第6話 その魔王葛藤につき

「それではお世話になりました」

ルルは老人に腰を曲げ挨拶をしている。


俺とルルはここに三日間くらい滞在し、この村や外の情報を聞き出していた。

ここの村人は皆癖の強い者ばかりで接するのが一苦労であったが何とか全員から信頼を勝ち取り心地よく出発する事が出来た。


「ところで勇者様……」

老人は歩きだそうとしている俺に声を掛ける


「あ、はい?」

俺は老人の方へと首を向けた。


「これからどこを目指すおつもりで?」


「西にあるつるぎの里に向かおうかなって」


「それは良かったです……くれぐれも南西の洞窟には近付かないで下さい……」

老人は一呼吸挟み村を出る俺達にそう忠告した。

そして、再びサバイバル兼、冒険の旅が始まった……


「ってちがぁぁぁう!!」

俺とルルは少し歩き、川のほとりで休憩をしていた。


何だこれは……

俺は魔王だぞ!?!?

何イッチョマエに勇者生活満喫してるだぁぁぁあ!!


ヤバイ……ここ一週間は魔界に帰って無い…

そうだ!いっそルルも一緒に魔界に…


「ね、ねぇルル」

隣で座り込むルルに声を掛ける。

しかし返って来ない。

「ルル…?」


「スー……スー……スー…」


ルルはあぐらをかく俺の足の上にそのまま倒れた。

口元からはよだれが垂れている。

俺はこの状況を瞬時に悟った。

そう…

これは……


「ひ、ざ、ま、く、ら……」

ヤバイ動けんっ!!

どうする魔王!どうする魔王!


魔王は顔を下に向ける。ルルの寝顔だ。


いゃぁぁぁあ!!!!両手で頭をかきむしった。

やべぇよ……俺もう一緒このズボン洗わないかも知れない…


あっそうだ!

今なら……


視線が胸に向く。


触ってもバレないのでは…?

右手が気持ち悪い動きをしながらルルの胸元へと進む。


触ってもバレない

触ってもバレない

触ってもバレない


いやまてっ


バシッ

左手がその右手をガッシリと掴み止める。


お前は本当にそれでいいのか……?


「ひ、左手っ!!」


魔王よ……考え直せ……


「でもこんなチャンスもう無いかも知れないんだ……っ!だからっ!」


そうだそうだ…やっちまえ兄貴!


「み、右手っ!!」


お前は今ここで一歩進むんだ…


「くそっ……俺はどうすれば……」


右手か左手か

右手か左手か

右手か左手か……


「よしっ!俺はもうこんな事をしない!」


流石は我が魔王だ!どうだ右手!見たか!


「だが今日は特別だぁぁぁあ!!!!」

魔王の右手がルルの胸元へと近付く!


そんなバカなっ!!みぎてぇぇぇえ!!!!


「何やってるんですか、1人で」

背中にまきを担いだ色白で赤髪の短髪。少しボーイッシュで帽子をかぶった少女が後ろから俺に声を掛ける。


「え、いや違うこれは…」


「性犯罪者じゃないですか」

少女は冷たい表情でこちらを見つめる。


「こ、これは…神聖な儀式だぁぁぁあ!!」


「セクハラっていう儀式何ですね」


「うぉぉぉお!!許さんぞぉぉ!!」

左手で近くの石を拾った。

「みぎてぇぇぇえ!!」

その石でおもいっきり自分の右手を殴った。


「いってぇぇぇぇえ!!」

魔王は手を押さえ涙目になり悶絶している。


「何してるんですか……」

少女はまきを下ろす

「それにこんな簡単な寝たフリにも気付かない何て……」

そう言い、少女はルルを揺する。


ルルは片目を閉じ起き上がる。

「てへっ!」

片手で拳を作り優しく自分の後頭部を殴る。


「えっ……いつからですか」

魔王は片手を抑えながら恐怖のあまり口調が敬語になっていた。


「最初からですよ。勇者様っ。」


その言葉を聞いた瞬間に魔王の顔から汗が吹き出し、とてつもない顔になり起き上がったルルに向かってスライディングで土下座をかます。

「すいぃぃぃませぇぇえんでぇぇしたぁ!」


魔王として誕生してからの1番のピンチだこれは……

マズいマズイマズイマズイ


しかもこの女の子何!?


土下座のまま少し少女に目をやる

少女は目の色が消えており、呆れた表情でこちらを見つめていた。


ヤバイ、ゴミを見る目だ。


そしてルルの方へと向く。


「まぁでも…仕方ないですね。からかった私も悪かったし……今回だけですよ……」

ルルは笑顔で俺の顔を見つめた。


ルルからは何か神々しい光のような物が俺には見えた。

俺は少し顔を上げる。


「あ、あ、あ、ありがとうございます」

再び土下座をした。


「ルルさん…ですか?」

少女がルルに声を掛ける。


「あ、はいっ…そうですけれど…」


「この辺は夜になると魔族が活発になるって聞きます。明るい内にボクの家に来ませんか…?」


「確かに……」

ルルは手を顎に当てる

「そうですね……折角なのでお世話になりますね!」

ルルは笑顔でその少女へと顔を向ける。


「良かったです。では行きましょうか。」

少女とルルはお互いに手を差しのべ取り合った。


「あ、あの……俺は……?」

魔王は少し起き上がり指先で自分を差した。


「誰ですか貴方。そこで飢え死んでください。」

少女は再びゴミを見る目で俺を見た。

俺はその時、泣きそうになった。


「ではこっちです。ルルさん。」

少女は再びまきを担ぎ西に指を差した。


「はいっ分かりました!」

ルルとその少女は2人で西に歩き出した。


魔王はその光景を見て手を伸ばす

「ちょっっっとまぁっっってぇぇぇえ!」


「ルルさん、あんな人と旅してるんですか……」

少女とルルは2人で並んで前を歩いている。

魔王は顔を下げ手の力を抜きダランとした感じでその後ろ歩いている。


「ま、まぁ頼りにはなりませんけどね。」


「何か変な事とかされませんでしたか?今みたいな。」


ルルは笑顔で手を振る

「無いですよそんな事っ」

そして、耳元の髪を書き上げる。


ま、でもっ


触ってくれても良かったんだけどな……


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