるみを渡してはこないだろうと思われる。多分。エリアルちゃんと一緒にいる限りは渡してこないはずだ。
ただ、エリアルちゃんと離れたらもしかしたら渡してくるかもしれないけれども。
さて、オレはそろそろログアウトしようかな。
まだ今日はログインしたばかりだけれども、こんなにもいろんなユーザが悪だぬきのぬいぐるみを持ってくるのであれば落ち着ていプレイしていられないし。
ミーシャさんがまだログインしていないのがちょっと気にはなるけれども。
まあ、ミーシャさんは美琴姉さんだからな。
連絡はすぐに取れるし問題はないだろう。
「マコッチ、エリアルちゃん。オレは今日はこのまま落ちるよ。落ち着いたころにまたログインするよ。」
「そうね。それがいいわね。エンディミオン様は私と違って他のユーザに命令できる立場にないしね。」
「ええーーーっ!エンディミオン様そんなの酷いよっ。ちゃんとに悪だぬきのぬいぐるみを受け取らなくっちゃ。」
エリアルちゃんは同意してくれたが、マコッチが反対の声をあげている。
まあ、マコッチはオレとミーシャさんを別れさせたくて仕方がないみたいだし仕方ないかな。
でも、さすがに知らないユーザーから次々と悪だぬきのぬいぐるみを渡されるのは精神的にキツイ。
しかもムサイ男たちばかりなのが辛い。
中には女性もいるけどさ。でも、圧倒的に男性の方が多いからなぁ。
「いや。でも、ほら。こんな状態だとキャッティーニャオンライン楽しめないしさ。少し休養するよ。」
「そうね。私もしばらくそうしようかしら。」
「ええっ!?エリアル様もっ!?」
「マコッチもそうしたら?マコッチには悪だぬきのぬいぐるみはあまり関係ないかもしれないけど。」
「ぐぅ・・・。」
エリアルちゃんとマコッチが話していると、オレたちに近づく人影が見えた。
なにやら女性のようだ。
また、オレが目当てだろうか。
「・・・これ、受け取ってください。」
女性はオレたちの目の前に来ると、悪だぬきのぬいぐるみを差し出してきた。
やっぱり・・・。オレか・・・。
このキャッティーニャオンラインでは差し出されたものは受け取り拒否をできない。
仕方なくオレは女性に向かって手を差し出した。
「あ、あなたじゃありませんっ!!」
「へっ?」
オレが女性に向かって手を差し出すと女性に拒否をされてしまった。
オレ宛じゃないの・・・?
「マコッチさん受け取ってください。」
「ほえ?」
女性はマコッチの胸に悪だぬきのぬいぐるみを押し付けた。
まさかのマコッチ宛だったとは・・・。
マコッチもあまりのことに驚いて女性をポカーンと見つめてしまっている。
まさか自分が悪だぬきのぬいぐるみを受けとるとは思ってもみなかったのだろう。
だって、マコッチの恋人は現在のところニャーネルさんだけなんだから。
「マコッチさんに恋人なんて私・・・許せませんっ!絶対にニャーネルさんとは別れていただきますっ!!私が、ずっとずっとマコッチさんのこと見てたのに・・・。どうか、ニャーネルさんと別れて私と恋人になってくださいっ!」
「えっ?えっ?」
女性は涙ながらにマコッチに訴えかけている。
どうやら、この女性はマコッチ狙いだったようだ。
まさか、マコッチが女性からモテているだなんてオレは知らなかった。
まったく気が付かなかった。
女性はマコッチに悪だぬきのぬいぐるみを渡すと涙を流しながら、駆け足で去って行ってしまった。
後に取り残されたのは呆然としているオレたち三人。
互いに顔を見合わせてしまった。
「まさか、マコッチ目当てだったなんてね。びっくりだわ。」
「本当に・・・。オレかと思ったよ。オレってば自意識過剰だったな。」
「えっ・・・。私・・・?女性・・・?」
マコッチは女性から告白をされたことに戸惑っている。
「わ・・・私のも受け取ってくださいっ!」
「マコッチ様!どうか、私のを受け取ってください。」
「お、お願いしますっ!!」
「えっ!?えっ!?」
一人の女性がマコッチに悪だぬきのぬいぐるみを渡したのを見ていたのか、辺りからワラワラと女性がオレたちの元へと近寄ってきた。
それぞれの手に悪だぬきのぬいぐるみを持って。
しかも、その人たちは全員がマコッチ狙いのようだ。
どうやらマコッチは女性に好かれているようだ。
オレとエリアルちゃんは、彼女たちの邪魔をしないようにマコッチから少しだけ距離を取った。
女性たちに群がられるマコッチ。
なんだか、ちょっと羨ましいと思ってしまった。
少なくとも男性に群がられてたオレなんかよりはいいだろう。
「わ、私もログアウトするぅ~~~~~~!!!」
女性に群がられて息も絶え絶えのマコッチは、そう叫び声を上げた。
そうして、オレたち三人は仲良くキャッティーニャオンラインからログアウトをしたのだった。
☆☆☆
「はあ・・・。酷い目にあったなぁ。この騒ぎっていったいいつまで続くんだろうか・・・。」
キャッティーニャオンラインからログアウトをしたオレは、自分の部屋の中で小さく呟いた。
まさか、あのような目に合うとは思わなかったのだ。
普段は景色と化しているキャッティーニャオンラインのユーザーたちが群がってくる。
こんなに怖いことなどなかった。
それもこれもオレの恋人が三人もいるせいだ。
いくらオンラインゲームだからといって恋人が複数いるのはまずいだろう。
やっぱり一人に絞るべきだよな。
もちろん選ぶべきはミーシャさんだけれども。
エリアルちゃんには申し訳ないけれど、別れてもらうしかないか・・・。
ニャーネルさんは・・・あれは面白がってオレと恋人になっただけだから、絶対に別れてもらう。
エリアルちゃんと一緒にいるのは楽しかったんだけどな。
こうなったら仕方がないよな。
それに、オレとエリアルちゃんが別れたらきっとエリアルちゃんに悪だくみのぬいぐるみが殺到して、エリアルちゃんに被害が被ることもないだろう。
エリアルちゃんは今までどおりキャッティーニャオンラインをプレイできるようになるはずだ。
恋人じゃなくて友達になってしまうけど、それでもパーティーを組むことは出来るし、おしゃべりをすることもできる。
今までとあんまり変わらないのだ。
「・・・うん。そうだな。それがいい。明日にでも高城さんと連絡をとって、エリアルちゃんとは別れると伝えよう。」
オレは、そう決心した。
って、キャッティーニャオンラインって簡単に恋人同士が別れることができるのかよくわからないけど。
そこは美琴姉さんにでも相談してみようかな。
「ただいまー。」
ふと頭の中に美琴姉さんを思い浮かべると階下から美琴姉さんの声が聞こえてきた。
どうやらやっと帰って来たようである。
今日は帰ってくるのが随分遅かったような気がする。
何かあったのかな。
なんだか、美琴姉さんの声がいつもより元気がなかったような気がして気になってしまう。
オレは美琴姉さんを迎えるために二階の自室から出て一階に降りて行った。
「お帰りなさい。美琴姉さん。」
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