第32話 ダーク・ナイト


 全身鎧を着てダーク・ナイトになった俺。


 気をよくしてそこらを試しに歩いてみたのだが、


 ガッシャン、ガシャン、ガッシャン、ガシャン


 どうも一歩歩くたびに音がうるさい。しかも手足を動かすと鎧がきしんで、キーキー、ギリギリ変な音が出るし、けっこう動きづらい。


『トルシェ、どうもきしんで動きづらいし、音がうるさいんだが』


『油をさないとダメそうですね。ちょっと待っていてください。武器防具用の手入れ油を持ってますから』


 トルシェが、リュックの中をまさぐって、小さな陶器とうきつぼのような物を取り出した。中には固まったあぶらが入っているようで、それを指先に付けて、俺の鎧の継ぎ目つぎめ辺りに丁寧ていねいに塗ってくれた。


 試しに歩いてもたところ、ガシャガシャは収まらなかったが、手足を動かしても きしみ音がでなくなり、実に動きやすくなった。


『トルシェ、すまないな。実にいいぞ、どうだ?』


 そう言って、両手でエクスキューショナーを持って縦横じゅうおうに振り回し、最後に正眼せいがんに構えてポーズをとってやった。


『これこそダーク・ナイトって感じが実にいいです』


『そうか? そうか、そうか。ところで、この鎧の他になにか良さそうなものは見つかったか?』


『銀色の鎖でできた鎖かたびらを見つけました。全然黒くさびていないので、銀よりも上等な金属で出来ているようです。これはわたしが貰っていいですか?』


 そういって、トルシェが俺に見せてくれた鎖かたびらは確かに鎖で編まれた、見た目がチョッキのようなものだった。


『ああ、おまえが見つけたものだし、全然かまわないぞ。しかし、銀より上等な銀色の金属というとプラチナか何かなのかな? トルシェ、その鎖かたびらは、結構重いか?』


『いえ、不思議なくらい軽いです』


 とすると、アルミ製? いや、ここから見ても、キラキラ輝いてるから違うな。ってことは、もしかして、もしかしたら、伝説のC2シーツー御用達ごようたし謎金属、ミスリルか? 鑑定石で鑑定できればいいな。


 とりあえず、自分のリュックに鎖かたびらをしまいこむのかと思ったら、トルシェは今着ている革の上着を脱ぎ捨て、下着の上から鎖かたびらを着てしまった。その上から今脱いだ上着を着て、


『いい感じです。重さは全く感じません』


 今度は、体をいろいろ動かし、


『いいです。問題まったくなし』


 非常にうれしそうだ。


『それじゃあ、そろそろ探索再開するか?』


『そうですね。行きましょう。今までダークンさんが着ていた鎧とズボンはどうします?』


『ズボンだけ布袋に入れて持っていく。プレートアーマーは持てないからここに置いていこう。世話になったな。後は、この剣用の鞘と剣帯が欲しいところだ』


『ダークンさん、その鎧は、全身鎧なんだから、腰のあたりに武器を取り付ける出っ張りがあるはずですよ?』


『これかな』


 腰の左右に、輪っかがくっ付いていた。ここにさややら、こん棒の受け口などをくくりつけるのだろう。よくできてる。


『トルシェ、ひもが余ってないか?』


『ありますよ、どうぞ』


『悪い。トルシェ、俺のこの「スティンガー」に紐をつけて、腰のここのあなくくりつけてくれないか?』


『わかりました、近くで見るとこのナイフ結構きてますね。……これでどうです?』


『いいあんばいだ。ありがとう』


『どういたしまして』


『スティンガー』を腰にくくりつけてもらった。これで、投げつけることは出来なくなったが無くすことはないだろう。こいつにも鞘が欲しいな。


『それじゃあ、また、探索の続きをするか』


『はい、ダークンさん』


 今いる場所は、わき道にそれたところだったのでいったん元の通路まで戻り、そこから右に折れて、探索を再開した。



『おまえが倒れていたのは、あのあたりだ』


 トルシェが仲間に裏切られ、放り投げられたのは、確証はないがこのあたりだろう。


『トルシェ、今度あいつらにあったらどうする? 復讐ふくしゅうするか? そうなら、俺も手助けするぞ』


『復讐は、復讐の連鎖れんさを生むだけです』


『そうか、それじゃあ復讐しないのか?』


『だから、連鎖を生まないよう皆殺みなごろしにします』


『そ、そうだよな。それでこそ、「闇の眷属」ダーク・エルフのトルシェだ』


 今気づいたが、『闇の眷属』ダーク・エルフのトルシェ。すごくゴロがいいぞ。それに比べ俺だと『闇の眷属』ブラック・ナイトのダークンだ。まるでしままらないな。トルシェに最初名乗った時、おちゃめ心など出すんじゃなかった。


『あの連中、緑のゴブリンに苦戦してたわけだから相当弱っちいやつらだよな、ところで、冒険者の中には、バケモノみたいに強いやつはいないのか?』


『あんな連中でしたが、あれでもBランクのパーティーだったんです。この迷宮都市ではAランクのパーティーが6つほどあり、Bランクのパーティーが20個ほどあるようで、そういう意味では上から7位以下、26位以内のパーティーだったようです』


『相手を、過小評価かしょうひょうかするのはまずいが、それだと、Aランクと言ってもたいした事がないかもしれないな?』


『いまのわたしたちなら、おそらくAランク相当のパーティーに成れるでしょうから、ダークンさんのいうように大したことないのかもしれませんね』


『ところで、Aランクの上にはもうないのか?』


『公式にはAランクが最高ランクですが、Aランクでも特別強くて、実績のあるパーティーをSランク相当と言う場合があります。迷宮都市の6つあるAランクパーティーうち上2つがSランク相当といわれ、他のパーティーを圧倒あっとうしていると言われています』


『そうなんだ、そいつらとは出会いたくはないな。それじゃあ、とりあえず、いったん下の階層にもどって、鑑定と進化したかどうか確認しないか? 進化についてはさすがにまだだとは思うがな』


『わたしも、ダーク・エルフの今の姿が気に入っているので、進化はいいかな。進化の祭殿で、進化をいったん断ればいいんですよね』


『おれも断ったことがないから、言い切ることは出来ないが、多分そうだろう。試してみろよ』


『そうします。鑑定の方は、わたしの着ているくさりかたびらと、ダークンさんの鎧一式よろいいっしきですよね』


『そうだな』


『きっと、わたしの鎖かたびら、すごいものだと思いますよ。フフ、フフフ』


 なんだか、頭の中に響くトルシェの笑い声が、妙にさまになってきている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る