大盾使いの少女は幼馴染の両親と会う

  そして、ついに本日ティファとガブリィの決闘が王太子アルフレッドの名の下に開催された。王家が作ったコロシアムでは、沢山の商業ギルド関係者が出店を開いて商売していた。観客は平民が数多くいたが、中に王侯貴族まで観戦に来ていた。

  王侯貴族の目当てはもちろんティファだった。ティファの噂はすでに貴族の間でも話題になっている。なので、貴族達は彼女の実力が如何程のものなのか、もし実力が本当なら彼女と結びつきが出来ないか、最悪彼女の生い立ちを調べた者は、自分の家に養子縁組出来ないかと考える者までいた。


  そんな注目の的であるティファはというと……


「うぅ!?どうしよう!?まさかこんな大きな大会になるなんて!?緊張するよぉ〜!!?」


ホウオウ討伐した時よりも緊張で1人ブルブルと控室で震えていた。ホウオウと対峙した時の緊張と、今の緊張はタイプは違うとは言え、知らない者からみたら、まさかこんなに震えている少女があのホウオウを討伐したとは思わないだろう。


「と……!?とにかく……!?まずはしっかり準備体操を……!?」


  試合開始まであと数時間なのに、今更試合の前の準備体操を始める為に立ち上がるティファ。するとそこに


「ティファ!!」


ティファがいる控室の扉を音を立てて入ってきた人物にティファは目を見開いて驚愕する。


「えっ!?ステラおばさんに!?ロイおじさんまで!!?」


ティファの控室にやって来たのは、真紅の長い髪を靡かせた綺麗な大人の女性と、茶色の短い髪型に筋骨隆々の無表情で強面の顔つきの男性だった。


「ちょっと!?お母さん!?お父さん!?ティファはもうすぐ試合なんだから控室に勝手に入ったらダメって言ってるでしょ!?」


その女性と男性を止めるように入ってきたのはリッカである。そう。この女性と男性こそ、リッカの両親であり、ティファの家族が亡くなった後も、リッカと同じように育ててくれた、ティファにとっては半分育ての親とも言える2人である。


「固いこと言わないの!リッカ!どうせティファの事だから!緊張でブルブル震えてるんだろうから!緊張を解すのにこういのは必要さ!」


  まるで見てきたかのように、正確に先程の自分の様子を言い当てるステラに、ティファは思わず乾いた笑みを浮かべる。ステラは今度はロイの背中をバシバシと叩き


「ほら!ロイ!あんたからも何か言ってあげな!」


ステラにそう言われ、ロイは黙って頷くとゆっくりティファの前に歩み寄る。強面で筋骨隆々の男性が近づいてきたら、普通の人ならビビって一歩後ずさるが、ティファはロイがどういう人かよく知ってるのでそんな事は絶対にしない。


「ティファ。お前なら大丈夫だ。絶対勝てる」


ロイはただ一言それだけ言うと、ステラの隣に下がった。冷たく無感情な感じに聞こえるが、ティファは本当はロイが優しく、それで口下手な人物である事を知っているので、ティファは「はい!ありがとうございます!ロイおじさん!」と素直にお礼の言葉を述べた。


「全く!相変わらず口下手な旦那だねぇ〜!まぁ、私もロイと同じ気持ちさ!あんたなら!パワハラやセクハラばかりする奴なんかに負けやしないさ!」


ステラがそう言って励ましてくれたので、ティファはステラにお礼を言ったのだが、ふと、ステラの言葉が気になってティファはジト目で幼馴染を睨む。


「ねぇ……ステラおばさん達が私がガブリィさんにキツくあたられてるの知ってるみたいなんだけど……」


「…………その……私がセクハラされてるって事を里帰りした時に話した時に……つい……ポロッと……」


「もう!リッカ!おばさん達には心配かけたくないから黙ってて約束したのに!!」


ガブリィに不遇な目にあってる事は、ティファはリッカにステラ達には内緒にするように言っていた。それは、心配をかけたくないのも理由の一つではあるが、冒険者を辞めるように言われるのを恐れたからである。そんなティファの気持ちを察したステラは


「安心しな。もう今更あんた達の夢や「約束」に反対するつもりはないよ」


ステラはそれこそ、最初は2人が冒険者になるのを猛反対した。しかし、2人の決意があまりに固かった為、2人の内どちらか1人でも冒険者の適応が無かった場合諦めて帰るのを条件に許した。が、2人共冒険者適応の資質があり、ステラとロイは素直に2人の門出を応援する事にしたのである。


「ただね、決して無理や無茶はするんじゃないよ。もし、あんたが亡くなったら……私達はサナにヒイロにリリィの墓に行けなくなっちまうよ……」


ステラが口にした名前、それはティファの母と父と妹の名前だった。そして、ティファはシンシアの親友の話を思い出す。リッカだけじゃない。自分を我が子のように育ててくれたこの人達まで悲しませる事になる。だが、それでも……


「ステラおばさん。ロイおじさん。もちろん私は私の出来る範囲で頑張ります。けど、私はもう大事な人を失いたくない……みんなを守る為の盾になりたいんです!」


ステラの目を見て、決意を込めた眼差しでそう語るティファに、ステラは驚いていた。基本引っ込み思案なところがあり、滅多に自己主張しないティファ。ここまでハッキリとした自己主張してきたのは、あの冒険者登録をしたいと言ってきた時以来かもしれないと、ステラはフッと微笑を浮かべ


「そうかい。なら!この試合!きっちり勝って証明してきな!あんたがみんなを守る盾だってね!」


「はい!分かりました!ステラおばさん!」


気づけばティファの震えは止まっていた。本当に自分の緊張を無くす為にやって来てくれたのかもしれないと、ティファは心の中でステラ達に感謝を述べ、ゆっくり試合会場の入場ゲートへと歩いて行った。



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