第38話 前略、脱走と強行突破と
「さてと、実際問題どうやって抜け出そうか」
見たところ、この病室をでてさっきまであたしたちのいた広い、広いフロア。
そこにはいくつかの部屋があり、あたしが起きてから全ての授業はこのフロアで行われた。
「窓も通気口も上の方にあったし……教室以外の扉はここと同じような部屋らしいし……」
授業の合間、暇を見つけては周りの娘に聞いてみたけど、他の部屋にも出口のようなものはないらしい。
「となると、後はあの大きな扉だよねぇ」
このフロアの奥に大きな扉がある。ただし、そこはいつでも2人は学生服の男が見張ってる。
学ランを羽織ってない下っ端だから、あんまり強くはないと思うけど……今のあたしは武器を持ってないんだよね……
「それに扉を超えても見張りがいるだろうし」
う〜ん、どうしたものか。悩ましい、天井を向く。
なぜ人は考える時に、上を見るのか。
「おそらく、抜け出すだけならそれほど難しくはないでしょう」
考え続けるあたしにリリアンの声、頼もしいことこの上ない。
「事実、私たちは脱走した人達をみています」
なるほど、確かに『テンカ』の入口で、ギンと争っていた3人組。
あの3人の服装からして、ここから逃げてきたのだろう。
「あの3人には悪い事しちゃったな……」
今度しっかりと謝ろう、せっかくのチャンスをあたしが潰してしまった。
「悪いと思うならこの街を正して、借りを返せばいいのでは?」
「うん……そうしよう」
力強く頷く、負けられない理由がまた1つ増えた。
さて、そろそろリリアンの作戦を聞かせてほしい、きっとあたしでは見落としていた方法があるのだろう。
はい、と一呼吸おいてリリアンは作戦を告げる。
「私が見張りを倒すので全速で駆け抜けましょう」
リリアンの作戦は策ではなく、単純な力による強行突破だった。
あまりにも堂々としたその表情に、あたしはなんの言葉も発することができなかった。
「ここは通行止めだぜぇ!」「ヒャッハー!午後の授業は左側の2つ目教室だぜぇ!」
言い終わるやいなや、リリアンに壁にめり込まされる下っ端たち。
ごめんね、なんかいい人そうだったけど。
扉を開き、周りを伺う。見張りは……いない!
「ザルな警備ですね。これでは逃げ出す人も減らないでしょう」
確かに、これも自分たちの理想が正しいとは思ってる証拠だろうか?この平和から逃げ出す人がいるはずもないと。
「やっぱり……好きじゃないな……」
なんだかそう考え始めると、理想を押し付けられてる事を強く感じてモヤモヤとした気持ちになった。
「同感です。人とはもっと自由であるべきです。他人に生き方を決められるのは、1つの死であると考えます」
リリアンも同じ考えみたい。他人に決められた生き方は死と同じもの……
確かにそうかもしれない、あたしもそれを、自分の人生だと言う事はできないだろう。
枷と鎖をつけてるリリアンが言うのはちょっとだけ矛盾を感じてしまうが、それはリリアンの枷は、自分で選んだ生き方ということだろうか?
「よし!武器庫か倉庫か、とりあえず装備を探そうか!」
1歩前進することができたあたしたちは、次の目的の為に再び走り出した。
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