第59話 前略、若干と途中と出発と

 懐かしい夢を見ていた。

 あたしは基本的に夢を見ない、見ても内容なんてまるで覚えてない。


「たまには良いものだね」


 そんなあたしが夢を見た、懐かしい気持ちにさせてもらった。


「ところで、リリアンは何をしてるの?」


 もはやおなじみになった、眠っているあたしを見下ろすリリアン。

 あたしは今も寝そべったままだ、いつも何を見てるんだろうか。


 ……なんだか嫌な予感がする。よく当たる感じの、聞いてみるか。


「ねぇ、もしかしてリリアンって、夢とか覗ける……?」


 眠っている人を覗くように。それなら、夢、が一番に浮かぶ。


「……若干でしたら」


「若干!?」


 飛び起きる、嘘だと言ってほしい。マズいところまで見られたのか聞いてみよう。


「ちょっと待って!?若干てどうゆうこと!?」


「少々、多くはないが、と言う意味です」


「そうゆう意味を聞いてるんじゃないよ!!!」


 いや、あたしの言い方も悪かった、あたしはどれくらい見たのかが聞きたかったんだ。

 ……だとしても、ちょっとバカにされてるような?


「夢を覗けるのは本当ですけど、あなたの夢は覗きにくかったです」


「えぇ……覗かないでほしいんだけど……」


 やっぱり謎の多いメイドだ。見えるはずのないものを気合で見たり、夢を覗いたり。


「……ごめんなさい」


 おや珍しい、リリアンから素直に謝るなんて。あたしとしては、過去を見られたくないだけだからそこまでする必要は……


「その……友人がいないんですね、今日の夢は教室で皆さんから無視されて……」


「違うよ!?いや、あってるけど!違うよ!」


 誤解だ。あれは夢だから周りがあたしを見てないだけで、本当は友達いっぱい!

 リリアンの誤解を解きながら2人で地上へ向かった。久しぶりにカゴを背負って、もちろんお別れの為に。


 途中。最初に出会った3人組に謝りに行く、ちょっと殺されかけたけどなんとかなった。 


 途中。道具屋さんにお金を払いに行く、不意打ちしたせいですごい目で見られた。

 

 そして、しばらくあたしにお金は渡さない、とリリアンに叱られた。


 途中。学校を見た、壁を登った話をして、リリアンにスキルポイントを無駄使いしたのを思い出させてしまった。


 途中。『漢の鍛冶工房』へ寄った、中では2人のバンチョーが話し込んでいた、またも壊してしまった武器を受け取り、お礼を伝えて外にでた。


 途中、途中、途中、途中。出発するだけなのに、随分と寄り道できるくらいにこの街を知った。


 もう、さよならは昨日の内にすませた。

 ギン、ラヴさん、アニキさんとは、昨日のプリン騒動の前にさよならを言っておいた。

 別れを惜しんで、再会を願って。


「セツナ……いや、アネキ……姉御か?」


 そんなセリフを思い出す。仁義だ何だの言ってたがギンはそんなキャラじゃない、もっとテキトーな不良だ。

 

「そして友達だ」


 今のあたしが言う。うん、それでいい。


「さぁ行こうか!次こそ港町?」


 ふむ……リリアンは少し考え込んで。


「少し寄り道をしましょうか、魔法学園『アロロア』に行きましょう」


 おや珍しい、リリアンから寄り道の提案なんて『アロロア』?聞いたことのない場所だ。


「行けば分かります、さぁ、出発です」


 りょーかい、惜しむように振り返り、そして街の外へ歩きだす。

 

 死闘が行われた、学校の屋上。

 そこにある3つの人影に、あたしは気が付かないフリをしてリリアンの背中を追った。

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