第8話 スケルトン、服を着る
文明人として衣服は欲しいが、骨だけの体になった今、硬い骨の手に持ったゴブリンのこん棒も剣もどちらも持ち手が硬いので、振り回すとここぞという時に持ち手からすっぽ抜けそうだ。
衣服と武器の滑り止めを探すため探索の続行だ。
進化の祭壇をまわりこんで、入って来た方とは反対側の通路に出ると、またスライムが壁や床、天井などにくっ付いている。
どちらにせよ、これまでと同じように見つけたスライムを切り殺し、たたきつぶしながら進んで行くことに変わりはない。
しばらくそうやって歩いて行くと、また先ほどと同じような広間に出た。
広間の中央は、丸い池になっていてその池の真ん中にある緑色、おそらくは
池に近づいて中をのぞき込むと、ガーゴイルから落ちる水で
改めて自分がモンスターであることを自覚した。まあ、ゾンビとなって腐肉をまとっているときに自分の姿を見なくてよかったとは思う。
それでも、ある程度は迫力のある自分の
渇きや食欲のある体だったら大変だったわけだ。これは幸運なのか? これもご都合主義の
池は水に顔が映ったくらいで、池の中をのぞいても何もないようだった。
いや。よく見ると、池の底に一体の
池の底はかなり暗いので今の俺でもはっきり見えないが、深さは1メートルほどだ。体を池のふちから乗り出して手を伸ばせば何とか骸骨の着る鎧に手が届くか?
ぎりぎり、体を池のふちから乗り出して、右手を鎧の首元に向かって伸ばしたらなんとか手が届いた。
鎧の首元をしっかりつかんで、ゆっくり引き上げる。
かなり無理のある姿勢で引き上げているのだが、そんなに体に負担はない。やはり、身体能力は
引き上げる途中、骸骨の頭は取れて池に沈んでしまったが、後の部品はくっ付いたまま上がって来てくれた。床に引き上げた鎧を着た骸骨は、頭はないが、体格的には俺に近いような気がする。
あと、おしゃれのつもりか、骸骨の左手の指に金の指輪がはまっていた。
骸骨の指にはまっていた指輪は引っ張るとすぐに骨から抜くことができた。
詳しく見ると、その指輪は表側には何の
「ᛈᛟᚹᛖᚱ」
「カプムル?」何て読むのか、どんな意味があるのか全く分からない。いかにもな指輪だ。これを装備してもいいのか?
これまで、俺のやって来たRPGゲームでの指輪はだいたい三種類あって、
1、金銭的にしか意味のない指輪。
2、すごい効能がある魔法の指輪。
3、呪いの指輪。マイナスの効能が付いているうえ、外れなくなる。
1はおくとして、2と3が問題だ。さあ、どうする俺。
ハイ。拾った指輪は結局、指にはめてしまいました。
ここに置いておくにはもったいないし、運ぶには指にはめるしかなかったから、という言い訳もあるが、単純にどうなるのか? 好奇心が勝ったためだ。
なんとなく、みえをはって左手の薬指にはめた指輪なのだが、骨しかない指の悲しさでスカスカだった。
指にはめてくるくる回して少し遊んでいたら、どういった仕組か、少し縮んだようで、はめた指にフィットしてくれた。
そして、今度は抜こうと思っても抜けなくなった。
まずい、呪いの指輪だったかと思ったがいまのところ目立った変化など何もないようだ。そのうち何かの役に立つだろうと、今は忘れることにした。
指輪を回収後、骸骨から鎧を引きはがそうと、上半身を持ち上げたところで、急に骨がバラバラになり、鎧の中に着ていた衣服の中で骸骨がごちゃまぜになってしまった。
鎧の中から、骨の入った衣服を抜き出して、その鎧を確認しところ、上からすっぽりかぶって上半身に着け、左右にある留め具で固定するタイプの鎧だった。おそらく、ブレストプレートとか言う鎧の種類だったと思う。
鎧から抜き出した衣服からバラバラになった骨をはたきだしていたら、上の衣服が布製だったせいか水の中で弱くなっていたようで、ビリビリに裂けてしまい使い物にならなくなった。これはこれで、こん棒と剣の持ち手に巻けそうだ。
骸骨のはいていたズボンの方は、いろはこげ茶色の革製のズボンだった。バタバタ両手で持って水けを払ってはいて見たら、腰回りについていた革のベルトを締めることでずり落ちることなくちゃんとはくことが出来た。
下着はないが大成果である。
上着の残骸を、こん棒の持ち手と剣の持ち手に巻いて滑り止めの完成。余った布切れはズボンのベルトにひっかけておいた。
それでは、探索を続行しましょうか。
池のある広間からさらにその先の通路を進んで行く。俺が歩くたびにブレストプレートが俺のどこかの骨にあたり音を立てる。俺自身の骨から響く音と、金属で出来たブレストプレートから出る音だ。
途中見つけたスライムは音にも反応するようで、こっちに這い寄ってくる。
そいつらを、すぐにたたき
スライムの精気かなにかを剣もこん棒も吸い込んでいるのか黒味が増してきたようだし、俺自身も鎧も少し黒味が増した気がする。
左手にこん棒、右手に剣をだらりと下げて歩く黒味がかったスケルトン。金属製のブレストプレートの上に頭蓋骨を乗っけて、
よそ様から見たら完全なモンスターだよな。それも、かなりヤヴァメなヤツ。そのうち俺の骨の色が真っ黒になったら、どこぞの中ボス並みの迫力あるんじゃないか?
通路を裸足の足で踏みしめると、乾いた音がする。曲がり角はたまにあるが
しかし、こればかりは俺自身の材質的問題なのでなかなか難しい。服も欲しいが、靴の方は切実に欲しい。
10分ほど進んだところで、通路の脇に下り階段が見えて来た。
下にはなにが有るかわからないが、ダンジョン的には下の方が難易度が高くなると相場は決まっているので、今は下りていかないことにする。
本当は、下から何か上がってくるかもしれないので無視して先に進むのはまずいが、ここまで来た以上、背後の気配に気を付けて先に進むとしよう。
さらに10分ほど進むと、左への曲がり角が見えて来た。いったんその手前で止まり、そこから曲がり角の先を確認したところ前方がほんのりと赤く見える。何かの明かりがこの先にあるようだ。
何かに近づくにあたり、物陰がないのはかなりやりにくい。近づかれる立場だと
とはいえ、ここまで来た以上、明かりの先を確認するつもりだ。
通路を進んで少しずつ先が良く見えるようになると、確かに何かが前方で燃えている。
はじめは
あまり意味はないのかもしれないが、腰をおとして、ゆっくり明かりの元に近づいていく。
これはない。ないない。
200メートルくらい先に見えるのは、どう見ても炎の巨人の下半身だ。いまは動いていないようだ。こっちを向いているのか、あっちを向いているのかわからないが、見つからないうちに回れ右して、
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