第74話 嫉妬はシ~と! ACT2

あ――――、何だろうムシャクシャする。


モバイルパソコンをぱたんと閉じて、少し離れた彼の方に視線を投げかけた。

私の視線を感じたんだろう。彼がブースのパーティションの境目からちらっと顔をこちらに向けたのが分かる。


その彼の視線に、ニコッと笑顔で返した。

さっと彼は視線をそらした。


「ンもぉ!」せっかく可愛らしくニコッとしてやったのにぃ!


「あっそうだ、打ち合わせしないと」

メールで彼宛てに

「山田さん、案件『32bw5ff』に付いて打ち合わせしたいんだけど大丈夫ですか?」


すぐに返信が来た。

「すみませんあと10分ほどお待ちいただけますでしょうか」

なんだこの10分と言ういうのは?


でもいいかぁ。待ってあげるよ。

「いいですよ。それでは先に打ち合わせ室に行っています」


「了解いたしました。すみませんありがとうございます」


うふふふ、これで私と彼は二人っきり。

じゅるるるるっる! えへへへへ、やったね。

イチャイチャできるよぉぉ。


「さぁてともう行って待ってよっかなぁ」

席を立とうとした時、ふくらはぎのあたりに何かが触れたような違和感を感じた。


ふと見るとその部分のストッキングが、伝線状態。

「あ、やっちゃったぁ」

んっもう! とイラっとしたけど、もう後の祭り。


替えのストッキング持ってきているから、それに履き替えないと。

ディスク横に置いてあるバックから、パッケージされたストッキングを取り出した。


たまにあるんだよねぇ。何の拍子かは分かんないんだけど、こうしてストッキング破れちゃうの。

だから替えは常時準備しておかないといけないんだよねぇ。


最もこれは安い使い捨てみたいなもんだからいいんだけどさ。

それに本当はストッキングなんて履かなくたっていいんだけど、さすがになんて言うの。この年で生足を晒すのはちょっと気が引ける。


高校生だったらまだいけるのかしらねぇ。


んー、水瀬さんの年くらい……ギリ、どうかなぁ。でもさ、それは社会人としての嗜みだと思うんだよ。


ああ、女ってなんかホントめんどくさいよね。


で、今日の水瀬さんはと。

淡いベージュのロングスカートかぁ。


内の会社、システム系やプログラマの社員は服装自由だもんねぇ。

制服は制服でいいところもあるんだけど、服装まで縛られたくないのは本音だなぁ。


まぁ男性社員はほとんど白のシャツにネクタイなんだけどね。でも最近はクールビズで、ネクタイ締めてくる男性社員少なくなってきているよね。

それでも彼はきっちりとネクタイ締めてきているんだよ。


それもさぁ、シャツも皺のないパリッとしたヤツ。

私が来る前からそうだったのかなぁ。


んー、「あっ!」そう言えばいつの日からかわかんないけど、彼のその容姿が変わった時期があった。

そうそう、監視カメラちょいちょいとハッキングして私見ていたんだよねぇ。

前は意外と型崩れしてたような気がする。


んー、これって彼が変わった起点はやっぱり、繭ちゃんが関係しているんだろうね。


あの子が彼の所に来てから彼は劇的に変わり始めた。


高校生だよ。しかもあなたは27歳なんだよ。

そう言う私はもう30歳超えてるんだけど……ぐすん!


でもさぁ、人の恋路に口は挟みたくはないんだけど、あなた達の関係って、今は世間からは非難される関係なんだっていう事自覚しているのかなぁ。


だから水瀬さんに手を出したという訳?

