第50話
「お父さん、お母さん、会いたかったよ…… ずっとずっと!」
私はお父さんとお母さんに駆け寄り抱きしめた。
「柚、お前にはいろいろ寂しい思いをさせてしまったな」
「私たち柚の事ずっと見守ってたのよ?」
2人が私を優しく包んでくれた。 ああ、この温もりこの匂い、懐かしい。
「私…… 本当にずっと寂しかったんだから! もう離れたくないよ」
「柚、あなたには苦労させたわね。 ずっと私たちは柚の事が気掛かりだったの。 叔父さん叔母さんはお父さんと私が結婚するのに反対だったから」
「ずっとお母さんの悪口ばかり言う嫌な人たちだったよ」
「お父さんとお母さんは駆け落ちの形で結婚したの。 お父さんの家お金持ちでしょう? お父さんには決められた相手がいたけど私とお父さんは恋に落ちたの。 当然叔父さんと叔母さんは激怒したわ。 だけどね、私たちは結婚した、そしてあなたが生まれたの」
「そうだったんだ、だからあんなにお母さんの事を……」
「だからね、柚には相当辛い思いをさせたと思うの。 ごめんなさい、親失格よね」
「ううん、お父さんお母さんが死んじゃってから私もいっぱい間違った。 私の人生間違いだらけだったの…… でもね、悪い事ばかりじゃなかったんだよ?
私にも好きな人ができたの。 とっても素敵な彼氏なの、 だけど私彼に迷惑ばっかりかけちゃって……」
「柚、そんな事ないわ。 柚の事しっかり理解してくれた人なんでしょう?」
「うん、私が無理言ったりめちゃくちゃな行動しても啓ちゃんは私を受け入れてくれたの。 可愛くて優しくて時々意地悪だけど…… だけどお父さんお母さんと同じくらい大好き」
「そうだ柚、お前には大好きな彼が待っているんだ」
「そうよ? だから私たちと柚はまだ一緒になれないの。 いいえ、なっちゃいけないの。 あなたにはこれからがある、啓君と一緒に生きるのよ」
「そんな…… じゃあお父さんとお母さんは?」
「大丈夫さ柚、いつか柚と啓君がこっちに来た時は紹介してくれ。 大分先の話になるだろうけど楽しみにしているよ」
「そうね、私たちはそろそろ行くわ。 ずっとあなたたちを見守っているから1人じゃないのよ? 啓君を大切にするのよ?」
「待って!! お父さん! お母さん! 私まだまだ2人とお話したいよ、行かないでよ!!」
急に2人は私の手を離れ何かに引っ張られるように私から遠くなっていった。
「うあぁぁぁん、お父さん!お母さん!」
私は堰が切れたように思いっきり泣いた。 これは夢なのかな? 私の想像の産物なのだろうか? でも2人の感触は確かなものだった。 また2人に会えた、一瞬だったけど私にとってはかけがえのない一瞬だった。
そうして真っ暗な空間で私が泣き止むと見た事ない病室にいた。
あれ? 私死んでなかったの?
啓ちゃんだ! 嬉しい、ずっとそばに居てくれたんだ。
「啓ちゃん!」
「…………」
あれ? おかしいな? 呼んでも反応がない。あれ? よく見たら私が後ろで寝ている…… 私は起きてるのに私が寝ている?
どういう事? なんで!?
啓ちゃんに手を伸ばしてみる。 啓ちゃんに触ったと思ったのに私の手は啓ちゃんをすり抜けた。
私生き返ってない!? どうして?
私はその後何度となく啓ちゃんを触ろうとしたり呼んだりした。
だけど啓ちゃんはまったく気付かない。
虚しく時間だけが流れる。
酷いよ…… ここまで来てこんなのあり?
せっかく戻ってこれたと思ったら。
「柚、目を覚ましてくれ……」
啓ちゃんがそう呟く。
「啓ちゃん、私はここにいるよ! そばにいるんだよ!? 」
なのに…… 伝わらないの、触れないの。
ここに来てから夏美たちが来てくれた。
鈴菜なんて啓ちゃんに告白までした。 啓ちゃんの事好きだったんだ…… 鈴菜なら好きだったなんてのは許しちゃおう、なんて思ったけど啓ちゃんは渡したくない。
鈴菜も私を想って言ってくれたんだ、後藤さんや啓ちゃんの友達も来てくれた。
なのに現実の私は起きてくれない、あれだけ楽しみにしていて一緒に過ごそうって約束していたイヴも終わってしまった。
ホワイトクリスマスだったんだ。 啓ちゃんと一緒は一緒なんだけど私が寝ていなかったらどれほど嬉しかっただろう?
