第54話

 


「それにしても、優斗ってば寧々子に気に入られちゃったのね。」


「え?それはないと思うけど・・・。」


美琴姉さんの運転する車の助手席に乗っているオレ。


結局あの後、今日はもう遅いからという理由でオレたちは帰宅している途中だ。


気が付けば、あの騒動でかれこれ2時間は時間が経っていたのだ。


美琴姉さんの運転は寧々子さんの運転とは違って安全運転である。


「ううん。気にいられているわね。寧々子ってば興味ないものには本当に興味持たないから。今日の様子からすると優斗は寧々子に興味を持たれているわ。それもかなりね。気に入られているからよ。」


「そ、そうなのかなぁ。正直ちょっと勘弁なんだけど。」


「そうよね。寧々子ってば猪突猛進だもの。こうと思ったら譲らないからね。」


「そんな気がしてた。」


美琴姉さんはそう言って苦笑している。


どうやら寧々子さんの性格はオレが思っていた通りの性格のようだ。


一癖も二癖もありそうだ。


「美琴姉さんは、寧々子さんとずっと一緒に仕事をしているの?」


「んー。キャッティーニャオンラインの開発に携わるようになってからねぇ。寧々子ってば人の話はあんまり聞かないんだけど、発想が突拍子もなくって慣れるまでは振り回されちゃったけど、今はとても楽しいわよ。」


「そうなんだ。仕事が楽しそうでよかった。」


美琴姉さんと寧々子さんの仲は良好のようだ。


寧々子さんも破天荒だけれども、どうやら悪い人ではないらしい。


「でも、大変ね。優斗。寧々子に目をつけられちゃたから夏休みなしね。」


「うっ・・・。でも、まあ、キャッティーニャオンラインのためになると思えば・・・。」


確かに夏休みはなくなりそうだ。


寧々子さんのお手伝いをしなければならないし。


寧々子さんの性格からして妥協とか一切しなそうだから、一日の拘束時間が長くなることが予想される。


でも、寧々子さんと会うのは美琴姉さんの会社でってことだから。


それはつまり。


夏休みの間は美琴姉さんとずっと一緒にいられるってことだろうか。


それは、それでなんだか嬉しい。


きっとこうやって美琴姉さんの運転する車で通うことになるのだろう。


そこは美琴姉さんの負担にならないように、オレが運転すると言いたいが、まだ免許を取れる年齢でないことが悔やまれる。


「美琴姉さん、夏休みはずっと一緒にいられるね。」


「えっ。そ、そうね。寧々子のところに優斗が通うってことはそうなるわね。」


夏休みの間、美琴姉さんのそばにいられるということを改めて美琴姉さんに告げると、美琴姉さんは顔を真っ赤に染めた。


素っ気ない美琴姉さんの言葉だけれども、真っ赤な顔を見ると照れているということがわかった。そんな頬を赤く染めている美琴姉さんの横顔を見ながらオレたちは家にたどり着いたのだった。


 


 


 


☆☆☆


 


 


 


 


「エンディミオン様!みつけたわよぉ!」


キャッティーニャオンラインにログインすると、すぐにオレに駆け寄ってくる人影があった。


銀髪に丸い眼鏡をかけているニャーネルさんだった。


どうして、ニャーネルさんがオレに駆け寄ってくるんだろうかと、不思議に思い首を傾げる。


ニャーネルさんは丸い眼鏡の奥の瞳を輝かせている。


「あの、オレに何か用ですか?」


「ふふふんっ。これを受け取ってちょうだい。」


ニャーネルさんはそう言ってオレに手のひらサイズのネズミのぬいぐるみを渡してきた。


なんでネズミのぬいぐるみなんだろうか。


困惑していると、焦れたニャーネルさんがオレにネズミのぬいぐるみを押し付けてくる。


「ほら。受け取っててば。」


「え?いや、受け取る理由がないので・・・。」


オレは嫌な予感がして、ネズミのぬいぐるみを受け取るのを拒否した。


なんだかすっごく嫌な予感がするのだ。


オレの感がこのネズミのぬいぐるみだけは絶対に受け取ってはいけないと告げている。


だけれども、いくら断ってもニャーネルさんは引いてはくれない。


この時、オレはニャーネルさんが誰かに似ていると思った。


自分の意見をなかなか曲げずに、押し付けてくる人。


つい最近そんな人に出会ったような気がする。


誰だっただろうか。


「可愛くないの?」


「え?」


ニャーネルさんはオレがネズミのぬいぐるみを受け取らずにいると目に大粒の涙を浮かべてオレを見つめてきた。


思わずドキッとしてしまう。


ニャーネルさんを泣かせたかったわけではないのだ。


「か、可愛いですって。ニャーネルさんが可愛くないわけないじゃないですかっ。」


オレはニャーネルさんが涙を浮かべてしまったことに驚いてニャーネルさんは可愛いと伝えた。


決してミーシャさんに対する浮気ではない。


だって、ニャーネルさんが可愛いのは誰もが思うことなのだから。


「ふふふっ。エンディミオン様ってば面白いわね。私はこのネズミのぬいぐるみが可愛いかどうかって聞いたのに、私のことが可愛いだなんて・・・。ふふっ。ますます興味深いわね。エンディミオン様は。」


ち、違ったのか・・・。


勘違いをしてしまった。


ニャーネルさんはネズミのぬいぐるみが可愛くないかと聞いてきたのに、オレはニャーネルさんが可愛いとか答えてしまった。


ああ・・・隠れたい。


それに、ニャーネルさんの瞳が一段と輝きを増したし。


「うふふふふ。エンディミオン様ってばすっごく可愛い。ね、受け取って?いいでしょ?」


ニャーネルさんに可愛いと言われてしまってオレは不覚にも顔を赤く染めてしまった。


まさか可愛いと言われるとは思わなかったのだ。


そうして、笑いながらニャーネルさんはネズミのぬいぐるみをオレに渡そうとしてくる。


オレは気恥ずかしさもあって、この場をさっさと去りたいという思いから思わずニャーネルさんが差し出してくるネズミのぬいぐるみを受け取ってしまった。


「あ・・・。」


「やった!受け取ってくれたわ。ありがとう。このネズミのぬいぐるみは新しいアイテムなのよ。」


「え?」


新しいアイテム?


また新しいアイテムが追加されたのかキャッティーニャオンラインは。


かなり頻繁にアイテムを追加してくるなぁ。


このアイテムは一体なんなんだろうか。


もしかして、ミーシャさんとオレを別れさせるためのアイテムだったりしないよな?


なんだかんだ言って寧々子さん諦めてなかったみたいだし。


「あ、返却することはできないからね。」


ニャーネルさんはそう言ってにっこりと笑った。


 


 


 


 



 




 


 


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