確かに水瀬さんとだったらお似合いかもしれないよねぇ。


それにさぁ、会社でもこうしていつも傍にいるんだから、何かあったらいつでも相談にも乗れるしさ、最も私と彼の関係を彼女だったら黙認しつつも、良好な関係性が築けるんじゃないのかなぁ……なんて思っているのは私のエゴかしら。


そんなことを考えているとちらっと、彼が私の方に視線を投げかけて来た。


あ、そうか、私先に行ってるって送っておきながら、もう彼の方は準備出来ちゃったんだぁ。


それじゃ行こっかなぁ。


ぱたんと打ち合わせ室のドアを閉めて、とりあえずはこのストッキング履き替えないと。

御トイレに行って履き替えればいいんだろうけど、それもなんだかめんどくさくなっていたから、もうここで履き替えちゃう。


ヒールを脱いで、スカートくるっと回して、フックを外すと、すとんとスカートが下に落ちた。

腰のあたりにあるストッキングの端を指でひっかけストッキングを引き下ろして脱ぎ捨てた。


下はパンテーが露わになった状態の所で、なんともタイミングの良いことか、彼が「お待たせいたしました」と言いながらドアを開けた。


その私の姿を直視した彼は「おっと!」と言いまたドアをぱたんと閉めた。


何よ! 別にいいのよ。そんなに驚かなくたって。


ふぅ、ま、彼らしい反応でしょうけど。

新しいストッキングをパッケージから取り出し、すっと足につま先から履き上げる。


スカートを履いて、外で待つ彼に「ごめんねぇ」といいつつ中に引き寄せる。


「あ、すみませんでした部長」

「いいのいいの、別に浩太なら見られたって大丈夫だから」


そうそう、私は逆に見せてあげたいんだよ。


どことなく落ち着かない様な感じの浩太を目にして、伝線したストッキングをあえてしまわずに私の座る横に置いた。


ンフフフ。脱ぎたてのホカホカストキングだよ。浩太欲しいでしょ!


対面に座るなり浩太は

「それで、案件『32bw5ff』についてでしたよね」そう言いながら浩太は自分のモバイルパソコンを開いた。


根が真面目なんだよねぇ。

とりあえずは仕事しないとね。


「納期まじかなんだけど、この案件進捗悪いんだよねぇ。どうしてなのかなぁ」

「ええッと、長野が担当している案件ですね。大幅な仕様変更があったみたいですね。それで根本から見直しをして、今ようやくここまでこぎつけたというところでしょうか」


「それは客先からのクレーム? それとも依頼仕様変更? どっちだった」


「依頼仕様変更ですね。ですから部長への報告はしなかったんだと思います」


「だったら納期の猶予の交渉ありだよね」

「ですね。でも出来れば当初の納期に間に合わせてほしいという事を訊いていますけど」


「出来るの?」


「このままでいけば、ギリギリ可能かと……」

「ふぅーん。そっかぁ何とかなりそうなんだぁ」

「最もこちらの応援を経てですけどね」


ポンポン!! 浩太こっちに来なさいな。と私は隣の席を軽くたたいた。

浩太が私の横に座ると、自分のモバイルパソコンにあるタイムスケジュールを彼に見せて。


「ねぇ、こんなにいっぱい詰まっているのよぉ。あなたの方もかなり溜まっているんじゃないのぉ?」


「確かに溜まっていますねぇ」


「そうでしょうそうでしょ。溜めるのは良くないわよ。絶対に!」

「うーん。どうしましょうかねぇ。いっそ外に放出て言うてもありますけどね」


「あああ、放出ね。それもいいんじゃない」


「でもさぁ、やっぱり中で出来たらお互いいと思うんだけどなぁ」


「中でですか? 出来ますかねぇ」


「タイミングさえ合えばチャンスはあるわよ」


「タイミングですかぁ。で、その後はどうされるんですか?」

「もちろん責任取れなんて言わないわよ」


「うーん。あとは水瀬がなんと言うかですね」

「あら、水瀬さんだったら理解あるんじゃないのぉ?」


浩太の体に私の体をそれとなく密着させて

あ、見てる見てる。なんだか視線が胸のあたりに集まっているのが良く分かる。


ああああ、ん。なんだかもう体が熱くなってきちゃったぁ。


なんだかどきどきしているよ私。

いいよいいよこの感じ。


と、……。


「それじゃ水瀬と打ち合わせして来ます。何とかなるでしょう」


すっと浩太は私の隣から立ち上がり、この部屋から出て行った。



「うんっもう。もう終わりなの!!」


ああ、もっとドキドキしたかったのにぃ!

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