第4話 パンツ……見たい? episode 4

「別に明日買い物に付き合ってもいいですけど。バイトも休みだし」

「そうぉ! よかった。あとは先輩を誘うだけだね。そこんところは繭ちゃんよろしくね」


にかっと笑う水瀬さん。おいおい、自分からちゃんと言ってよね。て、思っていても、なんだかんだ言っても私をこういうところで頼るところは、まだ優位に立ててるんだと自己満足している自分が怖い。


浩太さんのところに戻ると神妙な顔つきでディスプレイに映し出されている女の子を凝視していた。

ウっ! こ、浩太さん。

やっぱり生身の女よりも、あなたはこっちの女の子の方が欲情するんですか? そんなに凝視しなくたって。


「あのぉ――」

「んっ、なんだ繭」


「あ、いや。で、浩太さんはどっちにするか決めたの? 産ませるの? それともおろさせるの?」


「う――――ん。それなぁ――。ほら関係者ていうか友達とかの意見ていうか、助言もヒントになればと思って色々聞き込みしたんだけど、妊娠したことまだ誰にも言っていないだろ。こいつら二人の秘密なんだよなまだ。だから返事ねぇんだよ。あくまでもどっちかを選ばねぇと話がどうにもこうにも進まねぇていうところが、えぐいんだよな」


そんな浩太さんを見ながら。

「も、もしさ。わ、私が」

ゆっくりとこっちの方に顔を向ける浩太さん。ちょっと、そのままディスプレイ見ていてよ。


「私がどうしたんだ?」

「だからさ、もしだよ。私が浩太さんの子孕んだら浩太さんはどうするの?」

「…………」

返事がない。


そう言う時はさ、即答で答えてよ! て、この人にそれを望んではいけないことくらい分かっているんだけど。

多分ものすごいいじわるな質問だって言うことくらい分かっているんだよね。でもなんかするっと口から出ちゃった。


どんな答えが出てくるのか興味があるんだよ。

このゲームの進行も確かにあるけどさ、もしさ、そう言うことになったら、あなたは私をどういう風にしたいのかっていうところも、興味あるじゃん。

ジ――――――――とディスプレイを見つめてピクリとも動かなくなった浩太さん。


「ねぇどっち?」

後追いをかけるように聞き直す。


「そ、そりゃぁ―――――」


「産むわよ私。絶対に先輩の子だったら先輩が反対したって、私は産んじゃうんだから」

「おいおい、水瀬」

あわてて、コントローラーを落としそうになる浩太さん。


「いいじゃない私は覚悟しているんですから。いつでもいいですよ。いつでも。先輩なら私はいつでも……」

「ちょっと待て! お前ら、俺を追い込んでそんなに楽しいのか!」


声をそろえて「楽しい!!」て言ってしまう私達。


ああ、虐めてなんていないんだけど、こんな時の浩太さんてとっても可愛いんだよねぇ。

だから虐めたくなちゃうんだよ。それ、多分水瀬さんも一緒だろうね。

こういうところは意気投合する私達。

えへへ、私達は悪い女です。


「もう先輩いつまで悩んでいるんですか。ここは覚悟を決めてください」

ひょいと水瀬さんが浩太さんの手からコントローラーを取り上げ、ピコッと『産ませる』の選択ボタンをクリックした。


「ああああああああ! やっちまいやがった!!」

「いいじゃん、先輩。こっちしか選択肢ないでしょ」


場面が切り替わった。

ごくりとつばを飲み込みじっと私達は見つめた。


「うれしい!! 立派なあなたの赤ちゃん産みます」

「て、おい!」

ハッピーエンドでラストを迎えてしまった。


「はっ! これで終わりかよ」

唖然としながらエンドロールを茫然として見つめる私達。


「あのぉ――、いったい私達朝からこれだけのために悩んでいたの?」

「……みたいだな」

浩太さんがぽつりとつぶやいた。


「はぁ―、やっぱりワゴンセールのエロゲ―だけのことはある。これじゃ売れねぇぜ」

「だねぇ―、もっとさぁこれからの展開っていうのがあってもいいんじゃないのかなぁ」


「あははは、二人とも物凄い拍子抜けした顔になっているよ。よくもまぁこんなことに真剣になれるよね」

「水瀬、お前にだけは言われたくはねぇな」

「どうしてですか?」

「いやなんとなく」

「なんとなくって。どういう意味ですか? 私も同類ていうことですか?」

「違うというのか?」


水瀬さんはきっぱりと「否定しません。先輩と同類ならうれしいです」と言う。

えっと、これって何? 私達単なるおバカなだけなんだけど。水瀬さんも同類? 一緒におバカになるって言う訳? あははは、でもそうかもね。


でもなんかいいよね。

こういう雰囲気。

おバカになれるって幸せなことなんだ。


でもまぁ、ゲームの件もこれにて解決したし、あとは何しよっかなぁ。

その時水瀬さんがつんつんと私の背中をつつく。


あ、そっかぁ。浩太さんを誘わないといけなかったんだ。

「ねぇねぇ、浩太さん明日何か予定ある?」

「んにゃ、別に予定はねぇけど」


「じゃぁさ、明日一緒に買いも付き合ってくれない? 水瀬さんも同行で」

「はぁ? 水瀬も同行で?」

ひょいと浩太さんは私の後ろに隠れるようにして身を潜めている水瀬さんを見て

「ま、いいか。どうせ洗濯機見てほしんだろ」

「さすが先輩。わかってるじゃないですか」

ここぞとばかりに笑顔で答える水瀬さん。


「馬鹿かお前。そうして欲しかったらちゃんと言えよ」

「だってぇ、先輩めんどくさいって断りそうなんだもん」

「まぁ確かにめんどくせーけどな」


「ほらね。だから繭ちゃんに口添え頼んだんです。それに繭ちゃんも自分のための買い物もさせたいんですよ」

「自分のための買い物ってなんだ? 繭」

「ええっと、そのなんでしょうか」て、さぁ下着買いたいなんて言えないでしょ。


いくら興味がないって言ったて、私が恥ずかしいんだよね。


「もう先輩ってそう言うところデリカシー無いんですよね。少しは察してやってくれてもいいんじゃないんですか? 繭ちゃんだって見えないところも想いのおしゃれしたいんですから」

あきれるように水瀬さんは浩太さんに投げかけた。


見えないところのおしゃれかぁ。

今私がつけている下着ってどちらかと言うと欲情下着みたいなもんだからね。

見も知らない男の人が勝手にネットで注文してくれたパンツ。


ほとんど趣味に走っているとしか言えないものばかりなんだけど、ないよりはましだっていう感じで履いている。でもね。本当はさ。

こんな派手なもんより、何もない下着。普通のおとなしい下着がいいんだよね。


誰かに見せるためのもんじゃなくて、自分がつけていて納得できるものがいい。

おしゃれて言うことじゃなくたって。



安心できる何かが私はただ欲しい――――だけなんだよ。きっと。

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