第85話 『大迷宮』16階層、黒スライム


 何の感慨かんがいもなく階段前のオーガ?をたおした俺たちは、オーガ三体の死骸と二つ目の宝箱をトルシェが収納し、階段前でしばらく休憩することにした。


 周囲はオーガから噴き出した血でべちょべちょだったので、コロを鉄箱から取り出して血を舐めさせたところ、きれいに舐めとって、血の跡などなくなってしまった。


「ダークンさん。そろそろピクシーが出ないでしょうか?」


『出るかもしれないし、出ないかもしれない』


 あたりまえ、当たりさわりのない返事を返しておく。哲学だな。


「アズラン、ピクシーもいいけど、フェアリーがいるかもよ」


「ピクシーとフェアリーはどう違うの?」


「さあ、同じようなもんじゃないかな。ピクシーよりもフェアリーの方がなんとなく可愛らしい感じがしない?」


「可愛らしい。フェアリー見つけなきゃ」


 二人の会話を聞きながらコロちゃんを鉄箱に入れて、革紐を肩にかけ、


『それじゃあ、行くか』


「はーい」「はい」




 階段を300段下りた先の16階層。


 何なんだ? この階層にいるのは、例の黒スライムだった。


 なんとなくだが、俺たちの拠点側のダンジョンとこっち側は10層分出てくるモンスターがズレている予感がする。


 もし、そうなら、この黒スライムは俺たちにはほぼ無害だが、相当なモンスターだったのかもしれない。今となってはいい思い出だなー。


 と、感慨かんがいにふけっていても仕方ないが、俺はゾンビーとして生き返らなかったら相当マズい場所で復活したようだ。ゾンビーとして生き返ったのか死に返ったのかはこれも哲学の領域りょういきだ。


『なんだかんだ言って、この黒スライム、強かったのかもしれないな。俺たちもすぐ進化したもんな』


「わたしたちが、たまたま『闇の眷属』だったから何ともなかっただけで、コロちゃんを見ても進化前ですら相当ヤバかったですもんね」


『だな、どっちにしても、がな』


「ダークンさん、忘れないうちに『新階層チェック球』を16まで動かしておきました」


「ありがとう」


 こういった会話をしながらも、俺たちは黒スライムを適当にたおしながら今まで通り適当に進んでいる。と思っていたら、若干一名、前回とは違う踊りを始めたお方がいらっしゃった。


『アズラン、今度は何なんだ?』


「フェアリー体操です」


『フェアリーを捕まえるためだか、捕まえたあと一緒に遊ぶための予行演習だな』


「さすがはダークンさん。捕まえた後のことは考えていませんでした。それでしたら、体操をもう一工夫ひとくふうしなくてはいけません」


『頑張ってくれ』


 目の前で華麗かれい?に舞うアズランを横目で見ながら、黒スライムを蹴っ飛ばし、ぶったたき通路を道なりに進んで行く。


 そういえば、アズランにばかり目が行っていたが、なにやら後ろの方がたまに明るくなる。トルシェはいったい何をしてるんだ?


 振り返って見ると、トルシェは俺からはなれた後ろを歩きながら、右手の上に青白く光る小さな火の玉を何個か作り出していた。火の玉同士の間で火花が散っている。たまに後ろの方が明るくなっていたのは、これだったようだ。こっちは、こっちで何かヤヴァめな魔法を考えているようだ。火の玉の光に照らされたトルシェが顔をゆがませている。よく見るとニヤニヤ笑っているようだ。これはもう好きにさせておこう。



 俺だけ真面目に黒スライムを潰しながら歩いていると、後ろを歩いていたトルシェが追いついて来て、


「ダークンさん。予想通りなら、次の階層ではムカデですよね。ムカデ用にすごいのを考えたんですよ。ムカデを見つけたらお見せしますからね」


 すごいのがもう完成したらしい。トルシェのいう『すごいの』がやや怖い。


 踊り狂っていたアズランが、やっと踊り終えたのか、こっちにやって来て、


「ダークンさん、この先に階段があります。おそらく周りに黒スライムの大群がいます」


 黒スライムの大群と言われてもなんとも思わないが、あれを一々プッチしていくのも面倒だし、階段前が黒い液でべちょべちょになってしまうのも何だかいやだな。


 よし、ここはコロちゃんの出番だな。


『そろそろ、コロちゃんの出番じゃないか?』


「いいですねー。ちゃんとわたしがフォローするから大丈夫です」


「私は近くでコロちゃんの活躍かつやくを見ています」


 見学も必要だしな。


 黒スライムの大群がいるという場所の近くまで来た。スライムがいるあたりは瘴気しょうきの関係と思うが、なんだか黒く淀んでいる。だからといって不快とかそんな感じはしない。


 鉄箱からコロを取り出して、通路の上に置いてやり、


「コロ、目の前の黒スライムを食べちゃってくれ。黒スライムだけな」


 俺の言葉をちゃんと理解したらしく、コロちゃんがうなずいた。ように見えた。


 俺とトルシェは二人並んでコロちゃんの行く末いくすえを見守っている。参観日の保護者の気持ちだ。アズランは黒スライムの大群の中に突っ立っている。こっちは参観日の担任の先生かね。


 コロちゃん、頑張って俺たちにいいところを見せるんだぞ。


 通路を進むコロちゃんを見守る俺たち。


 コロちゃんは速度を落とすことなく、黒スライムの大群の中に突っ込んで行った。


「ダークンさん、大丈夫でしょうか?」


『ここからじゃ、良く……』分からないと言おうとしたところで、黒スライムの大群のただ中、ウニのとげのようなものが伸び、そのとげが通路の壁や天井に貼り付いていた黒スライムに当たった。


 一瞬の出来事だった。ウニのとげが当たった場所はそこを中心にすっぽり穴があいたように何もなくなってしまい、見る間に黒いスライムが階段前から一掃いっそうされてしまった。


 黒スライムを食べつくしたコロはアズランを連れて俺の方に這い戻って来た。


「ダークンさん。コロちゃんの触手の動きが私でも見えませんでした」


『トルシェは何か見えたか?』


「全然見えませんでした、気付いたときにはトゲトゲが出てました」


『アズランでさえ見えなかったんだから、誰にも見えないってことだな』


 戻って来たコロちゃんを鉄箱の中に入れて、


『宝箱がまた出てるようだから頂いて早いところ下の階に行こう。宝箱はトルシェが収納しておいてくれ』


「了解しました」




[あとがき]

宣伝:

『敵は弱いに越したことは無い』

URL : https://kakuyomu.jp/works/1177354054912670445 よろしくお願いします


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る