第50話 悪女にご注意 ACT5

「いらっしゃいませ――――ぃ! お客様5名様で。5名様ご来店で―――す!!」


一緒の席になっちゃったよ。


席の位置関係はこうだ。

まずは私の向かいにマリナさん。その隣に浩太さん。カクッと曲がって水瀬さん。またカクッと曲がって有菜。そして私に戻る。

なんとも意味ありげなこの配置。


そしてニコニコ顔のマリナさん。


「さぁて、まずは生だよね。あ、繭ちゃんたちはドリンクバー頼んだらいいよね」

「そ、そうですね……」

しかし気まずい空気がこの5人を包み込んでいる。


一番のこの雰囲気の発生源は間違いなく浩太さんだ。

隣にマリナさんがいるから何とかまだ救われている感じがする。


「あ、あのぉ、皆さんは梨積さんとどういう関係なんですか?」

ああ、そうだ、一番訳わかんなくこの空気の中にいる有菜がいた。

ここは私が有菜に説明した方が無難だろう。そう思った矢先にマリナさんが一言こういった。


Loversこいびとたち<恋人たち>。


「ん? Loversって確か恋人たちと言う意味ですよね」

「その通り恋人たちなのです!!」

「恋人たちって、でも男の人一人しかいませんよね」


「うふふふ、そうこの私の隣にいる浩太こそがLoversの中心なのですよ」

「あのぉ、良く分かんないんですけどぉ?」


「あらそぉ? まずはさぁ、私と浩太。そして、そこでおとなし――くしている水瀬さんと浩太。で、あなたの隣でちょっとむすっとしている繭ちゃんと浩太。この関係のLoversなのよ。しかも繭ちゃんと浩太はお隣同士で、共同生活中。まぁ私たちの関係は簡単に言うとこんな感じかなぁ」


「ええ、なぁんだ繭たん彼氏いたんだぁ……て、年上だよねぇ。社会人さんですよねぇ。いわゆるサラリーマンさんですかねぇ。でで、あの繭たんのお部屋のお隣で、……共同生活って同棲しているってことなの、繭たん?」


「ええええええッと、か、彼氏って言うのは、ち、違うかなぁ。ただ、共同生活。同棲じゃないよあくまでも共同生活なんだから。そこんとこは間違えない様に。有菜」


「なに慌ててんの繭たん。いいじゃん、歳離れていたって好きならいいじゃん。でも……かなり複雑そうだけど?」


「なははは、そうだね。かなり複雑なんだよ」


私も冷や汗が出てきそうだ。それなのに肝心の浩太さんは額に汗を流しながら完全に固まっている。

確かこれってフリーズ状態て言うんだっけ? 固まったままピクリとも動かない。


もしかしてすでに息きはてていたりして。


そんな浩太さんを私はあえて「キッ」と睨んでやった。

それに気づいた浩太さんのこめかみのあたりがピクリと動いた。


「ところでさぁ繭ちゃん、こんなにも可愛いお友達がいたんだぁ同じ学校の子なの?」

興味ありげにマリナさんが聞いてきた。


「そ、そうです。あ、紹介遅くなりましたけど、私のクラスメイトの沢渡有菜さわたりありなさんです」

「へぇ、繭ちゃんのクラスメイトかぁ。ちゃんと学校でもお友達作ってたんだね繭ちゃん偉い偉い」

と、言いながらも、注文を取りに来た店員さんに、マリナさんがあれこれ注文している。


「適当に注文しちゃったよ。あとは各自に好きな頼んでね」

さすが部長さん、しきるなぁ。


「それでもう少し詳しく聞いていいですか?」


有菜がマリナさんに食い入るようにして質問し始めた。


「いいわよう、繭ちゃんのお友達ですもんね。しかもおそろいのシャツなんか着てペアルック? 二人ってそれだけ仲いいんだぁ。それじゃ、洗いざらい話さなきゃねぇ、浩太に繭ちゃん。それに……み・な・せ・さぁん」


最後の水瀬さんの所だけが、なぜかなまめかしく聞こえたのは私だけかなぁ。


「さっき、聞いた話だと4角関係? なの?」


「んーちょっと違うなぁ。正確には三角関係だよねぇ。あ、私、私は浩太がどっちと付き合ってもLoversの関係だから私はこの際抜いてもいいよ」


おいおい、マリナさんあなた何か楽しんでいませんかぁ?


