第2話  RPGになる? 最初にゴブリン的なの配置すればいいとか思ってない?



『あーテステス。聞こえていますかー、きーこーえーてーいーまーすーかー?

 よし! 二回も確認したし聞こえてますね、そうですね!』



 それは頭になり響くような不思議な声。どこか快活さを感じてしまうようなものだった。10代後半の女性だと……思う。声的に年齢は僕と同じぐらいだろうか。



 『皆さんには今からあーるぴーじーをしてもらいます。選択権は特にないです。頑張ってください』



 そんな一方的な発言をしたら、その声はもう響かなくなってしまった。



 正直、何を言っているか僕には理解できない。だって意味不明だ。

 麻薬クスリをやって頭がイカれたというほうが、まだ信じられるだろう。

 しかし、台風のような突風と共に、巨大な龍が校舎の上空を横切ったとき――



 蜥蜴というのには余りにも控えめ過ぎる表現で、有り体に言えば西洋で言われる龍。その体躯は果てしなく校舎全体と比べても更に大きい。

 あんな化物いきものを見たことない。いや、あんな生物がいるなんてあり得ない。



 だから、この世界は変わってしまったのだと強く理解した。

 そして、心臓が力強く脈打つ。こんな気持ちは久方ぶりだ。幼稚園生の頃、親に内緒で秘密基地を作った時のような高揚感。



 体がいや、本能が感じている。

 世界の変革感じ取ったのか、生まれてこの方感じたこともないような感覚が駆け巡る。体が歓喜の産声を高らかに上げるのが分かる。そして、感じた。思った。



 この世界は何だか楽しそうだ。






 ーーーー






「ギィギギィギィ」


 奇妙な笑い声。

 そいつは音もなく、いきなりそこにいた。本当にいつ何処から現れたか分からない。



 ゴブリンだ。

 そう呼ぶしかないような小柄な体躯に薄汚れたような緑の肌。棍棒を酒瓶を持ち歩くかのごとく掴む。本当にRPGによく出てくるステレオタイプのゴブリン。



 屋上には僕を除けば、ゴブリンと僕をイジメている三人組のヤンキーグループしかいない。正直名前は知らない。特徴をそのままにチビデブノッポと呼んでいる。分かりやすいし。



「なんだこいつ?」


「俺知ってるぜ! これゴブリンだ! ゲームとかで良く見るもん!」


「はぁーん。一丁前に武器なんか持ってやがるぜ」



 デブが舐め腐ったようにゴブリンの頭を無造作に掴む。怖いもの知らずかよ。


 ゴブリンは小柄だ。小学生ぐらいの子供ぐらいの大きさしかない。だから、僕を含めたここにいる全員が微塵も驚異に感じないと思った。はっきり言って舐めていた。



 しかしーー



 グシャ



 その考えはすぐに不快音と共に打ち消された。それはもう簡単に。深夜、コンビニに出掛けるぐらいの手軽さで。

 肉が潰れる音が、ゆっくりとそしてねっとりと耳の奥にこびりつく。




「ぎゃああああああ!!!」



 いきなりゴブリンが棍棒でデブの膝を砕くものだから、その場にいた全員が固まってしまった。

 そんなことされるなんて微塵も思うわけがない。

 足は既に明後日の方向へ向いている。見ているこっちまで痛くなりそうだ。

 気がつけば、全身から脂汗が滲み出ていた。怖い。



 グシャリ



 また不快音。足を押さえて悶え苦しむところに頭に棍棒が叩き込まれた。

 もう、ピクリとも動かない。



「あああああああああ!!!!!!」


「か、かず! 嘘だろ!? 嘘だよな!?」



 動かなくなったデブを抱え込む二人。突然の出来事に理解が追いつくわけもない。

 先程まで、死ぬようなことが起こるなんて微塵も考えていなかったはずだ。



「……あ」



 あ、今度はノッポの頭に棍棒が叩き込まれた。後頭部に棍棒がめり込む。即死。考える暇もなく二人死んだ。殺された。



 何で……?



 理解が追い付かない。何でこんなことが起きてるの?

 だって、ついさっきまで陰湿な虐めこそあれど殺しのこの字すらなかったはずじゃないか。

 世界がRPGになったから? たったそれだけで?


