第73話 嫉妬はシ~と! ACT1

最近やたらと先輩の周りには、女の匂いがプンプンする。


繭ちゃん、部長、いいやこの場はマリナさんだろう。

それにだ、なんと昔の彼女まで出てきている。


んー、まぁ話を訊くとその彼女の存在は、あの先輩の性格を作り上げてしまった、根源だという事を繭ちゃんからそれとなく聞いた。


それにだ繭ちゃんの前の学校の担任だったと言う、偶然と言うか出来過ぎた話。

先輩と繭ちゃんとの接点が出来上がっているというこの構図。


ありえない。


その昔の彼女と先輩は暇があればメッセージのやり取りをやっている。


余命幾何と、残りの時間を大切にしたという想いは十分に分かる。

いいや、私は心が広いから、そこについては理解しているつもりだ。

私だってもし先輩と同じ立場だったら、きっとそうしたに違いないだろう。


ここは暖かく私は見守っていておくべきだと思う。


まぁ、マリナさんは相変わらずと言えばその通りなんだけど、会社では、周りに見えない様にして、先輩にすりすりと体を寄せている。

多分先輩の事だから、マリナさんとはその先に突入することはないと思う。……ただ、これはあくまでも私の想いと言うか願いである。


生身の女性にはこれっぽっちも興味を示さなかった。いや、生身の女性には拒否反応を出しまくっていたあの先輩が、今ではその反応自体もなくなりつつある。


最もその反応を克服させたのはこの私である。それは先輩には自信を持って言える。

まだ、この体、あの時の先輩の温もりがずっと残っているんだから。

私は今、誰よりも先輩との付き合いでは、深い関係にある位置にいるのは事実だ。


しかしだ!


あれから、私と先輩の間には何もない。


信じられないほど何もないのだ!!!。


仕事上がりに二人で呑み入ったり、休日にデートしたり。

あ、そう言えばこの前先輩のおねぇさんの所に一緒に行ったけど、あれは何となくついでと言う感じが否めない。


でもさ、でもさ。あの時先輩のご両親もいて、おねぇさんも私の事先輩の彼女だって認めてくれた。


そうなんだよ。あの頃は先輩も私の方をちゃんと向いてくれていた。

言葉や、行動なんかなくたって、その気持ちは伝わっていた。


その伝わっていた先輩の想いはその先には進んでいないんだろうか?

もう一度言う。


私は先輩と二人っきりで過ごしたのはあの熱を上げた時だけだった。

それとも、私を抱いたのはあの熱のせい?

先輩の意識が熱で崩壊していたからなのか?


だとするならば、あの時は単なる流れ的なものだったという事なのか?

そうだとするのなら、私はあまりにも報われないのではないか。


でもさぁ、後悔はしていないよ。


憧れの先輩と一度きり……今はだけど、これからまたあるとは、保証はない。何でこういうのに保証が必要なんだ。

分かんないけど……。

でもそういう関係になれたという事実はもう覆すことは出来ない事実だ。


あ、もしかして私って重い女なのかなぁ。


一度の事でここまで思い込んでいる自分が何となく、嫌気がさしてきた。


「はぁー」


ため息をつくと幸せが逃げていくって、友達からよく言われたなぁ。

でもため息はつきたいときには意識して出るもんじゃない。

出るから出るんだよ。


で、今一番の私のライバルは、やっぱり繭ちゃんなんだろうな。


この際元カノさんはわきに置いといてと。

今は、先輩は元カノさんの事でいっぱいいっぱいかもしれないけど、本当にこれから先、先輩が選ぶ相手って、私と繭ちゃんのどちらなんだろう。


でもさぁ繭ちゃんはまだ高校生。

あの先輩が高校生に手を出すとは考えたくない。


手を出すなら年相応な私に出してほしい。


それでも、先輩が繭ちゃんを見つめる目は、普通の眼差しとは違う事は感じている。


多分、先輩は繭ちゃんの事物凄く気にかけているんだと思う。

だけど、高校生相手にその気持ちをぶつけるのはやっぱりかなりの抵抗があるんだろうな。



そもそも高校生って、まだ子供じゃん。



親のすねかじってさぁ、化粧したりして男がどうのだとか、やりたい事やりたい様にやってる自由気ままな生き物だよ。


てか、私も実際その頃はそうだったんだけどさ。


そう言う高校生相手にマジに将来の人生を共に歩む人として選択するのはかなり荷が重いと思うんだよ。


「はぁ~」

また、ため息が出た。


ああでも、繭ちゃんて私がイメージする高校生とは違うんだよなぁ。


毎日さぁ、先輩のご飯作ってさぁ、お弁当まで持たせてあげてるんだよ。

それに、繭ちゃんどういう事情があるのかは分かんないけど、ちゃんと自立しているし。

今はアルバイトまでして頑張っている。


な、なんだ見方変えると私より凄いんじゃないの?


学生か、高校生かそうじゃないかの違いだけ?

だとしたら、私叶わないかもしれないなぁ。


もしさぁ、先輩が繭ちゃんを選んだら、私はどうするべきなんだろう。



二人を大人の武器を使って引き裂く!!



んー、物凄くえげつないないなぁ。


それよりも、今のうちに強引に既成事実を作っちゃう。とか。


私たちの周りはさぁ、私と先輩は付き合っているという事になっているんだから「ごめ――――ん!! 出来ちゃったぁ――――!!」てなっても誰も文句は言わないだろうけど。


まぁ、世間一般的には順序は、先行結果という事になるんだろうけどね。


先輩との赤ちゃんかぁ……。

んー、なんだかとても現実味のある妄想だよねぇ。


妄想? んー、それを実行に移すにはあの朴念仁の先輩の気をどうにかしてまたこっちに戻さないといけないという課題が……。


ああああ、ループしちゃったよ。


結局のところはそこに辿り着いてまたループするんだろうな。

これじゃ無限ループだよ。プログラマに文句言ってやりたい。


て、か、これプログラマ関係ないんだけどね。私の事なんだから。


「はっ」おっと危ない。またため息つくところだった。

で、結局の所、私は何を今まで考えていたんだ。


このモヤモヤ感をどうにかしたくて、こんなことを考え始めたのか?

だとしたら、よっぽど今の私欲求不満なのかもしれない。


今のこの関係を私は出来るのなら壊したくはない。


繭ちゃんとは友達でいたい。ライバルであることは変え難い事実なんだけど。


でもこのままではいけないような気も、すんごくするんだけど!



「おい水瀬! 水瀬」

「はぁ?」

先輩が私のディスクの横に立っていた。


「お前何さっきから何呆けてンんだ! メール、BCCの返信お前だけ来てねぇんだけど」


「えっ! あ、えっえええええええッと。す、すみませんまだ見てませんでした」


「おいおい、大丈夫か? どっか具合でも悪いのか?」

「わ、悪くありませんす、すみません」


「ならいいんだけど。早く返信よこしてくれ。でないと俺の作業が先に進まねぇからな」


「はい、ただ今」


ああ、やらかしちゃった。

先輩に怒られちゃった。


でもちょっぴり嬉しい。久々だなぁ、先輩に怒られるの。


ああああ、先輩に怒られることで喜びを感じている私って、もしかしてドMだったのかなぁ。



出来ればもっと叱ってほしいんだけど……。

やっぱり私は『ドM』だ。

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