第48話
あっけなかった。 無傷で済むなんて思ってなかったし刺されても構わずスタンガンを打ち込んでやろうと思った。
私の目論見は成功し、男はリーチが長いから私に先に刃が届いた。だけど私は止まらず男に電流を浴びせる事が出来たけどその代償に私は脇腹を刺された。
もともと勝てるなんて思ってなかった。
どうやっても勝てないならせめて一矢報たかった。
男はスタンガンに一瞬は怯んだけど私の方が遥かに重症だった。
こんなもんだよね……
「いやぁ、ビックリしたよ。 そのまま刺されに来るなんて思わなかったよ、でも失敗だね。 僕はもうこの通り復活したし」
「ねぇ? 私が警察に通報してないと思った?」
「うん、通報なんてしてないのはわかってるよ? そんな暇なかったでしょ」
やっぱバレたか……
男が私の傷口に触れてきた。
「うわぁ、痛そうだね? 内臓まで行ってるのかなぁ?」
「凄い、叫ばないんだ? 叫んだら?」
「あんたなんか……死んじゃえ」
私の傷口から手を離しそして私の切り口からさらに血が滴り落ちる。
これ、もう死んだな私…… だんだんと寒くなってきた。
「まぁ、あの世で反省するんだね、ただの一般人が僕に復讐しようなんて痛い目見るのわかっただろ?」
意識がボヤけてきた。
目が見え辛くなってきた。男の姿が霞んでいく。
そして私の中には今までの事啓ちゃんやみんなとの思い出。走馬灯なんだ、これ……
啓ちゃんごめんなさい。 嫌な思いさせちゃうよね? 私最後までそんなんばっかりだった。
お父さんお母さん、今そっちに行きます。
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「動かなくなっちゃった。 死んだかなぁ?」
「おい!」
横からの叫び声に男が反応した。
そして叫び声の主は男に殴りかかった。
男の体が吹っ飛んだ。
「柚! 後藤さん、柚が!」
「お前は柚を病院に連れて行け! 」
「痛いなぁ、その子は連れて行かせないよ? 」
ナイフを後藤さんに向けるが後藤さんは素早く躱し男のナイフを持っている腕を逆に曲げ折ってしまった。
「ああああッ! 痛い!」
「これで終わりだなお前も」
そして男は諦めたかと思いきやもう片方の腕でナイフを拾い上げ柚に向けて投がつけた。
危ない! 俺は柚を庇い背中に痛みが走った。 ジワリと背中から血が出てくるのを感じた。
「啓! 往生際の悪い奴だ」
後藤さんは男の顔面を蹴り飛ばし男の意識を奪った。
「終わった……?」
「ああ、終わりだ。 啓、お前は大丈夫か? 」
「なんとか大丈夫です。 あまり勢いがなかったのか血は出ましたけど掠ったくらいだと思います。 それより柚が!」
「急いで車に乗せて病院行くぞ。 それにこいつには地獄を見てもらう、いや、生きて返さねぇ」
後藤さんは男を縛るとそいつも車に乗せた。
「柚! しっかりしろ! 柚」
「揺らすな! すぐ着くから安静にさせとけ!」
「助かりますよね? 柚は!」
「いや、あまり期待しない方がいい…… そうなっちまうとな………」
「後藤さん!」
病院に着くとすぐ柚は緊急手術室に連れて行かれた。
「こいつは俺たちが責任を持って殺すから安心しろ、こいつはサツには任せらんねぇ。柚に手を出したんだからな」
俺は柚と別れただならぬ嫌な予感を感じ後藤さんを頼った。
柚から昔の話を聞いた時一応この人たちの詳しい情報も聞いておいたからだ。
警察に行こうとも考えた。 だけど即座の対応は無理かもしれないし事が起こったらでしか対応できない可能性もあったからだ。俺は何も知らないガキだ。
だが実際柚は刺された。 俺は犯人の情報もましてや柚を殺そうとしていた事も分からなかった。 だがそうなるかもしれないという予感もあった。
柚が俺の前から消えてしまうかもしれないと思ったら……
もしこいつが何も持ってなく厳重注意だけで済まされたらもっと慎重に柚を殺しにくるかもしれなくなったらと思ったら後藤さんに頼るほかなかった。
後藤さんが来るまで事務所で一悶着あった事も。いきなり俺が尋ねれば当たり前の事だった。もっと早く早く! と後悔は後を絶たない。
結局どの選択が正しかったなんてわからなかった、結果この状況だ。
柚の事言えないな……
俺は柚の手術が終わるまで待つしかなかった。
そうして柚の叔父さん叔母さんらしき人も来た。
なのにその人たちはあの親あってこの子ありな態度で柚の事はさして心配する様子もない。
柚がああなってしまったのがわかる気がした。 俺はやるせない怒りをぶつけたが柚が無事ならもうどうでもいい。
柚、柚! 助かってくれよ、なぁ……
無限に感じるほどの時間が流れようやく柚の手術が終わった。
手術は成功したみたいだ。
俺は安堵し後は柚の回復次第となった。
クリスマスあれほど楽しみにしていた柚は今は病院にいるんだ。
俺は柚の味わった絶望を今更ながら知った。柚は家族が殺された時はこんな思いだったのか。そりゃあそうなるわな、俺はわかっていたようで実際は自分は味わってなかった。
だから偉そうな事ばかり並べ立て綺麗事ばかり押し付けていた自分が恥ずかしくなった。
だけど柚が助かった。 だったらもういいじゃないか!
だが柚は一向に目を覚ます気配はなかった。
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