第51話 宝物庫4、料理
食糧庫の
鎧が全く脱げないから骨楽器で遊べないし、何もすることがない。
これは困った。
疲れない。眠くならない。食事が要らない。むろんこの体なので性欲もない。ゾンビ映画なんかで意味不明に人を襲ったりするアンデッドは暇と
そうだ、ちょっとだけワンルームマンションの隣のドアを開けてみよう。
いやいや、勝手に調べてしまうとトルシェが怒りそうだから、それはトルシェが起きてからが
考えることもあまりないし、本当に何もしないでじっとしているのはつらいぞ。
トルシェは寝てるんだからばれなけりゃ平気じゃね? 平気だよね。
やっぱり隣の部屋を見に行ってみよう。なーに扉をちょっとだけ開けて、中をのぞくだけだ。先っちょだけなら許されるよね。
悪いのは俺をこんなに暇にした世の中が悪い。俺は全く悪くない。
一人だからこそ発見できるものもある
なーに、もう一回トルシェと一緒に探検して、それらしく驚いておけば、おこちゃま体型のトルシェにはばれないはずだ。いや、体型は関係ないかもしれないな。
責任の
ここは開けるんじゃなかった。この驚きは二度は再現できないぞ。
ドアを開けた先は、
何を言ってるのか自分でもおかしいのだが、青い空の
畑では、人が出て働いている。いや、人ではないみたいだ。顔もないし服も着ていない。ロボットなのか? いや、この世界だとゴーレムなのか。何体もいてそこらで畑仕事をしている。
あまりのことに思考停止してしまった。
ここのゴーレムたちはおそらく、『ウマール・ハルジット』なる人物の命令で農作業をしているのだろう。
ゴーレムが俺を見付けて、あの金属製のゴーレムのように俺に向かってきても困る。一渡り眺め終えたので、
田園のある部屋?のドアを閉めて、やっぱりおとなしくしておこうとモダンルームにもどることにした。
モダンルームでは、トルシェがすやすやとベッドの中で寝ている。暇なのでトルシェの寝顔を見ていたら、なにやら口をうごかしはじめた。
「うー。もうお腹いっぱい。
意味の分かるトルシェの言葉を生で初めて聞いた。冒険者ギルドで話しているときは全く何を言っているのかわからなかったのだが、指輪のおかげでトルシェの
お腹が
実際は『暗黒の聖水』を飲んでいれば食べる必要はないのかもしれないが、アンデッドでもないトルシェだ。やはり口に物をいれたいのだろう。
そうだ! おれがトルシェのために食事を用意してやろう。複雑な料理はできないが肉と野菜を焼くくらいならできるだろう。幸い、台所には俺でも使えそうな道具が揃っている。
流し台の開きに何本かぶら下がっていた
食糧庫では、なすび、玉ねぎ、にんじん、あと赤いリンゴをボウルに入れ、奥の透明棚の中の
流し台の上は、白色の硬質のゴムのような素材で出来ていたので、これがまな板代わりなのだろう。
玉ねぎの皮をむき、なすび、にんじんと一緒に輪切りにして下ごしらえをした。
下ごしらえでできた生ごみは、流しの水切りの先がディスポーザーになっているようで、そこに突っ込んでやったら、勝手に
正面の壁にぶら下がっていたフライパンのうち、一番大きなフライパンをコンロの上に置いて、手前にあったスイッチのような物を押したら、火が付いた。火力の調節はそのスイッチを回すことでできるようで、まさに、ガスコンロだった。
フライパンがだいぶ温まったので、肉を投入。大分分厚い肉なので、火力をすこし弱めて焼き上げることにした。
見た目は牛肉なので、軽く火を通しておけば問題ないだろう。
食器棚から、真っ白な平皿を取り出し、できあがった肉を乗せるとただの肉だ。食欲がそもそもないのでだらりとしてしまった肉は焼いているときと違ってそんなにおいしそうには見えなかった。
つぎに、肉汁と脂の残ったフライパンに野菜を入れて、焼いていく。蓋があればよかったが見あたらなかった。
それでもしばらく焼いていると野菜に火も通ったようなので、皿の上の肉の脇に移して料理は一応完成した。玉ねぎのやや黄味をおびた白、なすびの紫とにんじんの赤が映えてなかなかの
台所で、俺ががたがたやっていたせいで、トルシェを起こしてしまったようだ。料理も出来たところなのでちょうどいい。
『トルシェ、起きたか?』
『ぐっすり眠れたようで
『トルシェ、もう頭の中で会話しなくても普通に話してくれても言葉が分かるようになったからな』
『ほんとですか?』「ちがった、ほんとですか?」
『「ちがった、ほんとですか?」 って言ったろ』
「すごい、どうやったんですか?」
『あの机の上にあった指輪の力で読むのと聞くのができるようになった』
「へー。よかったですね」
『まあな。おまえは脱衣所に行って顔を洗ってこい。食事を作ってやったぞ』
「ええー、ダークンさん料理ができるんですね。尊敬します」
『台所の奥で見つけた肉と野菜を焼いただけだけどな』
「そんなものもあったんだ」
『だから早いとこ顔を洗ってこい』
「はーい」
肉と野菜の入った皿と、水を入れたコップ、それに食器棚の引き出しから見つけたナイフとフォークをテーブルの上に置いてトルシェが出てくるのを待っていると、すぐに顔をあらったトルシェが戻って来た。もちろん着ているのは下着だけだ。下着のシャツとパンツ。ブラは着けない主義なのか不要なので着けないのかはわからない。
『トルシェ、何か着たらどうだ』
「そうでしたね。ダークンさんの前だと全然気にならないので忘れてました」
風呂に入る前に脱衣場で脱ぎ捨てたズボンとチェインメイル、それに上着を着たトルシェがすぐに戻って来た。
『それじゃあ、食べてくれ。まずかったらまずいと言ってくれていいんだからな』
「それじゃあ、遠慮なくいただきます」
さっそくナイフで肉を口に入れたトルシェ。
「うーん。肉は確かにおいしいです」
『どういう意味だ?』
「そのー、肉の味しかしないというか、できれば塩を。
『悪い、悪い。塩コショウをすっかり忘れてた。ちょっと待ってろ、確か台所にあったはずだ』
「すみません。わがまま言ったみたいで」
『気にするな。
台所にもどって、塩らしき瓶とコショウらしき瓶を取って来た。どちらも瓶の先端を回すと中の塩の塊かコショウの粒が砕けて出てくるようだ。
適当にトルシェの皿の上から塩コショウをしてやる。
『こんなもんだろ』
さっそく、肉を一口、口に運んだトルシェ、
「おいしー!」
『そいつは良かった。パンも取ってくればあるがどうする?』
「これだけ食べればおなかいっぱいになりますから、これだけで十分です」
『そうか。それを食べ終わったらしばらく休んでそれから
「分かりました」
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