第25話 『常闇(とこやみ)の女神』


 俺がブラック・スケルトン、トルシェがダーク・エルフ。なかなかの「闇の眷属」コンビだ。


 少女といってもいいトルシェが「闇の眷属」だと言うことは少々かわいそうな気もするが、ダーク・エルフとなったことをトルシェは結構喜んでいる。いままでハーフ・エルフとしていじめられていたようなことを言っていたはずだから、本物ジェニュインになれてうれしいのだろう。


『なあ、トルシェ。闇の神さまって知ってるか?』


『闇の神さまですか?』


『そう。闇の神さま。俺たち、ほら、闇の眷属だろ? どこかに闇の神さまがいるようなら祭壇さいだんでも作っておまつりしてやれば何かご利益りやくがあるかもしれないと思ってな』


『わたしも、神さまには詳しくないのでよくわかりませんが、そこらへんに落っこちている小石の中で形のいいものをご神体しんたいにしてまつってしまえばいいんじゃないでしょうか?』


『そんなので、ご利益りやくがあるかな?』


『名前を付けるだけで武器があれほど強化されたんですよ。ご神体に闇の神さまの名前を付けてあげればちゃんとしたご利益りやくがあると思います』


『そうだな、やってみるか。気は心ともいうしな』「気は心」は関係ないか。


『それじゃあ、闇の神さまの名前を考えなくちゃな。トルシェは何かいい名前の案でも持ってないか?』


『「気は心」は、わたしにはよく分かりませんが、闇の神さまでしたら、『常闇とこやみの女神』なんてどうでしょう。グッと来ませんか?』


『おお、グッと来たぞ。なんだ、トルシェ。おまえ、『烏殺うさつ』といい、才能有りまくりじゃないか。さすがは、C2シーツー-ポジティブだ。ワハハハカタカタカタカタ


C2シーツー-ポジティブ?』


『気にするな。おまえが歳をとって今という日を振り返ると、そこにはただ風が吹いているだけなのさ。ハハハカタカタカタ

 まあC2シーツーはいいから適当な石を探して、どうせなら、おまえがおごそかだと言ってた池のガーゴイルの頭の上にでも飾ってしまわないか。ご利益りやくありそうだろ』


『それはいいですね。いずれ、すごいご利益りやくがあると思いますよ』


 二人してそこら辺に転がっていた小石を持ち寄り、これは小さすぎる、形が悪いなど言いながら、やっとまん丸で、真っ黒なこぶし大の石が見つかった。これを『常闇とこやみの女神』さまのご神体しんたいとすることに決めた。


「これだな」


「そうですね」


 いったんトルシェのリュックの中に入れて、再度、池のある広間に戻ることにした。


 途中、また湧いていたブラック・スライムを二人でたおしながら、広間の方に歩いて行き、途中にあった落とし穴も、また蓋が閉まっていたので、ちゃんと蓋を壊して、特にかわったこともなく池のある部屋に戻って来た。


『それじゃあ、俺がご神体をガーゴイルの頭の上にそなえてくるから、ご神体しんたいを出しておいてくれ』


 池の中に入って行かなくてはならないので、腰椎ようついに巻き付けていた布袋の中からゴブリンの腰布を1枚取り出し、袋はその辺に置いて、池の中に入って行った。


 池を横切り、ガーゴイルに取りついてその横に立ち、


『トルシェ、ご神体さまを投げてくれ』


 トルシェがリュックの中に入っていたご神体さまを投げ渡してくれたので、それをうまくキャッチした。ご神体さまをぞんざいに扱ってしまったがまだまつっていないので、セーフ。


 そのあと、折りたたんだゴブリンの腰布をガーゴイルの頭頂部とうちょうぶに敷き、その上にご神体さまを置いた。前後左右からよく見て、ちょうどガーゴイルの頭頂部の中心になるよう微調整びちょうせいしておいた。


 もういちど池に入ってトルシェのいるところまで戻り、トルシェに引き上げて貰った。簡単にトルシェに引き上げられたのだが、進化によるものだろうがトルシェも見かけ以上に腕力があるようだ。


『ありがとう。さっそくご神体さまをおがもう』


『何か作法さほうでもあるんですか?』


『そうだなー。やはりここは、「二礼にれい二拍手にはくしゅ一礼いちれい」だろう。いいか、俺の動きに合わせておんなじことをするんだぞ。

 まず、まっすぐ、ご神体さまの方向を向いて起立きりつする。うん、そうだ。それから、2回、頭を下げる。1回、2回。

 そして、2回手をたたく。カン、カン。俺の場合は金属音が出てしまうが、おまえはパン、パンと手をたたけよ。そうだ。

 そしてもう一度、頭を下げて礼。よーし。これが「二礼、二拍手、一礼」だ。どうだ、おごそかな気分になるだろう?』


 トルシェに作法さほうを教えるため『二礼、二拍手、一礼』を二人でしたとたんに『常闇とこやみの女神』さまのご神体が一瞬光った! ような気がする。


『トルシェ、いまご神体さまが光ったよな? な?』


『わたしには分かりませんでした』


『そうか。光ったような気がしたんだがな。まあいいか。それと、これからはご神体さまの真の名前、いわゆる真名まなだな、これを口に出したらいけないんだからな』


『それは、どうしてですか?』


真名まなを口にすると、おそれ多すぎてバチが当たるのだ。その方が神秘性しんぴせいが増すだろ?』


『なるほど、ダークンさんは、考えていることが違いますね。尊敬します。ところでバチって何ですか?』


『バチとはわれわれの名前を口に出すことがはばかられる神さまが与えるばつのことだ』


『ダークンさんは何でもご存じなんですね。すごいです』


『フフフ、トルシェよ。俺をあがめてくれてもいいのだよ』





[あとがき]

C2-ポジティブ。(シーツー、ポジティブ)

14歳前後で発症する感染症の一種に罹患した者、または罹患した状態をいう。人により、抗体ができる者、一生抗体のできないものと千差万別である。

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