大盾使いの少女のパーティーは夢に向かって突き進む

「えぇ〜……コホン!では……新たに加入したアヤちゃん……ううん!アヤの加入を祝して!乾杯!!」


『乾杯!!』


ティファ達3人は、アヤの正式加入がしたその日の夜、「山猫亭」の店主にお願いし、食堂の一角を貸し切りにして、アヤの歓迎会を開いていた。3人が手に持ってる飲み物は、普通のジュースである。ギルドディアではお酒が飲めるのは18歳からで、アヤもティファとリッカと同じ16歳なので、3人共まだお酒を飲む事は出来ない。


「うぅ……!?私の為にこのような歓迎会を開いてくださって本当にありがとうございます……!ティファさん……!リッカさん……!」


嬉し涙を拭いながらそう言うアヤに、ティファは苦笑を浮かべ


「むしろお礼を言いたいのこっちだよ。探していたメンバーを見つける事が出来たんだから。それに……さんはいらないよ。ティファでいいよ」


「えっ!?いえ……ですが……!?ティファさんはパーティーのリーダーで、リッカさんはそのティファさんのパーティーに最初に加入したメンバーですし……」


「そうだけど、私達はパーティーの仲間であると同時に、夢に向かって突き進む同志でもあるでしょ」


ティファは微笑みを浮かべてそう答え、持っていたジュースが入ったジョッキをテーブルに置き、リッカとアヤを交互に見て語り始める。


「私は、小さい頃に両親と妹を魔物に殺されたの」


「えっ!?」


ティファの過去話を聞いたアヤは動揺する。リッカが幼い頃からの幼馴染だというのは聞いていたが、そのような話は初めて聞いたので、自分が聞いていいものかとアタフタしていると、ティファは構わないよと伝えるように首を横に振る。


「だから、もう2度と大事な人を失いたくない。今度こそ私が大事な人を、みんなを守る為の盾になるんだって。大盾使いの英雄様みたいに。だから、大盾使いの道を選んだの」


「……そうだったんですね……私は……ティファさんに比べたら少し情けない話かもしれません……」


ティファが何故大盾使いの道を選んだかの理由を聞き、アヤは俯きながらも、自分が格闘家を選んだ道を改めて語り始める。


「先程は……本を読んで憧れたって言いました……それも間違いではないんですが……本当は私……家で1番の落ちこぼれだったんです……」


アヤは若干辛そうな表情をしながらそう言った。ティファとリッカはそれを聞き、無理に話さなくてもいいよと訴えたが、アヤは首を横に振った。


「大丈夫です……それに、確かに落ちこぼれではありましたが、家族や親戚は皆優しかったです……ただ、どれだけ修行しても上達しない自分に苛立っていて……そんな時に「五大英雄物語」を読んだんです……」


アヤはその本を読んで衝撃を受けた。影から主君の栄華を支えるの美徳としていた自分の一家。その一家とは真逆の表の舞台で活躍する英雄達。アヤはそんな英雄達の活躍にのめり込み、特に、格闘家の英雄様の活躍は毎回目をキラキラさせていた。


「それで、私決めたんです。私は格闘家の英雄様のような冒険者になりたいって。もしかしたら、それはいつまで修練を重ねても落ちこぼれな自分への逃げもあったかもしれません。だからでしょうね……初めて父親に怒鳴られて叱られました……」



『お前のソレはただの逃げだ!?そんな気持ちで「忍」はおろか、冒険者などと危険が常に付き纏う職などやれるものか!?恥を知れ!!?』


アヤは父親の初めて受けた叱りの言葉に、逆にアヤの心に火がついた。自分が進みたいと選んだ道だ。もう絶対この道から逃げはしないと、父親を説得し、ようやくあの条件を引き出させた。

  そして、条件は見事に達して、冒険者になったアヤはそれを父親に報告したら


『あれだけの啖呵を切ったのだ。もう2度と我が家の敷居を跨ぐ事は許さない』


と、父親から勘当宣言をされた。アヤはそれに少し動揺したものの、逃げぬと決めた以上、少しは覚悟の上だったので、父親に頭を下げ家を出て行ったのである。



「……そっか……アヤはやっぱり凄いよ……そんな覚悟を持って今まで頑張ってきたんだから……私なんか無能扱いされた事もあって夢の事を一時忘れてた事があったし……」


「いえいえ!?所詮私はもう逃げ道が無いので!前進するしかないという感じでやってきただけですから!?って言うか……無能……?ティファさんが……?」


「それは追々説明してあげる。とりあえず、さっきティファも言ったけど、私もティファもさん付けしなくていいわよ」


リッカが軽く溜息をついてそう答える。アヤは今度はリッカの方を向き


「リッカさ……いえ……リッカにも夢はあるんですか?」


「あぁ……その……リッカは私に無理矢理付き合った感じだから……もしなくても別に構わないし、もし見つけたいなら私達とゆっくり探しても……」


「あるわよ。冒険者としての私の夢」


「うえぇ!?本当に!!?」


リッカの言葉にティファは目を見開いて驚く。リッカに関しては、幼い頃自分の夢に付き合わせた感があるので、まさかリッカに冒険者としての夢があるとは思わなかったのである。


「あのねぇ〜……もし、冒険者稼業がつまらないと感じたなら、私はさっさと辞めてるわよ。都合のいい事に、あの時のティファは冒険者としての自信も失くしていたから、ティファを説得してね」


「あぁ……それもそうだよね……」


今に思えばリッカはそういう性格だ。辞めたいと思ったらすぐ辞めてるだろう。例え、2人の「約束」があったとしても……それに、魔力数値も500000から900000まで上げる程だ。冒険者稼業を嫌ってはいないだろう。


「まぁ、私の力で誰かを救えるってのが存外気分がいいってのもあるけど、やっぱり私魔法を覚えるのが好きなのよね」


リッカは苦笑を浮かべながらそう語る。長い付き合いであるティファは、リッカのその表情が子供のようにキラキラと楽しそうであると見抜いていた。


「新しい魔法を習得した瞬間は凄く興奮するし。その魔法を早く試してみたい気持ちにかられるの。だから、私の夢は世界に存在するまだ私の知らない魔法を覚えたい」


リッカは攻撃魔法と回復魔法を大半覚えているが、まだ賢人や聖女の英雄が使っていたような神聖級魔法は覚えていないし、最近では敵のステータスを下げたり、味方のステータスを上げる支援魔法の習得にも励んでいると聞く。それ以外にもまだまだ隠されし魔法があるという。それらを全て覚えたいというのがリッカの夢だった。


「そっか……私達のパーティーは、それぞれの大きな夢の為に励んでいくパーティーって事だね!私は皆を守る為の盾に!」


ティファはそう言って立ち上がり、右手をテーブルの前にかかげる。ティファのやろうとした事に、リッカはいち早く気づいて立ち上がり、自分の右手をティファの右手の上に重ねる。


「私はこの世界に存在する全ての魔法を習得する!」


リッカがそう宣言した後、アヤもスッと立ち上がり自分の右手をリッカに右手の上に重ねる。


「私はもう逃げません!格闘家の英雄様のような立派な格闘家になります!」


アヤがそう宣言した後、ティファは2人を交互に見て微笑を浮かべ


「私達パーティーは!自分達の夢の為!とにかく前進していこう!!」


『おぉ〜!!!』


ティファがそう宣言した後、3人は揃って掛け声を出し、重ね合わせた右手を同時に上げた。


  こうして、3人の少女のそれぞれの夢を乗せたパーティーはここに完全始動したのである。


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