呪い状態の格闘家は呪いを解いてもらう

  状態異常「呪い」。この状態異常にかかると、ステータスが下がってしまう。故に、アヤがステータスがオール10になってしまっているのは、この状態異常「呪い」になっている事がティファの『サーチアイ』で判明したのであるが……


「って言うか……何で自分が今の今まで「呪い」にかかった状態だって気付かなかったのよ……」


リッカは呆れたように溜息をつく。これだけステータスが異常なまでに下がっているのだ。普通の冒険者なら気づいてもいいはずなのだが……すると、アヤは物凄く申し訳なそうな顔をして……


「うぅ……その……憧れの格闘家になれた事で頭がいっぱいで……それと私は……好きな本以外読むのは苦手なので、冒険者登録時に渡された「冒険者のイロハ」の本をしっかりと読んでなくて……」


アヤは曖昧な感じにそう言うが、ようは冒険者の知識を記した本を読んでいない為、状態異常がどんな物か全く理解していないという。故に、呪いという状態異常にかかっているのも知らずに放置していたのだ。


「けど、だからって……周りの冒険者とか指摘しなかったの?」


「その……これも自分の修行が未熟だからと思い、1人黙々と修行を積み重ねたのです……」


「えっ!?アヤちゃんってFランクだよね!?ソロ活動って出来ないんじゃないの!?」


『サーチアイ』を何度も使った為、ある程度色んな情報を知る事が出来るようになったティファが、先程入ってきたティファの冒険者ランクを知っていたので驚愕する。ソロ活動が出来るのは、パーティーのリーダーになれるDランクからである。それ未満のランクの者は、どこかのパーティーに入ってDランクになってから、ソロやパーティーを作ってリーダーになる権利を得られる。


「東方国では、「可愛い子には旅させよ」「我が子を千尋の谷へ突き落とす」という格言がありまして、若い時分から苦労を重ねて修練を重んじるのが普通ですから、冒険者ギルドでも、登録したらまずはFランク専用の修練ダンジョンで1人修練を積むのが習わしとなっているのです」


「まさか冒険者のルールにまで文化の違いがあるなんてね……」


「私、東方国だったら一生Fランクのままだったかも……」


アヤの東方国の冒険者ギルドの扱いの違いを知り、リッカとティファはそれぞれの感想をもらす。


「ですが……それでも修練や修行を重ねてもステータスがオール10のままだったので……けど……どうしても冒険者を辞めたくなくて……だから……冒険者が多くいるここなら、私を雇い入れてくれる人がいると思ってやって来たのですが……まさか……状態異常にかかっていたなんて……」


アヤは俯きながらそう呟くに言った。そのアヤの表情と言葉に、かつて無能だとパーティーを追い出された自分と重なり、ティファはなんだかアヤの事を他人事と思えなくなった。


「……それで、貴方が呪いを受けた原因に心当たりはないの?ずっとステータスをオール10にするなんてよっぽどの呪いよ」


「あっ、そっか。呪いの状態異常って教会や回復魔法を使わなくても2、3日で治る場合があるもんね」


呪いを受けた場合、呪いの強さにもよるが、弱い物だとティファの言う通り2、3日大人しく寝れば治る。しかし、先程からアヤの話を聞けば、彼女にかけられた呪いは重度の物である。もしかしたら、誰かに恨みをかって、その者にずっと呪いをかけられてるんじゃないかとリッカは考えている。


「そうですね……確か……私のステータスがおかしくなり始めたのは、初心者修練用ダンジョンの「死霊の森」というアンデット系の魔物が出るダンジョンで修練を重ねてからでしょうか」


「いや、ちょっと待ちなさい。アンデット系の魔物が出るダンジョンって……貴方格闘家でしょ?何でそんなダンジョンを修練場所に選ぶのよ?」


アンデット系の魔物には、物理攻撃は通じにくい。特に、拳や蹴りによる攻撃を駆使して戦う格闘家にとって、アンデット系の魔物は最悪の相手だ。


「だからこそ!修練になるのではないですか!!」


「うん。ごめん。聞いた私がバカだった……」


目をキラキラ輝かせてそう答えるアヤに、リッカは額を抑えて溜息をつく。ティファも引きつった笑みを浮かべている。


「時間をかけながらなんとか魔物を討伐して、ダンジョンの奥でこの装備品を着てからですかね!」


  まるで自分の戦利品を見せびらかすように胸をはり、その赤黒く染まった格闘家装備を見せるアヤ。ティファとリッカは2人顔を見合わせて固まる。そして、リッカが息を大きく吸い込み


