第11話 ラノベ出てくるような妹キャラとかないわーとか思っていたけど、現実に見てみると意外といいものだ。
「あ、そう言えば自己紹介してないじゃん」
全く忘れていたけど、そもそも幼女の名前すら知らなかった。そして僕が名乗った記憶も特にない。
『ふむ、それは良くないね。挨拶や自己紹介は人間関係の基本だからね』
「そもそもドローンで話してる奴が言うなし」
意外にもキレがあった四条のツッコミ。
ぐぅの音も出ないのか、ドローンから流れる音声は苦笑だけである。
仕方ない。顔も合わせないでコミュニケーションも糞もないしね。
まぁ、僕は顔を合わせたところでコミュニケーション能力は皆無だけどさ。
『私はさっき名乗ったからしなくて良いか』
「じゃあ僕から。僕は北原ムンク。あっちのツンツンしてるのが四条。すんごい眼光放ってるのが斎藤。よろしくね」
「あ?」
「北原君?」
「ごめんなさい」
とりあえずノータイムで土下座をかました。命を守るのにプライドなんてものは必要ないのだ。
斎藤の眼光もさることながら、四条の平仮名一文字だけの威圧も半端ないね。ちびった。
「あのあの、
僕とは違い、なんとも可愛らしいというか格好いい名前だこと。僕なんてムンクだから羨ましい限りだ。
幼女はモジモジしながら僕を見上げてきた。あぁ、もしかしてあれか。初対面の相手でしかも年上だからどう呼べばいいのか分からないのかな?
「あぁ、僕のことは好きに呼んでいいよ?」
「じゃ、じゃあムンクお兄ちゃん……?」
その時僕に雷が落ちた。現実じゃないよ、心の落雷さ。心の。
何この可愛い生き物。お兄ちゃんと呼ばれただけで今まで特に気にしていなかったが全てが可愛く見える怖い。
幼さが目立つサイドテールも。くりくりした大きい瞳も。あどけなさが残るような八重歯も全部可愛く見えるから怖い。
全くもってさっき会ったばかりの他人にお兄ちゃん呼ばわりされる。そんなことにここまで甘美な感覚に包まれるとは予想だにしなかった。
正直、いつも読むラノベに妹キャラが出るたびに『現実の妹はそんな可愛くないし。しかもお兄ちゃんなんて呼ばないし』とか揶揄していた。
しかし、そんな自分は遥か遠く昔のこと。
こりゃ実在しますわ。天然記念物級ですわ。ぐへへ。
「ナチュラルに気持ち悪いわね。四条さんもそう思わないかしら……って四条さん?」
「うううううう~~~」
なんぞ?
彼女は俯いて何故かプルプルと震えてる。
あれほど拾い食いはやめとけと。
「かわいいいーーーーーーーーーーーー!!!!」
マイシスター(妄想)は無慈悲にも連れ去られてしまった。リア充という名の獣に。
「かわいい! 良いにおい! めっちゃ柔らかい!!! かわいい!!!」
「うひゃぁっ!? や、やめるのレス……四条おねーちゃん……」
「そんなよそよそしく呼ばないで美琴おねーちゃんって呼んでよーーー!!!」
もう完璧暴走状態ですわ四条さん。幼女を人形のように抱き締めている。ていうか、抱き締めるどころかスリスリもクンカクンカもしている。
幼女は抵抗することも出来ずなすがまま。ていうか、あの山脈みたいな胸に埋もれて苦しそうなまである。
こういうことをいつもは嗜める斎藤も今回は動こうとしない。さっき、泣かせかけたし遠慮してのかな?
まぁ、僕は言わずもながだよね。
『さて、自己紹介もすんだことだし先を急ごうか。ほら、四条君、神原ちゃんが苦しそうだから離して上げなさいな』
自宅警備員さんが気を使って言うべきことを言ってくれた。その言葉にしぶしぶ従い、四条は幼女を解放する。
「お、恐ろしいのれす……」
解放された幼女は若干震えながら、四条の巨大な山脈を見上げ静かに呟くのだった。確かに四条のアレはとんでもなく凄いよね。
ーーー
「ねぇー、一体いつまで歩けばいいのよー」
自己紹介も済み黙々とドローンが示す方向に進む僕ら。時間にして三時間程度。
いくらステータスにより身体能力が強化されていても精神的疲労はたまる。
ついに、耐えきれなくなった四条が文句をぶーたれ始めた。
「同感……そろそろ疲れてきたんだけど」
まぁ、これについては僕も同意見だ。流石にそろそろ限界だ。歩き疲れた。元々インドア派なんだからかなり頑張ってる。ほめろ。むしろほめろ。具体的には癒し系のお姉さん美少女にほめられたいなぁ。
「北原君。男なんだからしゃんとなさい」
対する斎藤は疲労なんてなんのその。真っ直ぐ背筋を伸ばして歩き続けている。その足取りに疲労なんてもの微塵も感じられない。流石ですわ。
ちなみに幼女は僕の背中で寝ている。流石に追われたり色々あったようなので限界のようだ。
まぁ、役得なのでラッキーなんですけどね。しいていうなら、時々猛禽類のような視線を向けてくる四条が怖いぐらい。
『あと少しだからもう少し頑張ってくれないかな。おっと、その角は左だ』
そのもう少しって信憑性あるもう少し?
ただこねる子供を騙す目的で遣うもう少しじゃないよね?
「ん?」
指示の通り角を左に曲がると何か見覚えがあるような感覚に陥った。
「あらどうかしたのかしら?」
「いや、なんというかこの道に見覚えがあるような……気のせいかな?」
斎藤の問いに首をかしげるばかりだ。見覚えがあるんだけど、どうしても思い出せない。
そして何かとても嫌な予感がする。
『お、その角を右に曲がれば到着だ』
「あ~~~やっと到着だーーー!!!」
四条の叫びと僕の気持ちは全く同じだ。
あぁ~やっと解放されたぁ。休める。
彼女はフリスビーを投げられた犬のようにキャッキャッしながら駆け出した。
それを眺めて苦笑しながら、僕と斎藤も後に続いた。
そして、角を曲がると信じられないものが視界に飛び込んできた。
えっ
目の前にはなんというか大変見慣れた光景が広がってい。何処にでもあるよう一戸建ての建物。
そりゃ嫌な予感がするわけだ。
だって、
「ここ僕の家じゃん」
というわけで目的地はまさかの僕の実家だった。どういことだってばよ。
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