それにどっちと付き合っても、Loversの関係ってさぁ、それってもうマリナさんは浩太さんを離さないて言う事なのか? まぁ、マリナさんは始めっからそういう関係を望んでいたんだろうけど。


で、私と水瀬さんが浩太さんの恋敵になっているという事だよね。そ、それで、まだ非公開だけど、水瀬さんと浩太さんはその関係をしちゃったらしい……という状況。


ん―、まっいいかぁ。ここで修羅場になったって仕方がないし。私は有菜とご飯食べに来ただけだし。たまたま偶然浩太さんたちと出くわしただけだし……。


関係ない関係ない。お肉食べよ。食べてお腹いっぱいになろう。

はははは、と、目の前にあったジョッキを無意識に手に取ってごくごくを飲んじゃった。


「あ、繭ちゃんそれ私のジョッキ」



ぷはぁ――――っ!!



「ああ、飲んじゃった。繭ちゃん未成年なのにビール飲んじゃダメでしょ」


「ええ、ビールだったの!!」


皆さん一般の高校生はまだ未成年です。お酒は二十歳になってから。

間違って飲んじゃってごめんなさい……繭の独り言でした。



ごん! 今まで何も話そうともしなかった水瀬さんが、ビールジョッキを一気に空にさせて勢いよくテーブルに置いた。


「先輩! どうしてさっきから何も話さないんですかぁ」


ついに水瀬さんも口を開いた。


「えええっとだな。なんていうか。その……」


あぁ、浩太さん凄い汗だよ。

ぬはははは、自業自得だねぇ。隠れて水瀬さんとやっちゃうからだよ。


「そうそう、何ではっきりさせないの」


じゅぅぅぅ。マリナさんと有菜が、お肉を焼き始めた。


「そうですよ先輩! 私は先輩の事好きなんです。いいえ、愛してるんです」


お肉を焼きながらマリナさんが

「きゃ、きゃ、水瀬さんついに言ったわね愛してるって」


「うぬぬぬぬ」

ビールの酔いが一気に私を別人へといざなう。


「あ、このお肉もう食べごろよ。お先にいただこうかしら」

マリナさんが取ろうとお肉を私はすかさず、さっと取りアムっと口に入れた。

「あらら、繭ちゃんにとられちゃった」


ああ、美味しい。

お口に中にお肉のうまみがいっぱいに広がるよう。


あ―、なるほど、このお肉の味とビールってほんと相性いいんだ。初めて知ったよ。だからみんなビール飲んでるんだ。


て、さぁ、肝心の事から脱線してるけど、もうなんか溜まっているもの全部吐き出したくなってきちゃったよ。


ちらっと水瀬さんの方を見ると思わず目があっちゃった。

おお、水瀬さんなんだか戦闘モードに突入している感がするんだけど。

いいのか? 私と水瀬さん。ここでバトルに流れ込んでも!!


ああ、あんだか気持ちよくなってきちゃったなぁ。

お酒なんて飲むからだよねぇ。本当は飲んじゃいけないんだけど。


多分、有菜も私が酔って来たのを感じたんだろう。

「ねぇ大丈夫、繭たん? ウーロン茶とか持ってこようか」

「へへへ。多分大丈夫だと思うよ。でもウーロン茶欲しいなぁ」

「じゃぁ行ってくるよ」

有菜が席をたった時、水瀬さんが2杯目のジョッキを空にしていた。



「せんぱぁい。私とは遊びなんですかぁぁ!!」



あ、水瀬さん完全に目が座ってるよ。

それに……言っちゃったね確信に迫ること。


じゅぅぅぅ。お肉が焼ける音が、なぜか周りの雑踏よりも良く聞こえる。


さて浩太さん、あなたはどう答えるの?


ああ、私って意外と悪女だったんだ。

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