第151話 前略、知り合いと窃盗と
「ん」
「む」
「あ?」
手頃な粉物を食べながら歩く。
ちょうど食べきった時、足を止める。というか止まった。
なんだろう。このところ見覚えのある顔によく会う。
それだけここが栄えてるって事なんだろうけど、こうも連続するとそろそろ偶然じゃすまない気がする。
「なんだテメェ、道あけろや」
……なんだこのクソガキ。
別にあたしは道を塞いでないし、向かいから知り合いが歩いてきたから足を止めただけだ。
「おい、やめろ馬鹿者」
このクソガキは知らないけど、それを咎めたこの無駄に整った顔をした金髪は知っている。
「やれやれだよ、躾が足りてないんじゃない?」
「それに関しては面目次第も無い」
長ったらしい名前の男。正直、どこが名前かよく分かってないけど。ケイ、確か最初はそう名乗っていた。
ケイは連れていたクソガキの頭を小突きながら、謝罪の言葉を述べる。
「いってぇーなっ!団長に言いつけるぞ!」
「言いつける?なにを馬鹿な事を、仕事の邪魔だと斬り捨てられるのがオチだ」
なんか……微笑ましいな。
年の離れた兄弟?とでもいうのか、ワガママな弟とその兄とでも言おうか。
斬り捨てる、というのはなかなか物騒だけど。
あたしも一つ下の妹を思い出す。別に仲が悪いわけじゃないし、むしろ良い方だけど。
なんとなく思い出した、ちょっと会いたくなった。
「なに笑ってんだよ貧乳!」
「あ゛ぁ?」
ブチリ、何かが切れた。
自分の喉から低い声がでて、クソガキの肩を掴みかかる。
「ん!?」
スルリと、クソガキがすり抜ける。
そのままあたしに体当たりをかまして、どこかに走っていく。
あまりに突飛な行動に、尻もちをつくまで何が起きたか理解できなかった。
「やれやれ……すまなかったな、立てるか?」
「ん、ありがと」
心底呆れた表情で額に手を当てた後、あたしに手を差し出してくる。
あたしはその手を握り返し、立ち上がる。
もちろん普通に立てるけど、差し出された手は握るようにしているのだ、一応。
「ありがとね。ありがとうのついでにさ、ちょっとアイツぶん殴ってきていい?」
「帰ったらしこたま叱っておくから、勘弁してやってくれ」
「乳がデカけりゃ良いってわけじゃない、それをしっかりと言っておいてね」
「全くだ、真の美とは内面に宿ることを理解してない奴の多いこと」
…………分かってるじゃないか!
なんだなんだ、最初の印象こそ最悪だったけどなかなか話の分かる男じゃないか。
「なんか、最初と大分印象違うね」
いやまぁ、その後の会話で若干アホなのは知ってるんだけど。
普通に良いヤツに感じる。紳士な対応、できるヤツって感じ。話しやすい。
少なくとも、初対面のあたしを小娘呼ばわりしたヤツと同一人物だとは思えない。
「当たり前だ、今は任務外だからな。プライベートまで片意地張ってどうする」
なるほど、同感だ。
ん?プライベートなの?ならあのクソガキは……
「アイツはうちの新人だ、俺が教育係として普段から面倒をみてる」
なるほど、新人……新人?あんなのが?警察みたいな集まりの?
なんか警察というか自警団みたいな?あぁでもあたしの友達も捕まってるから警察ほ方が正しいのかな?
ふむ、あれか、更生させる為に的なやつか。アイツもコイツも。
「そういえば二人してどこに行くの?」
別に目的地に興味があるわけじゃないけど、どうにもリリアンとコイツらは仲が悪いみたいだし。
もしも面倒事になりそうなら、ここで誤魔化しておこう。
「うむ、昨日の話だがここで申請もなしに、大騒ぎを起こした奴らがいると聞いてな」
…………しまった、問題はあたしの方か。
まいったなぁ……さすがに怒られるよねぇ。さて、どうするかなぁ……
よし、しらを切るか、知らぬ存ぜぬでいくしかない。
「もし今日も行われるなら、警備の一つでも必要だと思ったまでだ」
……良いヤツかよ!
ちょっとやめてよね、誤魔化してさっさと逃げようとしたあたしの方がダメなヤツみたいじゃん。
「白状するけどさ、あたしが首謀者というかなんというかさ」
「む?だが昨日は姿を見なかったが?」
んー……これは……どっちだ?
コイツはリリアンを知らないのか?昨日演劇を見てるならリリアンも見てるハズだし。
「えっと……どこから見た?あたしは最初の演劇にしかでてなくてさ」
「ふむ、やはり演劇か。俺が見たのはその後のステージだけだ、アレは良かった」
まだ判断はつかないか、ならやっぱりリリアンの事は伏せるのが正しい。
んん?なんて事を考えてたら……なんだそのしまったみたいな顔は。
…………あぁ!なるほどなるほど、なるほどねぇ。
「あたし、あのステージにいた娘。リッカとは仲が良くてさ、さっきも会ってたんだよね」
ピクリ、ケイの身体が確かに反応する。
「今度サインの一つでも「セツナ」
言葉を遮り、あたしに近寄る。そのまま自分の懐に手を入れ……
「いくら欲しいんだ?」
「そうゆうの、良くないよ」
分かったから財布を取り出そうとするな、バカ。
「さて、なんか食べてから行こうか……いや、買って行こうかな」
あの後何度か念押しをされ、ようやく別れた。
まさか実際に『金ならあるんだが』なんて言葉を聞くことになるとは。
「まぁ、なんだかんだ仲良くなれそう」
あくまであたしは、だけど。
なんとか仲を取り持ちたいけど、どうもアッチの勘違いってわけでもなさそうなんだよねぇ。
こればっかりは時間が足りない。今は今日の予定をこなす事に全力を尽くそう。
ん、美味しそうな屋台がある。
よし、ここにしようか。財布を探し、ポーチの中をまさぐる。
「ん?」
ガサゴソガサゴソ。
「んん?」
ガサゴソ……ガサゴソ……
「んん!?」
あれ!?ないぞ!財布が、ないっ!
いや待って、あったなついさっきまで確かにあった。
落とした?なにかにぶつかった拍子に?
………………。
「…………アイツか」
よし、多分、殺す。いや、しばく。
殺すのはマズいよね、殺すのは。
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