それと同時にずっと私についてくれてる啓ちゃんに物凄く申し訳ない気持ちになった。
啓ちゃん、ごめんね。 せっかくのクリスマスなのに……
酷いよ神様……
これが今まで悪い事してきた私への罰なのかな。
やっぱり私なんかは幸せになっちゃいけないのかな?
啓ちゃん、いつまで私と一緒にいてくれる? 眠ったままの私なんかはいつか捨てられるのかな……
嫌だ、私は啓ちゃんと生きたい! 幸せになりたい。
神様、お願いします!
ふと自分の手に啓ちゃんの手の感触が伝わったような気がした。
啓ちゃん、啓ちゃん!
「ん……」
え? 今少し喋れた?
「柚!? 柚!」
啓ちゃんが私の反応に気付いてくれた。
だけど動いたのは一瞬でまた私の体は動かなくなってしまった。
どうしたらいいの?
どうやったら戻れるの……
「簡単な事だよ、柚ちゃん」
聞いたことがある声が聞こえて慌てて振り返った。
するとそこには会長がいた。
「新堂……会長?」
「久し振りだな、柚ちゃん。 その連れと墓参りに来てくれたろ? ワシもずっと柚ちゃんの事が気掛かりでな。 やめる時も落ち込んだままだったしな」
「会長、ごめんなさい。 私自分の事しか考えてなかった。 会長が私に優しくしてくれたのに私はいつも自分の復讐ばかりに囚われて……」
「いいんだ、ワシも柚ちゃんにはとても苦労させたし辛い仕事をさせたんだ。 だからその償いをさせてほしかったんだ」
「そんな…… 私が自分で選んだ道です、会長はそんな事気にしないでください」
「はははッ、柚ちゃんは大分お淑やかになったなぁ。 ワシはな、復讐のためとはいえ必死に頑張る姿を見て次第に柚ちゃんを娘のように思うようになった、だからこれは愛娘への助言だと思って聞いてくれ」
「会長……」
「いいかい? 柚ちゃん、そのままの状態でその男に口付けしなさい。 ただ口付けするのではダメだ、その男への愛情をしっかりと心に想い口付けなさい。 そうすれば現実に意識は戻るはずだ」
「え? そんな事で?」
「はははッ、ワシが言うのはちと恥ずかしいがロマンチックだろ? ではワシはそろそろ行くが頑張るんだぞ? 柚ちゃん。 それとたまにはワシの墓にも遊びにおいで」
そう言って会長は消えてしまった。 会長…… 亡くなってからも私の事を。
ありがとうございます、娘と言ってくれて。
会長、あなたも私のお父さんです、こんな出来の悪い私を娘と言ってくれて
本当にありがとう……
私はいまだ私の手を握ってくれている啓ちゃんに向き直った。
「啓ちゃん、聞こえてないかもしれないけど聞いてください」
「啓ちゃん、私は啓ちゃんと出会ってから啓ちゃんにいっぱいワガママいってたよね。 それで振り回してボコボコにされたり、勝手にどこか言っちゃって探させたり。 それに大好きなはずの啓ちゃんにナイフを突き立てたり包丁も突き立てちゃったよね。 あれはやり過ぎだったよね、ごめんなさい。 でもね、私啓ちゃんを好きだって気持ちは本物なの。作り笑いや嘘ついたりしてきた私のたったひとつ誇れるもの。 それは啓ちゃんを好きだって揺るぎない気持ちなの。 今でもそう、ううん。 今はもっと強い気持ち」
「……… 啓ちゃん、あなたを愛しています。 もし……もし啓ちゃんがよかったらこれから先ずっと私と生きてください。 あなた以外の人なんていません。心から啓ちゃんを愛しています」
そして私は啓ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。クリスマスがまもなく終わろうとしていた。
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