第37話
「寧々子はね、会社でも問題児なのよ。」
「うん。そんな感じがする。」
オレは盛り蕎麦をもう一つ注文した。
オレの分の盛り蕎麦を寧々子さんに取られてしまったからだ。
その寧々子さんは自分の分の盛り蕎麦とオレの盛り蕎麦を両方食べてお腹いっぱいになったらしい。
今は座りながらコックリコックリと船を漕いでいる。
お腹が膨れて眠ってしまうだなんて、本当に猫のような人だ。
きっと好奇心も旺盛なのだろう。
「ま、優斗に愚痴っちゃってごめんね。」
「ううん。気にしないで。愚痴くらいだったらいくらでも聞くよ。」
「もう!本当に優斗は優しいんだから。」
美琴姉さんはそう言ってとっても嬉しそうに微笑んだ。
「それにしても、本当にこのお蕎麦美味しいね。」
ちょっと気恥しくなってしまったので、話題を変えるようにお蕎麦に意識を持っていく。
ずずずっと啜ったお蕎麦は今まで食べたどのお蕎麦とも違った。
安いお蕎麦だと蕎麦自体の味がないのだが、このお蕎麦は香り高く味も良い。
蕎麦本来の味が感じられた。
それでいて、そばつゆも蕎麦に合わせて特注されているのか、この香り高い蕎麦にとても良くあっていた。
「でしょ!ここのお蕎麦本当に美味しいから優斗には是非食べて欲しかったのよ。気に入ってくれてよかったわ。若い子にお蕎麦ってどうかなって思ったんだけど気に入ってくれてよかったわ。」
「若い子って・・・。美琴姉さんも若いじゃん。」
「そう?優斗から見たら20歳過ぎはおばちゃんじゃない?」
「全然そんなことないよ。」
「ふふふふふ。」
どうして、美琴姉さんとおしゃべりするとこんなにも心が満たされるのだろうか。
他愛無い言葉のやりとりなのに、ゲームをやっているときよりも面白く充実しているような気がした。
「なぁ~んか、いい雰囲気なんだよねぇ~。美琴っちと優斗クンは本当に姉弟って関係だけなのかしらぁん?」
美琴姉さんと話していると、寧々子さんがいつの間にか起きたようでオレたちの間ににゅっと割り込んできた。
「もう!寧々子ったらびっくりさせないでよね。」
「うわっ。寧々子さん。心臓に悪いです。」
「あはははは。ごめんごめん。美琴っちたちが仲良さそうに話しているから気になっちゃった。」
「もう!」
本当、寧々子さんは心臓に悪い人だ。
思わずビックリしてしまった。
寝ていたと思ったのに。
「さて、と。もうちょっと美琴っちたちと一緒にいたかったけど、社長にこの後呼ばれてるんだよねぇ~。」
寧々子さんは急に立ち上がると、オレたちに向かってそう告げた。
「寧々子ったらまた何かやったの?こないだのこと?」
「ん~。こないだのバグすぐ直せってさぁ~。バグじゃなくて故意に埋め込んだのにね~。」
そう言って寧々子さんは髪をかき上げた。
「・・・バグでしょ。あれは。私も被害を受けているのよ。」
「ん~。でも、現実世界に近いゲームにするってのがコンセプトだったはずでしょ~?なら別に恋人の一人や二人、三人や四人いたってまったく問題ないじゃん。」
「・・・問題、大ありだから。」
「・・・それはちょっとどうかと思います。」
寧々子さんが何の仕事をしているのかよくわからないけれども、話からするとゲームを作ってるのだろうか。
なんのゲームだかわからないけれども、さすがに恋人を2人以上つくれたら道徳的にどうかと思う。
それでなくても、最近ニュースで芸能人が不倫したとか、二股をかけているとか話題になるのだから。
もしかして、乙女ゲームのようなものなのだろうか。
あれならば、逆ハーレムルートもあるって聞いたことがあるし。
あれ?ってことは、美琴姉さんもゲームの開発をしているのだろうか。
寧々子さんと同じ職場ってことはそうだよな。
オレ、美琴姉さんのこと何も知らなかった。
姉弟なのに。
美琴姉さんが就職した会社の名前すら知らないや。
「んー。ゲームだから別にいいと思うけどねぇ~。楽しければいいじゃんね~。みんな硬いよねぇ~。ほんとに。」
「硬い硬くないじゃなくて、現実世界に近いゲームなんだから恋人が二人以上いたら道徳的にまずいでしょ。」
「そこが硬いのよねぇ~。まあ、いいわ。そろそろ行かないと社長にどやされるから。じゃあ、またね~。美琴っちに、優斗クン。」
そう言って寧々子さんは逃げるかのようにお蕎麦屋さんから出て行った。
逃げ足、早いな。
「寧々子さんと美琴姉さんって同じ会社だったんだね。同僚?」
「そう。同僚。寧々子ってば本当に自由すぎて困ったっわ。でも、その分突拍子もない発想をするから面白いんだけどね。」
「へぇ~。どんな仕事をしているの?」
聞いてみるのもいいよね。
隠してなきゃいけない仕事ってわけでもないだろうし。
機密事項の多い仕事だったら仕事内容までは教えられないってちゃんと言ってくれると思うし。
「ん?オンラインゲームの開発と運営よ。優斗ってゲームするよね?」
「うん。今もしてるよ。マコトに誘われたんだ。」
美琴姉さんはオンラインゲームの開発と運営をおこなっているらしい。
ゲームの開発って簡単に出来るのだろうか。
なんだか美琴姉さんが急に知的な人に見えた。
「じゃあ、知ってるかな?キャッティーニャオンラインってゲームなんだけど・・・。」
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