第49話
柚は病室に移され静かに眠っていた。
寝ているのにまるでもう目が覚めないのかと俺はいいようのない不安に駆られていた。
「柚、どうして目を覚まさないんだ? 頼むから目を覚ましてくれ!」
俺は柚の手を握り必至に祈った。
何時間そうしていただろう? すると病室のドアが開き坂木と平井と鮎川が来てくれた。
「柚! どうしてこんな…… 」
「新村君、 柚がどうしてこんな事にならなきゃいけないの?」
「この前まであんなに新村君と元気にベタついてたくせに……」
3人とも柚の為に泣いてくれた。
「柚、私たちや新村君もいるのよ? お願いだから目を覚まして」
それから俺たちはしばらくいたがやはり柚は一向に目を覚まさなかった。
「新村君も少しは休んだ方がいいよ? 私たちはもう少し柚と一緒にいるから……」
「ありがとう、でも俺出来る限り柚と一緒にいてやりたいんだ」
「新村君……」
そしてまた時間が過ぎ3人は俺を心配していたが仕方なく今日は帰るという事になった。
「新村君、柚の事よろしくね、私たちも明日また来るから。 新村君がこんなに想ってくれるんだから柚だってきっと……」
「ありがとう、3人ももう疲れただろ? 俺はもうしばらくいるから」
そして3人は病室を後にしたと思ったら鮎川が戻ってきた。
「どうしたんだ? 鮎川」
「ちょっと柚に言っておきたくて…… 」
「柚! このまま目を覚まさないなら新村君を私がとっちゃうわよ!? 悔しかったら目を覚ましなさい!」
「え? 鮎川?」
「えへへ、ごめんなさい。 私だって新村君の事ちょっといいなって思ってたんだ、 こんな時に言うのも何だけど…… でも新村君は柚の大切な人だから。 柚の想いには勝てないから。 だから…… 柚は絶対目を覚ましてくれるよ!」
「鮎川…… ありがとうな」
「うん。鈴菜でいいよ、そのかわり柚の事よろしくね! 啓」
そう言って鈴菜は病室を出て行った。
柚、聞こえてたか? いつもならお前物凄く嫉妬して怒ってくるだろ?
何でもいいよ、起きてくれ! みんなお前の事を心配してるんだぞ……
そしてクリスマスイヴになった。 あれほど楽しみにしていた柚はまだ静かに眠っている。
「どうだ? 柚は」
後藤さんも柚を訪ねてきた。
「もっと早く来るつもりだったんだがあの男のお陰でな。 今頃になっちまった」
「あいつはどうなったんです?」
「今うちのもんが地獄を味あわせてるよ。 あの手の奴は俺たちが処理するのが1番いい。 ムショじゃ生温過ぎる」
「そうですか…… すいません、本当は俺がどうにか出来れば1番良かったのに後藤さんたちにまでお手数お掛けして」
「いや、気にするな、俺も柚を見てきた。 だから少し贔屓しているのかもしれねぇが会長があれほど大好きだった柚だ。 こんな事されちゃ黙っちゃおけねぇ」
「それにな、この前文化祭来た時の柚は俺たちといた頃より自然に笑えるようになってた。 お前がそんな風にしてくれたんだ、俺たちも柚に体を売って稼げなんてひでぇ提案をしたがよ、柚がこれから幸せになって欲しいと思ってるのは本当だ」
後藤さんは俺に後を託し事務所に帰った。 そしてイヴの夜は静かに過ぎていった。
「香里も来てくれて悪いな」
「朝日奈さんの事なら来ないわけないじゃないですか。 恋のライバルですもん。それがこんな状態だったらいつでも啓を奪ってくださいって言ってるようなもん……… なのに。 グスッ」
香里もなんだかんだで柚の事がとても心配なんだ。
そしてその後徹や、涼たちも来てくれた。
「柚、いつもみたいに俺を困らせてるんだろ? いい加減にしろよ…… 今年はホワイトクリスマスなんだぜ? 外を見ろよ、雪が降ってるぞ? こんなクリスマスなのに寝て過ごすなんてお前本当に……」
それでも何も反応のない柚は生きる気力を無くしたような人形のようだった。
生きてはいるけど死んでいるような柚を手を握り神様に祈った。
「ん…… 」
その時柚が微かに動いた気がした。
「柚!?…… 柚! 意識が戻ったのか!?」
「……………」
気のせいだったのか? いや、違う! やっぱり柚は生きてるんだ!
俺は柚に通じてくれと力強く柚の手を握った。
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ここはどこなんだろう?
私死んじゃったのかな? もう痛みは感じない。 やっぱ死んだのかな?
真っ暗………
何も見えないし何も感じない。
啓ちゃん今頃どうしてるんだろう?
すると真っ暗な空間に光が差し込んだ。
その光に影が2つ。
どんどんその影がはっきりしていってその影の正体は私の大切な人。
お父さんお母さんだった。
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