第203話 前略、上陸と気絶と

「ん〜〜〜〜っ!快っ晴!」


 約三日の航海が終わって、船は目的地に。

 いざ行かん、変人が二名ほど確定している島。青の領地へ。


「リリアン的にはただいま、だね」


 伸ばした身体がパキポキ鳴ったところでやめる。

 あんまり良いことじゃないんだろうけど、ついやっちゃうよね。


「えぇ、ですが家につくまで取っておくことにします」


 とかなんとか言ってるけどちょっと嬉しそう。

 そりゃそうだよね、半年ぶり?くらいに帰ってきたんだから。


「本当にちょっと寒いね、あと青くない!」


 前に聞いていた通り、寒い。空はこんなに晴れてるのに、冬の晴れた日みたい。

 あと青くない、本当に青くない。


「えぇ、特に青くはありません。ですが気温が低いこと以外は過ごしやすい土地です」


 ちょっと得意げな説明。

 まぁ、アレかな?人が住んでるところが青かったり?


「そんじゃあ二人共、道中気をつけて行けよ」


 グワシグワシ、大きな手で頭を撫でられる。

 あたしはいいけど、年頃の娘には髪型が乱れるのは嫌がる人も多いですぞ?


「船長さんは行かないんです?」

 

「あぁ、まだやることがあるからな。荷物を街に届けたらまた出航だな」


「そっか、大変」


「海の男だからな、陸にはいられねぇのさ」


 また上手いこと言ったって顔。

 まぁ、悪いもんじゃない、良い表情。


「短い間だけど、お世話になりました」


「おう、また機会があったら乗りな。待ってるぜ、セツナ」


 うん、また機会があったら。

 良い言葉だ、良い言葉はいくら言ってもいい。

 

「じゃあ行こうか、リリアン」


 荷物をおろす人達の間を通って上陸。

 

 とりあえず、見えるのは森。

 後ろは海、昨日の嵐を感じさせない普通の海。


「海。やっぱりいいよね、泳げないかな?」

 

「泳ぐことは可能です、ある程度沖に行くと嵐に巻き込まれますが」


「…………今回はやめとこうかな」


 今回も華麗な泳ぎを披露するのはお預けだね。

 まぁ、泳ぐよりダラダラと浮いてたいんだけど。  


「沖にいけば嵐が起きるんだね」


 本当に罠みたい。


「いえ、今も海は荒れています。内側からはそう見えないだけで」


 不思議な仕組み。

 んー、でもそうだとちょっと心配がある。


「ちょっと心配だよ」


「??」


「いや友達がね、ちょっと前に海を渡ったみたいなんだよ。任務とかなんとか言ってた」


 あのメガネとクソガキ。

 他の人も先に行ったみたいだし、ここを通るなら巻き込まれてないといいけど。


「いえ、それは大丈夫かと。そもそも特殊なルートでないとココには近づけもしないので」


「そっか、良かった」


 それなら心配ないね。

 さてさて、それじゃあ出発しようか。


「セツナ」


 はて、なんだろう。

 忘れ物はないはず。あれかな荷物と一緒に行こうとか?

 

「今からあなたを気絶させようと思うのですが」


「ん……んん……?なんで?」


 え、本当になんで?

 気絶させられるの?あたし?なんで?……なんで?


「今から進む森は非常に迷いやすいんです。それに危険もそれなりに、気絶させて背負って行こうかと」


 街?まではやっぱり森なんだね。


「えと、船員さん達は?」


「約二名、道に詳しい人が先導します。それでも一割は森でいなくなります」


 んー……どうしよ、リリアンの提案でも問題ないけど。

 いやでもなぁ……いくら迷いやすくても担がれて行くのはちょっとアレ、恥ずかしいというか。

 

「ピッタリくっついて行くよ、服の裾でも掴んでさ」


「そうですか、ではくれぐれも離れないように」


 あぁ、でも。そう提案してくれたならそうゆう意味があるのかな。

 この島も隠したいものみたいだし、知られなくないものが森にもあるかもしれない。よそ者のあたしが歩き回るのはよくないかも?

 

 …………ふーむ。


「ねぇ、リリアン。やっぱり担いで行ってくれない?」


「いいんですか?」


「うん、ガツンとやっちゃって」


 まぁ、寝ている間に目的地につくならそう悪くない。

 気絶も慣れたもんだし、リリアンなら上手くやってくれるでしょ。


「──では」


 目は瞑っておこう。

 本人に敵意も悪意もなくっても、リリアンが攻撃してくる時点でめちゃくちゃ怖い。


「やれやれね、ほんっと」


 …………ん?誰?

 分からないけど、あたしとリリアン以外の女の人の声が聞こえる。


 船員の人……?違うよね、少なくともあの船で見た範囲では女の人を見てない。

 リリアンの可能性はやっぱりない、こんなに高い声じゃないし話し方もまるで違う。


「ん……」


 ゆっくり目を開く。

 瞑っていたのは短い時間でも、強い日差しは視力の回復を邪魔してくる。


「まさかリリが殺さずに連れてくるなんて驚き桃の木ね、おかげで賭けには負けちゃったじゃない」


 真っ赤なドレスのような服装が目に入った。

 背も高くて、スタイルの良さも視線を集める。


「でもまだ逆転の可能性はあるわ、だって……賭けの内容は来訪者が生きて屋敷まで来るか、なんだから」


 顔立ちは悪くない…………むしろかなり良い。

 でも浮かべる表情が幼い、無邪気で……なのにちょっと我儘そうな顔。

 

 だからかな、同い年かそれ以下くらいに見える。いつも落ち着いたリリアンを見てるからよりそう思う。


「だから……あんたを殺すわ」


 うーーわ、懐かしいな。

 なんかリリアンと初めてあった時のことを思い出すよ。


 まぁ、今回は言葉と同時に攻撃してこない分マシだけどね。

 だけど残念、さっそく面倒事に巻き込まれたみたい。

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