大盾使いの少女はホウオウと対峙する

  圧倒的な存在感を誇るホウオウに、ティファの足が震える。気の強いリッカでもそれは同様だった。ホウオウはそんな2人を羽虫のような存在と見てるのか、さっさと殺してしまおうと口から炎を吐き出した。


「ッ!?『挑発』!!」


もはやそれは反射的に動いた行動だった。ティファはリッカから離れて、『挑発』のスキルを発動する。ホウオウはティファの『挑発』を受けてぐるりとティファの方を向き、ティファに炎を吐き出す。


「ッ!?ティファ!?」


リッカが悲痛の叫びをあげる。いくら自分の幼馴染が規格外の防御力の持ち主といえど、Sランク指定のホウオウの攻撃は耐えられないと思っていた。ところが……


「うぅ……!?リッカの火魔法もだけど……やっぱり炎を直接受け止めるのは暑くてやだなぁ〜……」


「ティファ!?無事なの!?」


「うん。火の攻撃だから暑いとは感じるけどダメージは通ってないよ」


ティファは笑顔でそう言ったので、本当にダメージは通ってないのは一目で分かった。


(火傷や黒焦げのような状態異常にもなってないし、ホウオウの炎は灰すら残さず焼き尽くすって話なのに……)


だが、それを喰らったティファの感想はただ「暑い」だけだった。ティファの最早人外に近い防御力に呆然とするリッカ。

  しかし、ホウオウは呆然とさせる余裕も与えず、次の第二波の炎を吐き出した。だが、炎を受け止め無傷だった事で、少し冷静になったティファがすぐに対処する。


「今度は貴方が暑いおもいをしなさい!『プロリフレ』!!」


ティファはホウオウの炎を受け止めると、すぐに『プロリフレ』を発動して攻撃を跳ね返す。スキルは見事に発動して、大盾から巨大な波動がホウオウに放たれたのだが……


「あれ?全然効いてない?むしろ……元気になってる?」


大盾から放たれた波動が直撃したはずなのに、ホウオウには全く効いておらず、むしろ元気になったようにティファには見えた。ティファは気になって、ホウオウの攻撃を受け止めつつ、『サーチアイ』を発動したところ……


「うわぁ!?ホウオウは火属性攻撃を受けると回復って出てる!?」


「……なるほど。だからさっきの『プロリフレ』による跳ね返ったのは効かなかったのね。ホウオウが吐き出した火の攻撃を跳ね返したから……」


ティファが『サーチアイ』によって出した情報をそう冷静に分析するリッカ。しかし、これは非常に厄介である。ティファがいくらホウオウの攻撃を受け止められるとはいえ、『プロリフレ』でいくら跳ね返しても向こうには通じない。おまけに、ティファもこのまま炎を受け止めていたら、ダメージは通らなくても暑さでやられるかもしれない。ここはなんとか撤退するべきかとリッカは思ったが……


「ちょっと待って!?リッカ!ホウオウは弱点属性は水と氷属性ってなってるよ!!」


「はぁ!?弱点属性があるの!?」


まぁ、炎を吐いてくる魔物だから水や氷の属性攻撃には弱い可能性はあったが、まさかSランク指定の魔物に弱点属性があるとは思わなかった。

  だが、相手は「魔術師殺し」と呼ばれている魔物である。もしかしたらと思い、リッカはティファに尋ねてみた。


「ティファ!そいつ魔法耐性とか持ってる!?」


「う〜ん……特にそういった事は書いてないよ……?」


ホウオウが吐き出す炎を大盾で受け止めながらそう返答するティファ。そんなので何故「魔術師殺し」と呼ばれているか分からないが、もしかしたら勝てる希望が出てきたリッカはティファに指示を出す。


「ティファ!悪いけどそのままホウオウの炎を受け止めて!その間に私が特大の魔法をぶっ放してやるから!!」


「了解!任せて!」


ティファが必死でホウオウの攻撃を受け止めてる間に、リッカは念のためホウオウの後方のだいぶ離れた位置まで移動して呪文を唱えはじめる。


(本当は火属性魔法のが得意なんだけど……)


魔術師は各属性の魔法は使うが、人によってこの属性の魔法の方が得意というものは存在する。リッカは真紅の髪に似合う火属性魔法の方が得意だ。だが、だからと言って他属性魔法が使えない訳ではないし、魔力900000の数値の威力は伊達ではない。


「凍てつきなさい!ダイヤモンド・ダスト!!」


リッカは氷属性の上級魔法をホウオウにぶつける。弱点属性の魔法を受けたホウオウは悲痛な叫びの鳴き声をあげる。しかし、相手はやはりSランク指定の魔物だった。ティファの魔法を受けてもまだ動いていた。


「くっ!?やっぱり得意属性の魔法じゃないからそんな効いてないか……!?」


「いや!効いてるよ!HPも半分近く削れてるよ!流石リッカ……って!?危ない!?『カバー』!!」


リッカが魔法を放った事で、リッカの存在に気づいたホウオウがリッカめがけて飛んだのに気づいたティファは慌てて『カバー』を発動してリッカの元まで移動する。


「爪での攻撃なら……!『プロリフレ』!!」


脚の爪による攻撃ならばと、ティファは瞬時に『プロリフレ』を発動。大盾から再び波動が放たれ、今度はホウオウに大きなダメージを残す。


「やった!HPが4分の1ぐらいまで減ったよ!!」


「よし!このまま私が畳み掛けて……」


しかし、ホウオウの周りのオーラが7色の強い光を放つ。その光の眩しさに2人は思わず一瞬目を瞑る。目を開けると、そこには先程と変わらずダメージを負って瀕死に近いホウオウがいた。しかし、『サーチアイ』を発動しているティファに絶望的な情報が流れてくる。


「えっ……!?嘘……!?そんな……!?」


「何!?ティファ!?どうしたの!?」


「……あのホウオウ。魔法攻撃無効になってる……」


「何ですって!!?」


ようやく2人はこの時になってホウオウが「魔術師殺し」と呼ばれる所以を理解した。希望がようやく見えた後の絶望。間違いなく「魔術師殺し」だった……

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