六十九 顔剥ぎ

 あっしがお上の御用を仰せつかっていたときの話です。

 野良犬が掘り返した土の中から、顔の皮を剥ぎ取られた女が見つかったというので駆けつけて見て、あっしには顔剥ぎの仕業だとすぐにわかりました。

 土に汚れてはおりましたが、生え際に沿って耳から頬、顎の内側にかけて顔の皮が薄くきれいに剥ぎ取られています。

 もちろん、顔剥ぎのことは親分にも言いません。言ったところで信じてもらえるわけもありません。

 下っ引きのあっしは言われたまま走り回るだけで、その女の着物や持ち物から身許を洗いましたら、顔の皮を剥ぎ取られていたのは、今小町と評判の娘だと知れました。ただ、いくらその娘の身辺を探りましても下手人の手がかりは皆目得られません。なにしろ、己の顔に飽いた顔剥ぎの仕業ですから……

 ですが、これが二件三件と続くとそうも言えません。皆様御存知のように一度剥いだ顔を顔剥ぎがそんなにすぐに気に入らなくなるなどということはありません。さすがにこれはおかしいと思って、とりあえず顔剥ぎの居所を探しまわっておりましたら、向こうから訪ねてきました。

 といって、その顔はひどくしなびた老爺のそれで、立て続けに剥いだ娘達の顔ではありません。でも顔剥ぎが連れてきた女の顔が、どうやら剥ぎ取られた三人目の娘の顔のようでした。

 その女が生き霊だと、あっしにはすぐにわかりましたけれども、それには気づかぬふりで顔剥ぎに、

「どうした?」

 と尋ねましたら、顔剥ぎは老爺の顔を女に向けて、

「この女の生き霊に取り憑かれた」

 と申しますので、

「生き霊に取り憑かれて、どうして三人の娘の顔を剥ぐんだ」

 と詰め寄りました。

 この女はかなりの醜女で一度でいいから男にちやほやされる美しい顔になりたいと言うので、面白半分に今小町と評判の娘の顔を剥いでくれてやったところ、すぐに飽きたと言って次を求めた。それはできないと断わったら、人のものを奪わなではいられない性分のこの女は、それまでは体を使って人の男を何人も奪ってきたらしく、その執念ときたら生半可なものではない。それに気づいたときには、すっかり生き霊の虜になってしまって……

 だからと言ってどうしようもあるまい、と高をくくったように女はきれいな顔に下卑た笑いを浮かべて顔剥ぎを見ておりました。それでも、正物の女の居所をあっしが聞いたら、たちまち女は表情を変えて顔剥ぎに抱きつくとその口を塞ごうとします。

「あとは任せろ。焼き殺せば生き霊は帰るところを失う」

 わざと声高に言ってやったら生き霊は己の身体へ戻ろうとしますから、あっしはそのあとを追って住まいを突き止め、すぐに親分を連れて女の家に踏み込みました。そこから剥ぎ取られた娘たちの顔が見つかりましたので、その場で女をお縄にかけて引っ立てました。

 女はすぐに死罪と決まってそれからは顔剥ぎが生き霊に取り憑かれることはなくなりました。

 ただ、その女の死霊が今度はあっしにまとわりついて、少し難渋しております。

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