第26話 チーム・ダーク・ブラック


 これで俺たちの神さまも決まった。ことあるたびにこのご神体のある方角に向かって『二礼にれい二拍手にはくしゅ一礼いちれい』をしていけばご利益りやくがあるはずだ。


 そんなことを考えていた俺のことなど気にとめず、トルシェは減ってしまった水袋を池の中に沈めて、水を補充ほじゅうしていた。



『トルシェ、おまえは冒険者だったんだろ? 冒険者といったらパーティーを組んで迷宮に挑戦するんだよな? 俺たちもパーティーを組まないか?』


 補充し終わった水袋に栓をしながら、


『組むも組まないも、もう組んでるじゃないですか』


『それはそうなんだが、ちゃんと名前とかあった方が良いと思わないか? 今は例え事実婚じじつこんであろうと、できることならせきを入れるべきだろう?』


『ダークンさんが何を言っているのかよくわかりませんが、別に名前なんてどうでもいいんじゃないですか?』


『お前、俺の眷属のくせにちょっとノリが悪くないか?』


『はいはい、分かりましたよ。それで、ダークンさんはどうしたいんですか?』


『返事は一回な。それはカッコいいチーム名をだな、考えたいわけだ』


『そうですねー。それでしたら、「チーム・ダーク・ブラック」とかどうですか? わたしのダーク・エルフとダークンさんのブラック・スケルトンから作ったんですけど』


『うーん。これまでのトルシェの命名センスから考えて若干クォリティーが下がるような気がするが、ここは妥協だきょうしてそれでいくか』


『今のが気に入らないなら、ダークンさんが考えてくださいよ』


『いや、気に入った。「チーム・ダーク・ブラック」いいじゃないか。すごく気に入ったぞ。

 チーム名が決まったところで、次は二人の役割を決めておこう。

 俺が前衛で、トルシェが後衛。うーん、何のひねりもないがこれ以外ないか』


『捻ってどうするんですか。それ以外ありえないでしょ。わたしは、弓矢と魔法だけだし、ダークンさんは、両手の武器だけですよね?』


『いや、実は、ナイフ投げができるぞ。ほれ、これが俺の、ダガーナイフ「スティンガー」だ』


 ズボンのベルトに挟んだ『スティンガー』をトルシェに見せてやった。


『カッコいいだろ? イカスだろ? こいつを投げて今まで一度も外したこともなければ、すべて一撃で敵をたおしてるからな。いわば、一撃必殺いちげきひっさつってもんよ』


 まだ2回しか使ってないけど、嘘は言っていない。


『それじゃあ、俺たち「チーム・ダーク・ブラック」の最初の仕事は連携れんけいの確認だ』


『どういったことをすればいいんですか?』


『うーん、何だろうな? 敵を拘束こうそくするような魔法をトルシェが撃って俺が敵に突撃とつげきするとか?』


『拘束するくらいなら最初から吹き飛ばした方が早いんじゃないですか?』


『それもそうか。だが、それだと俺は何をするんだ?』


『さあ? 別に突っ立ていればいいんじゃないですか?』


 トルシェの冷たい言葉で「チーム・ダーク・ブラック」構想は、最初から暗礁あんしょうに乗り上げてしまった。


『そうか。それなら、今まで通り適当にやって行こう』


 こんなので、いいんだろうか? しかし、俺は今まで、一人で何とかやってきたが特に苦戦した覚えもない。その上に味方が一人増えたわけだから、相当の戦力のはずだ。


 ということは、奥の炎の巨人に対していい線行くかもしれない。『命大事いのちだいじに』も大切だが、ここは勝負に出てみるか?


『トルシェ、その先を進んで行くと通路が左に曲がっているところがある。その先をさらに進むと、俺が「炎の巨人」と呼んでいるヤヴァいヤツがいるんだ。なんとかこいつをたおしてしまいたいんだが、協力してくれるか?』


『ダークンさん、わたしにはただ「ついて来い」って言えばいいんですよ』


 おお、トルシェの男前おとこまえ発言。


『そうか、すまないな。そしたら、トルシェ、俺について来てくれ』


『はい。ダークンさん』



 炎の巨人に挑戦だ。危ないようならすぐに撤退てったい。死ななければ何とかなる。ハズ。


『トルシェ、相手は体中からだじゅうから炎を噴き上げているヤツだ。おそらくファイヤーボール的なものを撃ってくると思う。何か、炎から身を守るような魔法はないかな?』


『それでしたら、「ファイヤー・シールド」か「ウォーター・シールド」どちらでもいけると思います。ただ、どちらの魔法も、一度かけてしまうと、こちらから相手に向かって魔法攻撃を撃てなくなります』


『それじゃあ、その状態で弓はどうだ? 使えるのか?』


『普通の弓矢だと使えませんが、「烏殺うさつ」と今の6本の矢なら何とか攻撃ができそうです』


『なるほど、わかった。それじゃあ、トルシェはその防御魔法を自分にかけてくれ。そして、「炎の巨人」の攻撃をしのいでくれ。できたらでいいが、矢を射って「炎の巨人」の注意が俺に向かないようけん制を頼む。そのあいだに俺が「炎の巨人」に見つからないように近づいて何とかする』


『危なくないですか?』


『ダメそうならすぐに撤退だ。もう少し強くなってから再挑戦することになるだろうな』


『そうですか。でも、どうしても「炎の巨人」はたおさなくてはいけないんですか?』


『俺が、前に見た時の感じなんだが、「炎の巨人」は何かを守っているような感じだったんだ。ヤツをたおせば、なにかすごいお宝が手に入りそうなんだよ』


『お宝ですか? お宝なんて、今のわたしたちに必要なんですか?』


『いや、トルシェ、ここでそんなに本質的疑問を持つなよ。「お宝=欲しい」でいいじゃないか。俺の言っていることは分かるだろう?』


『そうですか。そうですね。そういうことにしておきましょう』



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