 じわじわと心に黒い染みのようなものが広がる。怖い。嫌だ。逃げたい。



「ギィギギィギィ」



 ゴブリンが規則性のある奇声をあげる。あれは多分笑みだ。しかも、残虐的な方の。まるで、子供が蟻を潰すような笑み。

 なんの抵抗も出来ずに殺されていく僕らはゴブリンにとって蟻となんら変わらない。



「ひっひぃいいいいいい、く、くるな! くるなくるな!!!」



 尻餅をついて、後ずさるチビヤンキー。目尻から涙がにじみ出ている。

 ゴブリンに容赦はなく、棍棒をぶら下げてゆっくりと獲物へと向かう。


 わざとだ。


 ゆっくり歩いて獲物の恐怖心を煽っている。

 完全に愉しんでいやがる。



「くそったれぇえええええええ!!!!」



 不良はついに耐えきれず、飛び出した。

 やけくそに叫び、懐からバタフライナイフを出して突撃するが、歩幅も足取りも滅茶苦茶だ。ろくに刺さるはずがない。



 グシャ



「ぎゃあああああ!! う、腕が!! 俺の腕が!!」



 やはりというか、案の定健闘もあっけなく、棍棒でナイフを突き出した腕を叩き折られた。



「お、おい!  クソムンク!  た、助けろよ!!  な!?  な!?  もう虐めねえからよお!!  そ、そうだ!!  久我の方にもう虐めねえように話を通してやるから!!! た、頼む!! たーー」



 ゴブリンは煩わしいと言わんばかりに棍棒を頭に叩き込んだ。これも即死。元々端正とは言い難かった顔が、ひしゃげてさらにブサイクに見える。

 あっという間に三人も殺された。


 なんだよ……なんだよこれ。




 カラン




 足元に転がってきたバタフライナイフが目に入る。今、ゴブリンは僕に背を向けている。殺したヤンキーたちの持ち物を物珍しそうに眺めている。



 まだこっちには気づいていない?

 はたまた僕みたいなひ弱そうなやつは殺すまでもないと思っているのか。



 胸が苦しい。締め付けられるようだ。



 こわい。でも、やらなきゃ。

 人殺し。いや、人じゃないか。じゃあ、ゴブリン殺し?

 あぁ、やばいこっちに振り向く。そしたら終わりだ。

 今ならやれる。きっと、やれる。

 やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 うるさい。


 いや、違う。


 煩いのは僕だ。これ、僕の声だ。



 衝撃。

 バタフライナイフは意外にもすんなりとゴブリンの背中に吸い込まれた。



 彼の瞳は驚愕の色に染まっている。言葉はたぶん通じないけど、理解る。


『そんな馬鹿な』


 その瞳はそう物語っていた。

 彼も自分の命がこんなところで潰えるなんて思っていなかったのだろう。 



 ゴブリンはうつ伏せに倒れても、まだ足掻く。まだ、生きている。生きようとしている。なんとか逃げようとしている。

 しかし、そんな行動の甲斐もなく、遂には動かなくなってしまった。



 なんだよこれ。


 なんだよ。


 なんだよ! なんだよ! なんだよ!

 肉の感触をナイフ越しに初めて味わった。手が震える。






 『レベルアップしました』

 『初めてのモンスターを倒したことでステータスを獲得。スキル【解説ナビゲーション】獲得』

 『最適化。本人が使用する機器で最も使用頻度が高いものでステータス確認及びその他機能が使用可能』

 『モンスターが出現してから一時間以内に討伐をしたため称号【決断者】を獲得』



 はい?



 え、なに。なにこれ。

 唐突に鳴り響く音声にわけがわからなくなる。頭に鳴り響いてうるさいな。


 また、電波放送?


 いや、最初の声とは違うな。なんというか事務的な音声というか。とにくかく違うと思う。

 そんなことは置いておいて。考えなきゃいけないことは山ほどある。


 最適化ってなんだ? 

 そもそもステータスってなんだよ。

 本当にRPGなのか?



 話の落差に困惑しながらもなんとか頭を回す。

 使用頻度の高い機器と言われるとスマホぐらいしか思いつかない。スマホに電源を入れると見慣れないアプリがあった。これかな?



 開くと『ようこそ』と簡易的に書かれた文字がポップアップした。なんだいかにもみたいなこのポップアップは。もうちょっと装飾つけるとかして盛り上げて欲しいなぁ。個人的には『HELLOWORLD』みたくお洒落な感じにして欲しい。これもセンスない? 残念。


 スマホ画面には簡素的な男のアバターが映っている。制服着てるし、自分で言うのもあれだけど根暗っぽい雰囲気を出してるから、僕のアバターってことかな。アプリにすら根暗扱い受ける僕って一体……。


 アバターの横にはいくつか文字が記載されていた。





 ステータス

 所持品

 ガチャ

 ショップ

 掲示板






 え? ガチャ? ガチャ引けるの?

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