特別編 第19話 あのね本当は……。雨宮マリナ ACT 6
うぅ――――ん。
苦しい。ただの風邪なのに……なんでこんなにも苦しの。
寝ようにも眠ることすらできない。
あれから何時間たったのかしら。それすらわからない。
誰もいないこの部屋。
私一人だけのこの家で、こんなにも苦しい思いをしていても誰も手を差し伸べてくれる人もいない。
一人でいることの寂しさを今……。
身に占めて、実感している。
まったくっやってられねぇ。念い数回はこういう気持ちになることがある。
今はその数回のうちの一つだろう。
片づけても片づけても、湧き出てくる。
ここまでくるとボスキャラに到達する前のステージ戦闘のようだ。
「おい、水瀬。大丈夫か?」
水瀬はディスプレイから目を離すことなく。
「何とか」としか返事を返さなかった。
かなり詰まっているんだろう。
そんな時だ、俺のスマホが鼓動した。
繭か? 今の時間に俺にメッセージなんて送り付けてくるのは繭くらいだ。
あとにしようとしたが何か気になりアプリを開けた。
そして目に飛び込んできた文字。
「助けて」
たったこれだけだった。
発信相手はマリナさん。すぐに発信をした。
コールは聞こえるが一向に出る気配はない。
本当にやばいのか?
俺にこんなメッセージを送りつけてくるほどまずい状態なのか?
つかさずメッセージを送る。
「救急車呼んでください」
されど返信ははなかった。
追い込まれるタスクに助けを求めてきたマリナさん。
どうする俺。
もう水瀬に俺の分のタスクをぶん投げることはできない。かといって長野のほうに頼み込むのは……無理みたいだ。
長野は俺の視線を敏感に感じ取りながらも、まったくの無視。
ピリピリ、悶々とした怒りをも感じるこのオフィスの雰囲気の中、抜け出すことなんかできない。
それどころか、指揮をとる人間がいない今、この中は崩壊している。
あああああああ! だめだ気になる。
マリナさんのことが気になる。
一体俺はどうしたらいいんだ!
頭を抱える俺に長野がようやく反応してくれた。
「なぁ山田、やっぱまずいよなぁこの状況」
「ああ、物すげぇやべぇ」
そして長野に、マリナさんからのメッセージを見せた。
「マジ! これ部長大丈夫なのか?」
「わかんねぇ、返信も帰ってこねぇし」
「う――――ん。 部長も頼るのお前しかいないんだな山田」
「なんか意味深だな」
「それを言うなら今のお前の状況は八方塞がりていうんじゃないのか」
まさにそれだ。
にまぁーと長野が笑う。
「なんだよ。人がこんな切羽詰まっているっていうのに、なんか高みの見物かお前は」
「そんな、これでもちゃんと心配しているじゃないか。そうだ、部長のこと繭ちゃんに頼んでみたらどうかな?」
「えっ! 繭に」
「うん、、だってさ、今頼れるのは繭ちゃんしかいないと思うんだ」
確かに、繭なら、何とかしてくれそうな気がする。
早速スマホでメッセージを繭に送った。たぶん授業中だろうから、すぐには返事……来た!
は、はえぇ!!
「どうしたの浩太さん?」
俺はマリナさんの現状を伝えようとスマホで文字を打つがいかんせん、このスマホで文字を入力するのが苦手だ。
長文になればなおさらだ。
何とか入力して送信すると、速攻で返事が返ってくる。
繭、今お前授業中じゃねぇだろうな。
もし授業中にこんなににも早く返事が出来るんて神業だ。
「とにかくわかった。これから行くよ。マリナさんのところに」
「お前授業大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫。去年も同じことやってたんだから退屈なんだ。早退するよ。それにあとはもう今日の授業受けなくたっていいみたいなもんだからさ」
なんか大学時代を思い出す。
必要な講義だけを受けて、あとは自由気ままに過ごしていたあの日々。
今の俺はあのころからすれば、何かをそぎ落とされたような気がする。
その何かがないであるのかは思い出せない。
「すまん頼む繭」
「任せておいて、困ったときはお互いさまだよ。それじゃもう行くからね」
そっと俺のスマホを除きこむように長野が言う。
「どうだった繭ちゃん?」
「行ってくれるってさ」
「よかった。それじゃ部長のほうは何とかなるね。あとはこっちのほうだ」
「ああ、そうだな」
「それじゃ頼んだよ。リーダーさん」
「おいおい、長野俺に丸投げなのか!」
「え、だめなの?」
「頼むよう、手伝ってくれ……長野ぉ」
「しゃぁない」と、苦笑いをしながらも長野は俺の肩にポンと手を置いて
「それじゃやるか!」
お俺は今のこの無茶苦茶な現状をなんとする。
マリナさんのほうは頼んだぞ。……繭。
ええっと、送ってもらった住所ってこの変なんだけど、本当にここなの?
私の目の前には高くそびえたつ高層マンションしか目に入らないんだけど。
いわゆるタワマンというやつだ。それもかなり高級そうなマンション。まるでホテルみたいな感じがする。
入り口のエントランスで、マリナさんの部屋番号のボタンを押す。
たぶんインターフォンだろう。返事が来るのを待つ。
ちょっとドキドキしながら返事を待ったけどなんの応答もない。
もう一度押してみた。
だけどやっぱり何も反応はない。
スマホで電話をかけてみた。
長いコール音。出ないのかなってあきらめようとしたとき、ようやく繋がった。
「はい」ものすごく具合が悪いというのがその声で伝わる。
「あのぉ、繭ですけど。今マリナさんのマンションに来ているんです開けてもらえますか?」
「えっ! 嘘―――――わかった。ちょっと待っててね」
そういうと、少しの時間をおいてエントランスのガラス張りの内ドアが開いた。
エレベーターに乗ると、階層の多さに圧倒される。思わずまたスマホを見て何階かを確かめボタンを押した。
たぶんここだろう。ドアの前で、インターフォンを押す。
すぐにドアの世情が解除された音がして「入ってきて」と声が聞こえてきた。
そっと、ドアを開け、マリナさんの家の中に入っていく。
「お邪魔します」
長い廊下を進むと、広いリビングに出た。
そこにダイニングの椅子にうなだれながら座るマリナんさんの姿があった。
ああ、本当に具合悪そうだね。
マリナさん。
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