第41話 脱げない


 トルシェをおんぶして、300段の階段をりきった。


 全身鎧を着て、トルシェと二つのリュックを運んだわけだが別に何ともなかった。ありがたやこの体。さすがはスケルトンの最上位機種さいじょういきしゅ


 オブシディアン・スケルトンでは一般人にはわかりにくいかもしれないから、LSラグジュアリースケルトン、エグゼクティブとでもこれからは名乗なのるとするか。ワハハ。


 ゆかの上でうごめいているブラック・スライムを蹴っ飛ばしながらも、寄り道もせず、『闇の神殿』にたどりついた。


『闇の神殿』では相変わらず、壁にかかった謎タイマツが揺らいで、いい感じの雰囲気が漂っている。トルシェを池の脇で降ろしてやったら、目が覚めたようで、池にむかってい進んでそのまま池の中に顔を突っ込んで水を飲み始めてしまった。


「ウグ、ウグ。ブファーー」


『生き返ったー。ダークンさん、ありがとうございました』


 そのまま水袋に水を詰め始めるんだろうと思い、俺のリュックから預かっていた水袋をだしてトルシェに渡してやった。トルシェも自分のリュックから空の水袋を取り出し、俺から受け取った水袋と一緒に池のふちの周りに全部並べた。


 今度は何をするのかと思って見ていたら、例のごとく着ていた衣服を全部その場で脱ぎ捨て、マッパになって、足の方から池にドボンと飛び込んでしまった。


『ヒャヒャヒャ。きっもちいー!』


 それは、結構なことで。


 ひとしきり、池の中ではしゃいで騒いでいたトルシェも、少し落ち着いて池のふちに並べておいた水袋を何個か手に持って、ガーゴイルの口から流れ出ている純正じゅんせいの『暗黒の聖水』を詰め始めた。


 俺はトルシェが池から上がったら、鎧下よろいしたをリュックから出してもらい、骸骨の上に着てしまおうと今着ている鎧を脱ごうとしている。


 左右のガントレットを外して、上の鎧の紐をゆるめようとしてみたのだが、俺のカチカチの指先ではうまく緩めることができなかった。


 いままで気にならなかったのだが、どうも足先の感覚がこれまでと違う。どうなっているのか確かめようと、幅の狭いはがねの板金を連ねて動きを阻害そがいしないよう工夫された金属ブーツを脱いでみようとしたのだが、足からブーツに根が張ったように脱ぐことができなかった。


 結局自分で外せたのは、フルフェイスのヘルメットと左右のガントレットだけだった。


 俺が池の脇で鎧と格闘しながらバタバタしていたら、ようやく『暗黒の聖水』を詰め終えたトルシェが池から上がって来たので、


『トルシェ、買ってもらった鎧下よろいしたを着ようと思うから、悪いが、鎧を脱ぐのを手伝ってくれるか?』


『はい、任せてください』


 マッパのまんまのトルシェがいい返事と一緒に、水をしたたらせながら鎧に手を伸ばしてきたのだが、そこまで急いでないから。


『体を乾かしてから、服を着ろよ。それからでいいから』


『そうでした。わたし、真っ裸でしたね。ダークンさん、わたしの体が気になりました?』


『気になるわけないだろ。いいから早く体を乾かして、服を着ろ』


『はーい』


 相変わらずのドライヤー魔法で体を乾かすトルシェ。ドライヤーの機種を変更したのか超高速で体と髪の毛が乾いていく。ちょっと髪の毛に風が当たっただけで、ブファーといった具合にサラサラの銀髪が吹き上がってすぐに乾いてしまった。


 これはすごいな。ひょっとしてひょっとするけど、こいつ、ドライヤー魔法の超強力なので、モンスターとか干からびさせるんじゃないか?


 いや、ここのところ、パねートルシェのこと。対人用やもしれん。対人戦で使うと相手は干からびたミイラになるわけだものな。


 こいつは俺もうかうかできんぞ。俺も何かカッコいい技が欲しい。


 あっという間に体を乾かしたトルシェが、自分の服を着込み、俺の鎧を取り付けている紐とか金具を緩めてくれたのだが、鎧が開かない。鎧が俺の骨格からだりついたようになっていてびくともしない。


 おいおいおいおい、どうすんの、この鎧。相当高級そうで、一生ものとは思うけど、一生、24時間着ていたいわけじゃないぞ。


『ダメですね。びくともしません。どうなってるのか、ちょっと隙間からのぞいてみます』


 そういって、トルシェがかがみこんで、俺の鎧を下の方からのぞきこんだ。


『ありゃ? ありゃりゃりゃ。ダークンさん。えらいことになってます』


『ど、どうなってる?』


『ダークンさんのからだから根が伸びて鎧の内側にびっちりくっ付いています。すごいです』


『「いやーそれほどでも」って喜ぶような話じゃないが、よく考えたら、今のところべつに不都合がないからいいか。ワハハカタカタカタ


『でも、将来もっとすごい鎧が手に入ったら困りませんか?』


『その時はそのときだろ。今から心配しても仕方ない』


『さすがは、ダークンさん、気持ちが大きくって素敵すてきです』


『そうか? ハハハカタカタカタ。おまえも、くよくよせず、気持ちは大きく持てよ』


『ダークンさん、いま「だけ」ってわたしの体を見ながら言ってませんでしたか?』


『ソンナコトハナイヨ』


『もう、今はかもしれませんが、発展途上なだけですから』


 さすがの序列一位の俺だが空気を読まずに、『まだもまだ、まだまだだ』とは言えません。


 あれ? ……いっけない、つい会話モードで考えてしまった。


『ダークンさんのバカ!』


 怒らせてしまったかな? いや、「かな?」はいらないか。




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