大盾使いの少女は聖賢女共に決断する

  「山猫亭」で夕飯を食べた後、ティファは「話がある」とリッカに伝える。それで、リッカも大切な話し合いがあると分かったのか、黙ってティファに続いて部屋に入る。


「リッカ……あのね……私決めたの。あのね……」


「近接戦闘に特化した人をパーティーに入れたい。でしょ」


自分から切り出そうとした事をアッサリと言われ、ティファは驚いてポカンとした表情になってしまう。


「リッカ……まさか……!?魔術を極めてとうとう人の心が読める程に!!?」


「そんな訳ないでしょ。私だってホウオウ討伐の際に思うところがあったからよ」


リッカは目線をティファから外してそう答える。ティファはリッカの言葉に、リッカも自分と同じ事を考えていたんだなとほんの少しだけ嬉しく思った。


  ティファもリッカも先のホウオウ討伐で1番に感じたのは、自分達のパーティーの欠点だった。確かに、ティファは防御に特化していて、リッカという最大火力の魔法使いはいて、攻撃も防御も全く問題ないように感じる。

  しかし、やはりこの2人のパーティーには近接戦闘に特化したメンバーがいないのだ。いくらリッカが攻撃面を補えても、リッカはあくまで魔術師である。ホウオウの時のように魔法を無効化する相手が出てきたら一気に攻撃手段を失ってしまう。

  結果的に、ティファの持っていたスキルが『シールドパニシュ』が発動出来たから事なきを得たものの、もしも発動が不可だったらの場合、最悪の結果になっていたかもしれない。おまけに、今はティファは『シールドパニシュ』の使用は当面禁止され、コックルとヒルダの話だと、威力を抑える装備品の開発は難航しているという話だ。ティファはもしもの事を考えると、やはりこのパーティーに近接戦闘特化のメンバーが欲しいという考えに至った。


「それで、そういう考えに至ったのに、今まで私に言い出せなかったのはあの「約束」があったから?」


「うん。まぁ、ガブリィさんとのゴタゴタがあって言い出す暇が無かったのもあるけどね。けど、確かに1番感じたのはそこかな」


ティファは苦笑を浮かべつつそう答えた。あの「約束」は2人だけの「約束」であるから、自然とパーティーも2人だけでやっていくものだという考えがティファの頭の中にあった。


「確かに、私も2人だけのパーティーで五大英雄様のような冒険者になる。って考えが自然と出来ていたわね。けど、ホウオウ戦で実家したわ……なんで五大英雄様が英雄なのかをね……」


五大英雄は1人1人が優れた力を持っているのに、魔王討伐に限らず、巨大な魔族や魔物達との戦いも常に五人で挑んだ。それは、それだけ戦闘が厳しいものだったのも考えられるが……


「どれだけその人に特化した物があっても、1人だけじゃどうする事も出来ない。それを私が1番よく分かっていたはずなのに、全然分かってなかったんだね……」


ティファは俯きながらそう答える。いくらティファが防御に特化していても、リッカがどれだけ魔術師として優秀でも、いざパーティーを組めばそこに穴は存在する。だから、シャーリィーやマウローはSランクの実力があるにも関わらず、今もメンバーを勧誘しているのだ。自分のメンバーの穴を補う為のメンバーを入れる為に。


「それに……やっぱり……シンシアさんの親友の話を聞いてますますそうしなきゃダメだなって思った」


「シンシアさんの?」


「うん。私は誰かの盾を守る盾になりたい。でも、私一人だけじゃ、私を守ってくれる盾がないって……あっ!?リッカが頼りないとかそういう訳じゃないんだよ!?いつもリッカは頼りにしてるよ!?それは本当だよ!?」


「分かってるわよ。変に言うと逆に言い訳に聞こえるわよ」


リッカは苦笑しながらそう言うと、ティファは「うっ……!?」と呻いて俯くも、すぐに首を横に振りリッカの方を向き


「私ね。どうしようもなく皆を守る為の盾になりたいの。だから、その為にはリッカ1人だけじゃ足りないってそう感じたの」


ティファは真っ直ぐリッカを見てそう答える。ティファはあらゆる全ての人を守りたいと願っている。大事な家族を失ったあの日からずっと……ただ、その為にはティファだけではもちろんだが、リッカの手があっても足りないと痛感したのだ。


「独り善がりの考えだと思う。だから、リッカにまで私の想いを共有して押しつけようと思わない。だから、もしリッカがついていけないと思ったなら……」


「ストップ。その先は言わせない。私はそんなティファを守りたいから、ティファのパーティーにいるの。それをティファが1番に分かってるはずでしょ」


リッカは真剣な眼差しでティファを見て答える。ティファはしばし沈黙したが、すぐに笑みを浮かべ


「ありがとう。リッカ。それじゃあ!もうエルーシャさんに相談はしてるから!明日早速冒険者ギルドでメンバー探しでいいよね!?」


「えぇ、問題ないわ」


ティファは明日のメンバー探しにワクワクしてる様子だ。そんなティファを見てリッカは微笑を浮かべ溜息をつきつつ


「やっぱりティファをパーティーのリーダーにして正解ね」


自分がもしもリーダーだったら、パーティーの穴に気づいても、ティファと2人のパーティーの空間が好き過ぎて決断出来なかっただろうから。リッカは微笑を浮かべ、はしゃぐ幼馴染を見つめ続けた。





  そんなティファとリッカが決断した日の翌日の朝、1人の格闘家の衣装を身に纏った少女が、王都ギルドディアの門の前にやって来た。


「ここが王都ギルドディア……ここなら……!私のような者でも!入れてくださる人が1人はいるはず!多分!」


彼女はギュッと両拳を握りしめ、グッとお腹に力を込めるようなポーズをとる。そんな少女に門番の2人は目を奪われる。

  少女は、黒髪の長めのポニーテール。顔立ちは素朴なれど美人な顔立ちをしているのだが、門番達が目を奪われてしまったのは少女の胸だった。少女はティファ達と同じぐらいの年齢だが、その年齢にそぐわない胸のサイズを誇っていた。しかも、格闘家の衣装はそういのがハッキリと分かりやすい上に、先程の気合を入れたポーズは胸が突き出る形になるので、余計に目がいってしまうのも仕方ないだろう。


「では!ギルドディア到着記念で!ギルドディアの門まで兎跳びで入門を!!」


と、何故か少女は兎跳びをする態勢をとり、門番の兵士達は先程とは違う意味で少女に注目してしまう。しかし、少女はそんな門番の視線は気にせずに兎跳びを開始する。が……


「あっ……!?」


少女は兎跳びした瞬間に躓いてしまい、転んで倒れ……そのまま動かなくなってしまった。


「へっ!?ちょっ!?君!?大丈夫か!?」


倒れたまましばらく動かなくなった少女の異変に気づき、門番の兵士達は急いで少女の元へ駆け寄って行った。



              第一部 完

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