第191話 前略、シャンデリアと後ろ姿と

「───でさ、そりゃあもう激戦の連続だったんだよ…………んー、退屈じゃない?」


 急がず焦らず、かといってゆっくりでもなく。

 どっちつかずのペースで一歩、また一歩。


 今日の話を聞かせてほしいと言われたので、その話。

 でもちょっと前に戦った、ドラゴンよりもインパクトがあるかと言われたらそうじゃないけど。


「いえ、とても興味深いです。今日はそちらを見る余裕がなかったので」

 

 お城に近付いて、人も増えてきて。

 リリアンが視線を集める。なんだかあたしが照れくさい、そしてちょっと誇らしい。

 

 虎の威を借りてる気分。

 まぁ、あたしは添え物、ちゃんと自覚はあるよ。


「──んでその時現れたのがさ、瞬殺されることに定評のあるあの山賊達でさ。まさかアイツらがあんなにも成長していたなんて……」


「ふむ……確かにあの人達も、そろそろ一矢報いる頃合いですね」


「それどころじゃなかったよ……合体残虐奥義バンデッド・レギオンの前にあわや一巻の終わりかと思いきや、そこはさすがあたし、なんとか事なきを得る、ってやつかな」


「えぇ、指導している身としても誇らしいです」


「リリアン様様だよ、いつもありがと。本当にこの戦いだけで、本にしたら一冊分くらいなっちゃうよ」


「書いてみますか?」


「んー……止めとくよ。本当はあんまり得意じゃないんだよね、文字書くの」


 良かった、話せてる。

 ん……でもそろそろやめた方がいいかな?人が多く……多く……んん?


「ねぇ、リリアン。なんか……普段着の人多くない?」


 なんか……思ってた雰囲気と少し違う。

 あたし達みたいに着飾ってる人が大半だけど、結構普段着……だけじゃなくてもっとラフな人も多い。


「はい、今日は収穫祭。お祭りですから」


「んー……騙された?」


「騙してはいません、ほんの少し隠しただけです」  


 にんまりと、良い顔で笑うようになったよ。本当に。

 でもあれだよ、普段着でいいなら普通に行くよ?多分。

 


 

 

「わぁーーお……すっごい」


 なんというか中は意外とイメージ通り。

 いろんなフロアが開放されていて、ボーイさん?ガールさん?とにかく正装をした人達のトレイの上には軽食や飲み物。


 入口のうんぬんはリリアンがやってくれたので、あたしの仕事は驚くことだけである。


「見てよリリアン!シャンデリア!高そうな壺!絵!廊下は長いし部屋は多い!」


 堅苦しいものじゃないとわかったなら、ちょっと気楽。

 田舎者らしくはしゃごうじゃないか。実際初めて来たよ、こんな絵本の中みたいなところ。


「セツナ」

 

「……ごめん、はしゃぎすぎた?」 


 んー……一人じゃないからね、今は。

 周りにも似たようなの反応をしてる人はいるけど、ちょっとみっともなかったね。


「私の住んでいる屋敷も大きいですよ。美術品はほとんどありませんが、シャンデリアはあります」


「……なるほど、そりゃあ楽しみだよ!」

  

 いいねぇ、シャンデリア。

 リリアンの家に行ったら一日二日くらい泊まっていこうかな。


「ん?リリアンって……お屋敷に勤めてるの?」


 シンプルに疑問。

 普段の格好は使用人だけど、リリアンの主人さんって確か……


「勤める、というより住んでました」


「普段は何してたの?」


「何もしてませんでした」


 …………どうしよ、簡単に想像できる。

 基本的に屋敷をフラフラして、声がかかれば敵を斬りにいく。みたいな。


「基本的に屋敷を歩き回り、時折戦う。その繰り返しでした」


「あんまり健康的じゃないね」


「最近はその自覚がでてきました。戻ったら母を真っ当に手伝い、人と関わりながら過ごしましょう」


 とかなんとか、いつも通りの会話をしながら。

 たどり着いたのは大きなホール。音楽は厳か、ちょっとパーティー感が足りてない。


「セツナならどんな音楽にしますか」


 ん、顔にでてたかな。


「流行りのJ-POPをテキトーにね。ドラマで流れてるような、盛り上げるやつを」


 ルールなんて知ったことか、DJトキウラは自由な選曲が持ち味だからね。


「じぇいぽっぷ……ドラマ?」


 んー……こうゆうとき不便だね、異世界。

 あるものないものその他いろいろ。電子画面とインターネットが恋しいこの頃。


「…………ん?ねぇ、リリアン」


「はい」


「なんか……知り合いいない?」 


 ホールを見回っていると、なんか変な。

 スピーカーのようなもの、コードのようなものの行き着く先。人気のない扉の奥。


「ふむ……また私の知らないところで友人を増やして…………いますね、特徴的な」


 部屋のなかでカチャカチャカチャ。

 愚痴のように、ブツブツブツ。


 おかしな服装はしてない、この場ではむしろ推奨されてる正式な服装。

 王子様みたいだ。カラフルじゃないだけで、派手な服装はやっぱり本人の好みなんだね。


 大きな帽子で隠した気になってるみたいだけど、まるで存在感を消せてない。

 なんたってピンク色だからね。


「なにかお困りかな?」


「あぁ……そうなんですよ、海を渡って手に入れたこの道具。どうも魔力の流れがこんがらがってしまって……魔術師の方を待っているんです」


「…………ん?」


 あれ、あれあれ?

 おかしな、喋り方が全然違うし……


「ん……ねぇ、リリアン。あれ、ポムポムだよね?」


「えぇ、後ろ姿はどう見ても……」


 ちょっと後退、作戦会議。

 その間もポムポム?はガサゴソガサゴソ、カチャカチャカチャカチャ。


 後ろ姿は……多分、ポムポム。

 なんだけど……声に抑揚があるし、間延びもしてない。そして似てるけど、ちょっと違う声色。


「どう、ポムポムいる?」


 リリアンが目をつぶる。

 多分、遠くを見てる。どこかにいれば目の前にいるのは偽物だ。


「少し時間を」


「いつも思うけどさ、それって直接人を探せるの?」


「いえ、知っている場所を見るんです。そこから歩くように視点が動きます」


「ストリートビューみたいだ……!」


「すとりーと……?……………………いました、ポムポムさん」


 つまり……コイツは偽物、ってことね。


「…………半分焦げながら、杖を振り回してます」


「何してるんだポムポム……っ!」


 ちょっと気になるじゃないか!


「ポムポム?まさか姉さんのご友人……?」


 グルッ、とポムポムの偽物がこちらを向く。

 その顔は───


「やっぱりポムポムじゃん!」


 整った顔、でもあたしの友達ならなかなかつくらないような驚いた顔。

 それでもやっぱり、そこにいたのはポムポムだった。

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