「あからさまにその装備品が原因でしょうがぁ!!?」


リッカはアヤのその装備品を指差しそう叫ぶ。アヤはリッカの迫力ある叫びに思わず「ひいぃ!?」と呻いて後ずさる。ティファはそんな幼馴染を見て乾いた笑みを浮かべる。

  装備品には呪いが付着した装備が数多く存在する。弱い呪いならすぐに消えてただの装備品に戻る事もあるが、強い呪いがかけられた呪いだと、装備した者を一生呪い続ける物もある。アヤが装備した物は間違いなく後者の代物だ。


「えぇ!?そんなまさか!?初めて冒険者として手に入れた装備品がまさか呪われていたなんて!?どうりでお風呂入る時脱ごうと思ったのに脱げないと思った……」


「いや!?その時点でおかしいって気づきなさいよ!?って言うか!?それでお風呂どうしたのよ!?」


「貧弱だから装備まで外せないと思って……仕方なく着たままお風呂に入ってました……」


赤黒く染まった格闘家装備を着たままお風呂に入ったアヤの姿を想像して、ティファは再び引きつった笑みを浮かべる。リッカは額を抑えて溜息をついた。


「まぁ、いいわ。とにかく、その装備品の呪いを解いてあげるから、何が起きてもジッとしててちょうだい」


「ふえぇ!?呪いを解くって!?」


「私は魔術師だけど、回復魔法も極めてるのよ。それに、最近面白い技も会得したから、それを使えば貴方の呪いなんてすぐに解けるわ」


「けど……その……私はまだ駆け出しのような冒険者でお金の持ち合わせが……」


「いいわよ。ここまで乗り掛かった船ってやつよ。それに……うちのリーダーが貴方を救いたそうにしてるからね」


リッカは軽く溜息をついてそう言った。自分の考えを見抜いている幼馴染に、ティファは微笑を浮かべる。アヤはティファとリッカを交互に見てまだ躊躇っている様子だったが、2人に深々と頭を下げた。


「散々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが!お願いします!!私はまだ冒険者を辞めたくありません!!」


アヤの心の底からの懇願に、リッカは軽く溜息をつき「分かったわ」と答えると、ホウオウ討伐の際に会得した『万物たる癒しの炎』を発動した。


「ひやあぁ!?私の周りに炎が!?」


「落ち着いて。何が起きてもジッとしてて言ったでしょ。それに、熱さは感じないでしょ?」


「はい。確かにこれは……どちらかと言えば暖かい……それに……!身体から力が溢れてくる……!」


どうやら、リッカの『万物たる癒しの炎』でアヤの呪いが解けていってるようで、ティファはホッと安堵の溜息をつく。


  そして……アヤの呪いは完全に解かれ、炎も消えた瞬間、ティファとリッカを目を見開いた状態で固まる。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!お2人には感謝の念がたえません!!この御恩は必ずお返しして……」


「『7色の盾』!!」


いち早く復帰したティファが『7色の盾』を発動させ、出現させた6色の盾でアヤを取り囲む。突然の事態にアヤは動揺する。


「ちょっ!?ティファさん!?急に何を……!?」


「あのね……アヤちゃん……その……下……」


「へっ?…………ひゃあぁぁぁぁ〜ーーーーー!!?」


ティファに下を見るよう促され、アヤは自分がどういう状態になってるかを認識し、顔を真っ赤にさせ自分をかき抱くようにその場で蹲り甲高い悲鳴を上げた。


  アヤの装備品による呪いは、リッカの『万物たる癒しの炎』によって解かれはしたのが、その呪いは装備品に強く染み付いてしまっていた為か、浄化された同時に、装備品は消えて無くなったのである。それにより、アヤは下着だけの姿になってしまったのだった。

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