第7話 三角関係とプラスαな関係。episode3
「ねぇもう別れましょ。……私たち」
「な、何言ってんだよ、言っている意味が分かんないなぁ。マリナ」
「だぁ・かぁ・らぁ・別れましょって。グッバイよ、マイク」
「いったい僕の何が不満なんだ? 世界八か国に展開する会社の若きCEO。そこらの富豪たちよりも富を持ち備えているこの僕を振るって言うのかい」
ベットの上で、肌に触れるシーツをまとい、たばこに火を点け、白い煙を軽く吐き出しながら、私は横に寝そべる男に別れを告げた。
確かにこの男は、富も地位もこの若さ(三十代)で勝ち得た勝ち組だ。
このままこの男とゴールインを狙っても。それはまた……いいのかもしれない。
でも――――なんか平凡なんだよねぇ。このまま奥様って呼ばれちゃうの、あまりにも平凡すぎるのよ。なんかもうわくわくていうの? そう言う心臓の鼓動が高鳴る様な、アドレナリンが湧き出てくる様な。そんな想いが無くなちゃうのはとても悲しい。
私はまだ”ドキン”としていたい。
そんな時だった。日本にいる平凡な一社員。役員でもない。ただの平。ひらひらと舞うただの平社員。
そう、
あそこまであからさまに顔に出るのも珍しい。いや、あれは何かの特殊能力なのか?
そんなにも仕事するのが嫌だったら辞めるといい。と言っても仕事はなぜかできるようだ。
モニター越しに彼の行動を観察するばするほど、不可思議な興味がわいてくる。
それって一種の魅力でもあるのかもしれない。
ここ、支社(ニューヨーク支社)にいても、これくらいの平社員を首にすることくらい私の権限でどうにでもなるんだけど。
面白そうだから、このまま観察していた。
でね。この私が、なぜか知らないんだけど、ほんとなんでこんな平社員なんかに……恋しちゃったんだろって。
いつの間にか興味津々。年下なのに、このハートがうずいている。
ハートがうずくって言うのは私の体が反応しちゃうって言うことで。彼の姿を見ているだけで、トイレで下着を換えなきゃいけない羽目になっている。
どうして下着を交換しなくちゃいけないのかを詳しく知りたければ、メールで質問してきてください。ちゃんと答え――――る、訳ないでしょ。そんな恥ずかしいこと。
マジにメールよこした奴は、即刻首にしてやるから!!
日本本社に移籍して、この
もう初日から、ごちそうになる気満々だったのに、浩太は食べさせてもくれなかったし、私を食べてもくれなかったんだよね。
ああああああああ! ほんともどかしい日々が続くのかと思いきや。なんと浩太、女子高生と半共同生活。なんて言っていたけど、あれはもう同棲だよね。
女子高生と同棲生活。
ほぉ――! そうなんだ。会社に知られたら一発アウトだね。そもそも会社だけじゃなくてさ、社会的にアウトだよね。浩太。
ふぅーん。そう言うリスクを背負ってまでも、彼女を守る何かがあの子にはあるというのか?
しかもだ、教育役を任されている
その間にあの女子高生。
そうなのだ。こうして彼の近くに来て、彼に触れ合うようになって彼を攻略するのが、どんなに難しいミッションであるのかを思い知らされたのだ。
なんとも、ものすごくめんどくさそうなこの関係性。
魔の三角関係がすでに成立している彼の位置関係に、この私が参入して、プラスαとなる関係になる人物はこの私? いやそれは。それでは愛理ちゃん? うーーーーーん。どうだろう。じゃぁ、繭ちゃん?
ねぇねぇ浩太さぁ。この三人の女に囲まれているこの状態を、あなたはいったいどう思っているの? どう感じているの?
て、今の浩太にそう言うことを問いても無意味か。
生身の女性拒否症。
二次元の女性しか愛せない彼は、オタクと言う日本文化の一員でもあったのである。まぁそう言う私も、嫌いではない部類のカテゴリーだ。
だから理解はある。
だけど、この彼に対する私の想いは止める気は全くない。
今までとは何か違う感情がこの私を縛り付けるように取り巻いている。
彼とは会社の中でしか、接点がない。本当の意味でのプライベートな接点を持ちたい。
上司と部下と言う関係。
この関係は壊すことは出来ない。でも、利用することは出来る。今までだってそう言う関係で付き合った男は何人もいた。
それはいけないことなのか? そうではない。
社内恋愛はどこにでも華開いている。
それが純粋な恋愛であるかどうかはさておき、私の場合は純粋。ピュアなLOVEなのだ。
純粋。多分本気モードなんだ。
”ドキン”としたいというこの高揚感を感じることができる恋愛。
浩太は何かしら私を引き付ける要素を持ち備えているんだと思う。
地位や名誉。経済力、知力。そういうものは不随しない何か。
その何かが分からない分、魅力に感じているのか? 率直裏を返せば、浩太はどこにでもいる平凡な男だ。さんざん、高みの男たちと付き合ってきた私、その男たちの影が薄く感じてしまう。
どうしてだろう。
どうしてこんなにも平凡なこの男に引き込まれたのかは……今になっても謎なんだ。
シンと静まり帰っているわけでもない。かといって雑音や電話の音が鳴りやまないような雑踏の環境下でもない。
オフィスの中は少しのざわめきと、様々な意識が飛び交っている。ニューヨークのオフィスとはだいぶ雰囲気は異なるが、この日本の仕事場と言う環境も嫌いなわけではない。
最もこのガラス張りの私のワークスペースは静かなものなんだけど。
ふと彼の方に視線を向けてみた。――――姿がない?
どこに行ったんだろう。
最近、彼が自分のデスクにその姿を消した時目で追う癖がついてしまっているようだ。
おトイレ? それとも喫煙室? んっ? ディスプレイの右端の時刻表示をふと目に入れると、お昼になっていた。
ああ、もうこんな時間なんだ。私朝からいったい何やっていたんだろう。全然仕事進んでないじゃない。
でもいいかぁ。
愛する
ゲッ! 水瀬さん。愛理ちゃんもいないじゃない。ああ、先越されちゃったかなぁ。
浩太と一緒にランチ食べたかったのにぃ!!
でも、また今度にしよう。
可愛い私の恋人。
これからゆっくりとあなたを治療しながら、私が優しく。
生身の女の良さを思い出させてあげる。
ねぇ、――――浩太。
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