第9話 イエスキリストとイエスロリっと似てない? 似てないか
「覚えてやがれよ!!! お前なんか久我に言いつけてケチョンケチョンにしやるからな!!!!」
「さようなら~~~」
白いハンカチをフリフリして哀れな不良達を見送った。
パンツ一丁で大地を駆ける姿はとても汚ならしくて涙なしでは見ていられない。
ていうか、ケチョンケチョンって今日日聞かないぞ。そもそも、なんか先生に言いつけてやるー!的なセリフだし。どこまでも小者臭い奴等だなぁ。
その逃げ足も素晴らしいもので、既に彼らは地平の彼方である。
それにしても……久我か。
いつもの糞みたいな思考で流そうとしたが、どうしても引っ掛かってしまう。
「北原? どうしたのよ神妙な顔しちゃって」
「あ、あぁ、なんでもないよ」
「そ、ならいいけど」
四条はそこまで興味がないのか、それ以降追及することはなかった。助かる。
あまり話しても気分のいい内容でもないし。
「そんなことよりまずはこの子でしょう。流石に放置するのは可哀想だと思うのだけれど」
斎藤の言い分はもっともなことだ。
僕は改めて幼女の方に体を向ける。
「さてさて、幼女ちゃんのお話を聞くとしますかね」
幼女と視線が重なる。
その瞳には怯えの色が出ており、よくよく見ればその両手は微かに震えていた。
それでも彼女は彼女で譲れないものがあるのかもしれない。
恐怖を飲み込むように喉をゴクリとならし、真っ直ぐに僕を見据えてきた。
「お願いするのれす!! お兄ちゃんを! お兄ちゃんを助けて欲しいのれす!!」
律儀に体を90度に曲げて来た幼女。三角定規のごとく綺麗な角度だ。それだけでも彼女の真剣さがよく伝わった。
一応言っておくけど、幼女からカツアゲとかしてないからね? 来ないでポリスメン。
「北原君……貴方には失望したわ……いたいけな少女を脅すなんて」
「北原……アンタ……」
おい、やめろ。
まるで僕がなんか如何わしいことしたみたいになってるじゃんか。
あれだから。イエスロリノータッチの精神を持ってるから。 ところで、イエスロリとイエス・キリストって語感似てません? 似てないか。似てないかー
「ってこら、幼女先輩が困ってるでしょーよ」
いつものやりとりを始まるもんだから、幼女がどうすればいいか分からずあたふたしている。これじゃ置いてきぼりで流石に可哀想だ。
「北原君の意見に従うのは屈辱的だけどその通りね」
「斎藤、お前……そのうち訴えてやるからな……」
「あら、貴方裁判で私に勝てるつもりなの?」
「えぇ……どうみても僕、被害者じゃん……」
何その自信に溢れた笑み。
なにそれこわ。そういえばこの子の家お金持ちですもんね……お金に物言わせればいくらでも裁判なんて勝てるか……
やっぱり、世の中金か。糞だな。
「と、話がそれたわね。貴方、助けてくれだけじゃ何をすればいいか分からないわ。もっと具体的な話をしてちょうだい」
「うぅ……」
斎藤の血も涙も無いような言いように、まさかの幼女が涙目になってしまった。プルプルと震えなが目尻には大粒の涙が浮かんでいる。
「斉藤……」
「アーちゃん……」
「ま、待ってくれるかしら。私はちゃんと話を聞こうとしただけで……!」
これには流石の斎藤も動揺しているみたいで、珍しく弁明している。
まぁ、そりゃね……あんな問い詰めるような聞き方すりゃ、泣きますよ。
「ハイハイ、アーちゃんは少し離れててね。話は私と北原で聞くから」
「なっ」
斉藤の背後に雷が落ちるエフェクトが見えたような気がする。 流石にショックだったのか、彼女はしなだれた右腕を左手で掴み、首を落としている。
「さてと、幼女先輩から話を聞いてみますかね」
「幼女先輩とか変な言い方するなし」
肘で小突かれた。地味にいてぇ。
「あのね……」
ポツリポツリと幼女は語りだそうとするが、先にすることがある。
「ちょっと待った。流石にここで立ち話なのも難だし場所を変えようよ。それにほら、君は何というか着替えた方がいいね」
幼女の雰囲気を見ればそれなりに込み入ったことだと察することは容易だ。ならどこかで座って話したい。疲れるし。
それに今彼女は襲われていたせいか、なんというかとても肌面積が広い。具体的にはソシャゲー人気キャラの集金目的で期間限定とうたわれガチャに実装される衣装並み。
簡単に言えば半裸。
まぁ、つまりこんな状況を誰かに見られたら、インスタント感覚で僕の人生が詰むまである。
ーーーー
「悪いけどちょっとの間これで我慢してね」
「ありがとなのれす……」
四条は腰に巻いていた紺色のカーディガンを幼女に渡し着させた。
中々のブカブカ具合で、お父さんのパジャマを無理矢理来ている子供にしか見えないが。
「何それ萌える」
「気持ち悪いのだけれど」
「馬鹿なこと言ってないの! で、どこに行く予定なのよ」
「うーん、それなんだよねー」
僕は四条の問いに首を傾ける。
ほんとそれなんだよねー。今や世界はデストロイな世紀末。
大学生がリア充感を出すためにスタバァとかに行ける世界ではないのだ。落ち着いて話せる場所なんてものはそうそう見つかるわけもない。
「? 何かしらドローン?」
何かいい案は無いかと唸っていると、斎藤の視線の先に黒色のドローンがハエのごとく徘徊していた。
なんぞ?
ていうか、なんでこんなところにドローンが?
『やぁやぁこんにちわ、初めましてだね。自宅警備員を嗜んでいるものだ』
「え。あ、はい」
このドローン喋るぞ!?
どうやらスピーカーを積んでいるようで会話できるらしい。声的には女性っぽい。
『君のことはよく知っているよ。詐欺師君……いや、元ニート志望君といったほうが伝わるかな?』
詐欺師で元ニート志望?
その内容には聞き覚えがあった。
ていうか、僕が例の掲示板で書き込んだ内容だった。
えっ まさかの自宅警備員さん?
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