四章

幼馴染の聖賢女と元貧弱格闘家は檻の中

「ん〜……?んっ……?」


リッカは軽く寝返りをしたら違和感に気づく。まだ目を開けず、ぼんやりとした感覚ながらこれまでの出来事を思い返す。

  確か……マリーという女性と色々あり、その時の戦闘疲れのせいか、お風呂に入った後ベッドに沈み込んだ瞬間、強烈な眠気が襲ってすぐに眠くなってしまい、抗う事をせずにそのまま眠ったと思う。

  しかし、宿屋のベッドにしてはやたら固いなぁ〜と思い、リッカは今更ながらゆっくり目を開けてみると……


「は?」


明らかに宿屋の天井とは違うボロボロの石畳のような天井に、リッカの意識は完全に覚醒するが、まだ自分で見た物が信じられず何度も瞬きを繰り返す。が、何度瞬きしても結果は変わらないので、すぐにリッカは起き上がると


「ちょっ!?はい!?どうなってんの!?コレ!?」


起き上がってみれば、リッカはいかにも罪人を閉じ込める檻の中にいたのである。改めて確認すると、自分が寝かされていたのは、人一人分が寝れるぐらいの大きな石にシーツがかけてあるだけの所に寝かされていたのである。どうりで固い訳だとそんなどうでもいい感想を抱くリッカ。


「んぅ〜……?リッカ……?どうしました……?朝ご飯ですか……?」


幸が不幸かは分からないが、リッカが入れられた檻の中にはもう1人いた。アヤである。アヤはリッカの大声で目を覚ましたばかりらしく、目を擦りながらそんな寝惚けた発言をする。リッカはそのアヤを起こす為、アヤの肩をガッシリ掴んで揺さぶり起こす。


「アヤ!?目を覚ましなさい!?そしてこな状況をよく見て!!?」


リッカに揺さぶられ、ようやく意識が徐々に覚醒したのか、アヤは先程の宿屋とは違う天井に、更には自分達が檻に入れられていると認識し、顔が真っ青になる。


「なっ!?そんな!?私達何かしましたか!!?やっぱりちゃんとブラックスライムを討伐しなかったから!!?」


「落ち着きなさい。流石に依頼に失敗したからって牢屋に入れられる訳ないでしょう。それに、私達が何かして捕まったならそれらしい記憶があるはずだけど、そんな記憶ある?」


リッカにそう言われ、アヤはしばし沈黙して思い返している様子だったが、やがて静かに首を横に振る。アヤにも何故囚われの身になったのか身に覚えがない。


「そうよね。私にも身に覚えがないわ。となると、考えられるのは私達は宿屋に寝てる間に捕まってここに囚われだと考えるべきね。しかも、ご丁寧なのか舐めてるのか……わざわざ私達に冒険者の装備品を装備させた状態で……」


リッカ達は寝る前にお風呂に入ったので寝間着を着て就寝したはずである。しかし、リッカ達は現在コックルに作ってもらった装備品を装着している。つまり、自分達を攫った何者かがわざわざ自分達を寝間着から冒険者の装備に着替えさせたのである。そう考えたら余計に忌々しそうな表情で舌打ちをするリッカ。


「あの……?ところで……ティファは……?」


「ハッ!?そうだった!?ティファ!?いるの!?いたら早く起きて返事しなさぁい!!?ティファ!!?」


騒げは自分達を捕らえた者に気づかれるかもしれないという考えが頭から完全に抜けたリッカが叫ぶ。しかし、リッカがどれだけ叫んでも、ティファはおろか捕らえた者からの反応すらない。


「…………いない。みたいですね……?」


「そうね。いくらあの娘でもこれだけ騒げは起きるだろうし……別の所に囚われてる可能性が高いか……だったら、さっさと助けに行かないと……!!」


リッカはすぐさま右手上に巨大な火の球を作り、それで牢の柵をぶち壊そうとする。が、それをアヤが慌てて羽交い締めにして止める。


「リッカ!?落ち着いて!?冷静になってください!?」


「止めないで!?私が行かなきゃ誰があの娘を!?ティファを助けに行くのよ!?」


「もちろん2人で助けに行くに決まってます!!私達はパーティーの仲間なんですよ!!」


アヤの強めの言葉に、完全に頭に血が昇っていたリッカは徐々に冷静さを取り戻す。右手上に作った火の球も徐々に小さくなり消えていく。


「……ごめん。そうよね。今はアヤも仲間なんだから、一緒にティファを探しに行くのは当然よね」


「そうですよ!一緒にティファを助けに行きましょう!」


「けど……その為にはまず牢の柵を壊さないと……」


「それは待ってください!今リッカの叫びで気づかなかったとはいえ、流石に魔法を使ったら私達を捕まえた奴らに気づかれるかもしれません!」


「けど、だったらどうしたら……」


「ここは私に任せてください!!」


アヤはそう言うと両手で牢の柵を掴み


「ふんッ!!」


柵をアッサリと左右にそれぞれ引っ張り曲げて、人が通れるスペースを簡単に作り上げた。


「さぁ!早くここから出ましょう!」


「そうね。早くティファを助けにいきましょう」


ティファを助ける事に頭がいっぱいなのか、最早アヤの規格外の攻撃力に見慣れたのか、曲げられた柵を気にする様子もなく、2人は牢から脱出し、ティファを探す為に動き始めた。


  ちなみに、2人が囚われた牢の柵は、鉄鉱石の中で1番固い鉄銀鉱石を全部使った柵だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る