大盾使いの少女は更なるメンバーを獲得する

  アルフレッドから話を聞いてから更に数日が過ぎた。あの後、ティファ達というより、冒険者が全体的に忙しくなった。どうにも、ニールセンが闇ギルドから得た魔物が領主屋敷にまだ数匹いたらしく、それらのせいでアスファルト領内の魔物も色々変化したという。


「元々、アスファルト領内にやたらイエロースライムちゃんが増えたのも不思議だとは思っていたけれど、原因も恐らくはそれだったんでしょうね」


と、いつの間にかギルドにやって来たスライムに詳しいマリーがその事態を紅茶を飲みながら説明した。

  それで、冒険者ギルドで緊急依頼が出されて、特にニールセンが隠し持っていたとされる魔物を中心に、アスファルト領内の魔物討伐が始まった。もちろんこの緊急依頼にティファ達のパーティーも参戦した。いや、むしろティファ達のパーティーが1番活躍したと言っても過言ではない。


「あっ、また誰かが石化した!?『万物たる癒しの炎』!!アヤ!あっちにメデューサの団体様の登場よ!!」


「了解です!お任せください!!」


「皆さん攻撃はお任せします!皆さんの事はきっちりお守りしますので!!」


アスファルト領内には、石化攻撃をするモンスターが増えた為、リッカが石化した人を回復しながら攻撃魔法の援護を。目を瞑ってメデューサと戦えるアヤは、メデューサを1人で担当し、メデューサは全部アヤが倒したので、冒険者からアヤは「メデューサキラー」と呼ばれるようになった。ティファはその固い防御に石化は一切効かないので、冒険者達を守る盾として見事に活躍しまくった。こうなると、一応来ていた低いランクの冒険者パーティーはリッカのMPポーションを渡すだけの役目と化した。


  そんな感じにティファ達がアスファルト領内の魔物討伐を行った結果、ニールセンが隠し持っていた魔物達は何とか全て討伐出来た。ティファ達は喜び勇んで凱旋した。そんなティファに更に喜ぶべき知らせが届いた。


「えっ!?それは本当ですか!?」


「あぁ、コックル君とヒルダから同時に届いた知らせだから間違いないよ。もうすぐティファ君が『シールドパニシュ』を安全に扱う為の装備品が完成しるそうだ」


これはティファにとって本当に嬉しい知らせである。『シールドスロー』という新たな攻撃法は獲得したが、『シールドスロー』は込めた防御力分の威力なので、なかなかいないが、ティファ並の防御力を持つ魔物だと耐えてしまう可能性がある。おまけに、ティファだとあまり遠くに飛ばせない難点も存在する。そういう意味ではぶつけるだけで殲滅力が高い『シールドパニシュ』の方が使い勝手がいい。それに、ティファ自身もホウオウ討伐したスキルなので、やはりそれなりに思い入れがある。安全に使えるようになるなら使いたい。


  そんな朗報と共に、ティファをちょっと複雑にさせる報せもエルーシャから聞かされた。ティファ達がアスファルト領で奮闘している間に、ニールセンが処刑されたという。ニールセンは自身の罪を何もかも告白したそうだが、未だにその狂気な表情を携えたまま斬首された。

  ニールセンが、狂気な感情を芽生えさせた出来事には同情出来る部分がある。けれど、彼がしてきた事、彼が自身がやった事を誇りのように話し、反省の言葉を口にしなかったという点は、やはり強い憤りを感じるが、もう彼はいないのだ。もう2度彼のような存在が出ない事をティファは祈った。



  とりあえず、ティファ達は無事にいつも宿泊している「山猫亭」へ足を運んでいた。早くパーティーホームの資金も稼がなきゃと3人で相談のような雑談を交わしていると……


「ねぇ?なんか「山猫亭」辺りが騒がしくない?」


「ん?本当だね?なんだか人集りが出来てる……」


「何があったのでしょうか?」


3人は揃って首を横に傾げ、とりあえず人集りをかき分けて進むと……


「えっ……?これって……まさか……!?」


「山猫亭」の店の前に多種多様のスライム達がいたのである。こんな現象を起こせる人物の心当たりがあるティファ達は乾いた笑みを浮かべ、とりあえず「山猫亭」の中に入ると


「あら?遅かったわね。待ってたわよ」


ティファ達の想像通り、「山猫亭」の食堂の一角で優雅に紅茶を飲むマリーがそこにいた。マリーの周りには、先程入り口にいたスライム達よりも沢山のスライム達がそこにいた。ティファはスライムの存在にしばし動揺したが、ふと、マリーの言葉が気になって問いかける。


「えっ?マリーさん。私達を待っていたって……」


ティファの問いに、マリーは無言にテーブルに3つの紙を置いて


「私もあなた達のパーティーのメンバーに正式に加入したから。これ、マスターであるエルーシャの認可証に、シャーリィーとマウローからの推薦状」


「えぇ!!?」


ティファは突然すぎる話に驚きながらも、差し出された3枚の紙を見た。それは、確かに1枚はエルーシャの名前でティファ達のパーティーメンバーにマリーを加入させたという認可証。他2枚は、シャーリィーとマウローの名前で、『マリーならティファのパーティーのメンバーとして認める』と書かれたものだった。リッカとアヤもその3枚の紙を見て目を見開いて驚愕する。


「元々、エルーシャ達は私を貴方達のパーティーに入れたらどうかと考えていたみたいよ。まぁ、私が特殊な立場で、人と関わるのを避けていたから声をかけなかったみたいだけど」


そういえば、メンバーを募集した時に、エルーシャ達が1人規格外の者がいると話していた事をティファは思い出した。まさか、それがマリーの事だったとは思わず多少動揺するティファだが、確かにマリーが規格外なのは間違いなかった。


「で、私があなた達と関わりをもったから、良かったらどうだい?ってエルーシャに言われたから了承したの」


「えっ!?どうして!?」


そんなアッサリと了承したのか?そういう意味で尋ねたら、マリーは紅茶を一口飲んだ後


「勘よ」


『勘!!?』


たった一言の答えに、3人は声を揃えて反応する。


「そう。貴方達といれば、私の夢……まだ見ぬスライムちゃん達に出会うっていう夢が叶う。そう思ったからよ」


マリーはそう言うと、美しい気品ある微笑みを浮かべ


「そういう訳だからこれからもよろしくお願いするわね。スライムちゃん達共々ね」


こうして、ティファ達はまた一風変わったメンバーを仲間にしたのだった。後、大量のスライム達も一緒に。

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