第51話 悪女にご注意 ACT6
「どうなんですか? せんぱぁい」
「あ、遊びって……、そ、そんなこと今ここで言う事か」
うわぁ、だんだん修羅場化してきたんじゃない?
「ねね、繭たん。繭たんは本当にこの人が好きなの? こんな状況でどうしてそんなにも平然としていられるのかなぁ。私だったら、多分物凄くジェラシー感じちゃうんだけど」
「そうなのよ!! え――――と、繭ちゃんのお友達さん。今の私の気持ちを代弁してくれてありがとう。あ! 店員さん。生お代わりください」
「おい、水瀬。お前飲み過ぎだぞ」
「いいじゃないですか、先輩がうじうじしているからですよ」
「うじうじなんてしてねぇよ。ふぅ、水瀬、肉食え! たくさん食え。腹一杯食え。俺にはお前が必要だ」
そっかぁ……。浩太さんは水瀬さんが、必要な人になったんだ。
「浩太、いいのぉ、今そんなこと言っちゃってぇ? それって認めることになるんじゃないのぉ?」
マリナさんが浩太さんのわき腹を肘でつつきながら言う。
「今の俺にとって水瀬は必要な
なんだ?? 浩太さん、なんか言いくるめていない? でも悪い気はしないけど」
「せんぱぁい。私は先輩の必要な
ああ、水瀬さん泣き出しちゃったよ。
「はぁ~、浩太さぁあんたやっぱり女の扱いへたねぇ。こういう時はさぁ。『好きだ!』の一言でいいのよ。それが複数いてもよ」
マリナさんがちょっとあきれたように言う。でもマリナさんの言う事も一理あるよ。この場で決めろとかどうにかしろなんて言えるわけないじゃん。
「ねぇ、水瀬さん 。私達お友達だよね。浩太さん抜きにしての話なんだけど」
「えっくえっく……いいのぉ、繭ちゃん今まで通りお友達でいてくれるのぉ」
「うん、私は水瀬さんとお友達でいたい。だから無理に避けるようなことはしないで、たとえ浩太さんと何があろうとも」
「……うん。ごめんなさい、繭ちゃん。ありがとう」
その「ごめんなさい」の意味をその時なぜか拒否することも、否定することもなかった。
まだビールの酔いが残っていたからもしれない。
「ふぅ―ン、繭たんってやっぱり大人だよねぇ。同じ高校生だなんて思えないよ。本当は年ごまかしていない?」
ええ、っと。なんていうかその。
でも実際は一つ上なんだけどね。
「なはは、ごまかしてないよ最も有菜より一つ年上だけど」
「ええ、そうだったの! 繭たん私より一つ年上だったの?」
「うん、あれ、知らなかったの」
「うんうん、知らなかったよ。てっきり同い年だとばかり思っていたんだけど」
「引いた?」
「んー、何で引かなきゃいけないの? そんなんで嫌いになったりなんかしないよ。むしろもっと好きになちゃった。思ってたんだよねぇ、なんかちょっとおねぇさんぽい的なところ。そこ、物凄く私惹かれているんだぁ」
「惹かれてる!」ピクンとマリナさんが何か反応した。
「ねぇ、ねぇ。有菜ちゃん。もしかして、有菜ちゃん繭ちゃんと友達以上になりたいなんて思っていない?」
「えへへ、本当はそうなんですよね。こうして繭たんの傍に居ると私物凄くドキドキしっぱなしなんですよ。あ、もしかしてこれって恋って言うやつですかねぇ」
「
「本当ですかマリナさん!! やったぁ。理解してくれる人見つけたよ繭たん。私、繭たんを愛しちゃう。同じ女の子同士でもこうして愛せるんだという事理解してくれる人見つけたもん」
「やったぁ、ここでまた新たなLoversが誕生したね。繭ちゃんと有菜ちゃん。性別を超えた究極の恋愛だぁ。いいなぁいいな。こういうのみんな幸せハッピーだぁ」
今日のマリナさんテンション高!
そしてマリナさんは自分の空いているところをポンポンして有菜を呼んだ。
「いろいろと教えてあげるよ有菜ちゃん」
「本当ですか? マリナおねぇ様!!」
ああ、この二人別な世界に突入してしまってようだ。
しばらくはあの二人の世界には入らない様にしよう。うん、それがいい。
と、水瀬さんがいきなり静かになったと思ったら、酔いつぶれてテーブルにうつぶせになって寝てしまっていた。
「ああ、だから飲み過ぎだって言ったんだ。水瀬の奴つぶれちゃったよ。これ以上はもう限界だろうな。またこの前みたいに俺に直撃されたら元もこうもねぇからな」
「うふふふ、そう言えばそんなことあったよね。浩太さん物凄く臭くてさぁ」
「ああ、そうだな。あんときはまいったよ。ホント」
「でもさぁ覚えている? 私と初めて会った時も浩太さん物凄く臭かったんだよ」
「うっ! まだそんなこと覚えていたのか繭」
「だってさぁ、強烈だったんだもん」
「お、そこの肉もう焼けてるぞ」
「うん、ありがとう。浩太さんも食べてよ」
「ああそれじゃ、どんどん焼くぞ!」
「うんうん、焼いて焼いて。いっぱい食べよ」
「ああ、一杯食おう……繭」
「……うん」
「お前とこうして、外食するのはこれが初めてだな」
「あちっ! そ、そうだね。なんか不思議な感じ」
「何で不思議な感じなんだ?」
「だってさぁ、こうして浩太さんとご飯食べるのって、いつも浩太さんの部屋で、私が作った料理を浩太さんが美味しそうに食べてくれて、それを見ているのが……私、幸せな気持ちになれたんだぁ。だからこういう場所で浩太さんと一緒にご飯食べてるのが何だか不思議な感じなんだよ」
「そうだよな」
浩太さんは一言呟くように言った。その言葉が私には、浩太さんの想いすべてがこめられているような気がした。
「だからさ、これからも浩太さんがよければ、今まで通り食事、私が作ってもいい?」
「いいのかそれで……繭」
「いいも悪いも、始めっから私たちはそうすることでお互い助かっているんだから。ただ、ちょっと足りない部分を今、補っているだけにすぎないんだから」
「……すまん。正直助かるよ」
そうなんだよ、私たちはお互い今足りない部分をちょっとだけ補っているだけの関係なんだよ。
それでいいじゃない。
でも、ふと見る浩太さんの顔が、少し悲し気に見えるのはなぜだろう。
ちょっと胸の中が熱くて痛い。
この時私は、すべてを受け止め。そして理解したんだと思う。
浩太さんの今の気持ちを。
そう……。それでいい。
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