三章

大盾使いの少女は色々と思案する

  コックルの依頼を果たしてから数日が過ぎた。ティファは、冒険者ギルドの依頼が貼り出されている掲示板で難しい表情をしていた。


「う〜ん……なかなか良い依頼がないなぁ〜……」


コックルにロックトータスの甲羅を渡す依頼を達成して以降、ティファ達はこれといった目ぼしい依頼を見つけられずにいた。依頼自体は沢山あるのだが、どれも報酬額が少ない物ばかりなのである。ティファ達の上客のような関係であるコックルは、早速国への依頼の騎士鎧の作製に専念しているので、ティファ達もここしばらくコックルには会っていない。


「まぁ、ここギルドディアは特に冒険者の数が多いとされてるからね。高額報酬の依頼はすぐに取られちゃうでしょ」


「所謂早い者勝ち……早く依頼を勝ち取れなかった私達は敗者という訳ですか……むむっ!次こそは早く依頼を勝ち取る為に修練を積んで……!」


「いや、どんな修練する気よ……」


早くいい依頼を取れずに悔しかったのか、握り拳を上げてそう宣言するアヤに、リッカは軽く溜息をつく。


「って言うか、珍しいわね。ティファが高額報酬の依頼を求めようとするなんて。ティファの事だから、身の丈に合った依頼をこなしてくと思ってたんだけど?」


リッカが疑問に思った事を口にする。確かに、ティファなら低額報酬で、ランクが低い依頼でも着実にこなしていこうとするタイプだが、ティファにはある悩みと考えがあった。


「うん。まぁ、アヤが加入してくれたおかげで、パーティーバランスが良くなって難しい依頼もこなせる自信がついたのもあるけど……切実なのは……その……宿代……かな……」


「あぁ……そっちか……」


ティファは物凄く言いづらそうにそう答える。ティファの言葉にリッカは得心する。

  現在、ティファは「山猫亭」という宿屋で寝泊りしている。ホウオウ討伐や他にもいくつかの依頼をこなしてはいるので、宿代はちゃんと払えているものの、やはり1人増えた分宿代は高くなるので、高額報酬もやらないと厳しくなってきている。


「うぅ……!?私のせいでとんだご迷惑を……!?」


「ちょっ!?違うよ!?アヤのせいじゃないからね!?むしろアヤには本当に感謝してるんだから!?」


アヤは自分が増えたせいで迷惑をかけてると察し俯きながらそう言うので、ティファが慌てて首を横に振る。実際、アヤが加入しなければ、パーティーのバランス問題が解決しなかったので、ティファも高ランクの依頼にチャレンジしようと思わなかっただろう。なので、ティファは本当に心の底からアヤには感謝している。


「それに!最初から考えていた事があるんだ!パーティーホームを買おうかなって!」


パーティーホーム。それは、その名が示す通り、パーティーメンバーで暮らす為の家である。家を購入するのは流石に高額なのと、この国だけにいるとは限らない冒険者という職種の為、あまりパーティーホームを買っている冒険者は少ない。

  だが、ティファはもう最初からこのギルドディアを拠点として、冒険者活動をするのを目的としている。ここには、ティファが守りたいと思う人達が沢山いる。そういう意味でも、ティファはパーティーホームについて前向きに検討していたのである。


「パーティーホームか。いいじゃない。けど、それなら尚の事お金を稼ぐ必要があるわね」


「だったら!フリーで魔物を狩まくりますか!修練にピッタリですし!」


フリーで魔物を狩るのは、冒険者にとって1番の金稼ぎである。常に目ぼしい依頼がある訳ではないので、そういう場合、冒険者は各地にいる魔物をフリーで討伐して魔石を売ってお金を稼いでいる。ホウオウが依頼の対象外だったのに、ホウオウ討伐の報酬をティファ達が得られたのもここにある。

  しかし、問題点もある。たまたま先に依頼を受けた冒険者より、手配された魔物を倒してしまった場合、冒険者同士で色々とトラブルになってしまうケースがあった。

  まぁ、今は誰が指定魔物討伐依頼を受けているか、分かるようにはしているのでそんなトラブルは起きないのだが、いかんせん魔物は常に一ヶ所にいる訳でなく、その近くにいた為偶然出会して討伐してしまったパターンもない訳じゃない。揉め事が苦手なティファは避けたい所である。


「それもありだけど、一攫千金狙うならやっぱり『迷宮』攻略じゃない?」


『迷宮』。それは、五大英雄達が魔王討伐して何年が過ぎた後に突如世界各地に出現した。その『迷宮』には、F〜Aランクまでの魔物がウヨウヨしており、奥に行けば行く程強い魔物が存在し、Sランク指定の魔物まで存在していると噂されている。

  そんな『迷宮』を攻略するのも冒険者の役目で、『迷宮』には魔物だけでなく、その危険に見合うだけのお宝も存在している。『迷宮』は依頼書に貼り出されてはいない。が、『迷宮』攻略は3人以上のパーティーである事と、パーティーランクと『迷宮』ランクが同じかそれ以下でないと入れないというルールがある。そして、『迷宮』で得た宝は早い者勝ちである。

  そして、このギルドディアにも『迷宮』は存在している。幸いにもティファのパーティーは最低人数の条件は満たしているし、ティファのパーティーランクでも入れる『迷宮』はあったはずだ。お宝はもしかしたら先に取られてしまっていても、その『迷宮』の魔物を討伐するだけでも結構な額は稼げるだろう。

  それに何より、ティファはもう立派な冒険者だ。未知の領域への冒険をしたいという気持ちが湧いてこない訳がない。もう、ティファの頭の中には『迷宮』の攻略でいっぱいになっていた。


「うん。そうだね。それじゃあ!今日は『迷宮』の攻略をしよう!」


「そうね。そうしましょう」


「『迷宮』の攻略!いい修練になりそうです!」


2人からの同意も得られたので、ティファは早速自分達のランクで攻略可能な『迷宮』を探し、その『迷宮』の攻略の準備に取りかかろうとしたのだが


「ごめんね。せっかく盛り上がってるところ悪いけど君達にご指名の依頼だよ」


3人をそう言って呼び止めたのは、ギルドマスターのエルーシャだった。いきなり呼び止められ、ご指名の依頼と聞かされ、3人は同時に首を横に傾げた。

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