第23話 拠点への帰り道


 トルシェのドライヤー魔法で洗濯物せんたくものもすぐに乾き、そいつらをまた布袋に入れて、体に結び付けた。トルシェに臭いを嗅がせたらOKサインが出たので臭くはなかったらしい。OKサイン、この世界にもあったようだ。



『ところでトルシェ、おまえは生身なまみなんだから腹はかないのか?』


『はあ、そういえば今まで気になりませんでした。おなかがいたって感じはありません。さっきお水を飲んだら元気いっぱいになりました』


 実際、こんな場所で湧いている水だ。ただの水でない可能性もある。


『それはよかった。ここには食べられるものが全くないからな』


『そうですよねー。ダークンさんは何も食べなくていいんですか?』


『この体のどこに食べたものが入るんだ? 口に物を入れたらそのままあごの下から落っこちるぞ』


『それは気付かずすみませんでした』


『どうでもいいけどな。それじゃあ、もう一度戻って、俺たちが何に進化したか、鑑定石で分かると思うから、確認してみようぜ』


『おもしろそうですね』


 荷物を持って、二人でたわいもない話をしながら歩いているのだが、二人とも口で喋っているわけではないので、はたから見ればずいぶんおかしな状況に見えるのだろう。


 俺たちはもう慣れてしまったので、まったく気にならない。


 引き返して今歩いている通路にはもうブラック・スライムがそれなりの数湧いていた。


 そいつらをたおしながらの会話だ。


『ほんとにわたしがダーク・エルフになったのか気になります』


 トルシェはそうとう気になるらしい。俺も少しそこは気になるな。


『そうだな、俺も自分が黒骸骨くろがいこつになったけど、黒骸骨じゃしまんないから、ちゃんとした名前が欲しいよな。

 話は変わるが、どういうわけだかわからないけれど、武器に名前をつけたら、その武器が強くなるようだぞ。おまえの持っているその弓にも名前を付けてやったらどうだ?』


『本当ですか? 名前を付けただけで武器が強化できるのなら、みんな武器に名前を付けるはずですが、あまり武器に名前を付ける人はいませんでしたよ』


『まあ、だまされたと思って名前を付けてみろよ。あとで、鑑定石で鑑定すれば俺の言ったことが本当だったってことが分かると思うぞ』


『それじゃあ、伝説の弓の名人が持っていたという名弓めいきゅう烏殺うさつというのはどうでしょう』


『うさつ? どういう意味だ?』


『なんでも、からすは太陽の神さまの化身だそうで、そのからすを射ち殺したという言い伝えがある弓の名前です』


『何だかすごそうだな。それでいいんじゃないか。太陽の神さまを殺すとは、闇の眷属の俺たちにピッタリの名前じゃないか』



烏殺うさつ、それがお前の名前だ』


 トルシェが俺の言葉にうなずいて、手に持った短弓にそう語り掛けたところ、俺が、リフレクターやエクスキューショナーに名前を付けた時と同じように、トルシェの短弓が一瞬だけ輝いた、かな?


 はっきりとは分からなかったが、きっとトルシェの弓も名づけで強化されたんだと思う。


 ようは持ち手の気の持ちようだ。『だんじて行えば鬼神きしんもこれをく』


 ちょっと違うか。いや、全然違うか。


『トルシェ、おまえの弓に名前を付けた効果を試してみろよ』


『それじゃあ、ちょっとやってみます』


 少し先のブラック・スライムにいったん狙いをつけていたトルシェだが、一度、狙いを外して、さらに遠いところに貼りついていたブラック・スライムに狙いをつけて、矢を放った。


 キューン!


 今までにない音を立てて、矢は狙い通りブラック・スライムに命中した。その一撃でブラックスライムはそのまま黒い液体になって飛び散ってしまった。それを見て、トルシェが固まってしまった。


『おいおいおい、トルシェ、すごいじゃないか。な、俺の言った通りだったろ。ほれ、忘れずに矢を回収して来いよ』


 やっと、再起動したトルシェが急いで今の矢を回収して戻って来た。


『ダークンさん。すごいです。こんなことがあるんだ』


『だろ。まあ、ただの人間が武器に名前を付けただけで武器が強くなるわけではないと思うがな。俺たちが闇の眷属だったからこそ、そうなった気がするな』


『闇の眷属、すごいですね』


 トルシェはいまの一撃がよほどうれしかったようで、矢を射ちまくり始めた。


 かなりの数のスライムをたおし、通路を進んで行き、進化の祭壇を過ぎて、やがて落とし穴のある場所に出た。すでに落とし穴の蓋は元通りになっている。


『トルシェ、その先は来た時の落とし穴だから気をつけろよ』


『あれ、来るときにはわからなかったけれど、今はなんとなく罠があるのがわかります』


『それは、あれだ、きっとトルシェが進化したからだろう』


『そうなんだ。進化ってすごいですね』


『それは、進化だからな』


 どこかで聞いたような、意味の全くない会話をしながらも、湧いていたブラック・スライムをたおし拠点の鑑定石に向かう。


『そういえば、トルシェ。おまえ、魔法がいままで全然ダメだったって言ってた割にすぐ、ファイヤーやらドライヤーやらできてたけど、そういったものはすぐにできるようになるものなのか?』


『わたしは、魔法は全然使えなかったので、なんとか使えるようになりたいと勉強だけはしっかりしてました。そのおかげで魔法が使えるようになった今、簡単にいろんな魔法が使えるのだと思います』


『そうか、それもすごいな。そしたら、あれだ。弓ばかりでなく、魔法でスライムをたおしていけば、魔法もどんどん強くなるんじゃないか?』


『そうですね。次からやってみます』


『もし、火だけでなく、風やら、水やらいろいろ使えるんだったら全部試せばいい』


『分かりました。全部やってみます』



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